snow(3/3)

「グラララララ!こんなところにいたのかマルコ。サッチおめェが遊んでくれてたのか?」
「オヤジ!」
 嘘を言ってるとも思えない相手にどうしようと悩んでいたら、まさにその白ひげがやってきた。60を越える年齢ととても見えないがっしりした体に隣にいた子供がぴょいと飛びつく。
 二人の様子は先ほどの言葉を肯定するかのようにとても親しげでサッチは少しほっとして、子供が幼馴染と同じ呼び方で白ひげを呼んだことに不思議に思った。
「オヤジって、そいつイゾウの弟?」
 まるで容姿は似ていないけど、オヤジと呼ぶのならばありえないことではないかもしれない。そう考えることができるくらいにはサッチは白ひげ一家との付き合いがあった。
「イゾウを知ってるのかよい?」
 サッチが首をかしげて聞けば、相手も同じように不思議な顔をした。
 お互い顔を見合わせてきょとんとしていたら、白ひげはまたグララと笑ってサッチを手招く。
「なんだまだ何にも話してねェのか。イゾウに言っとくように言ったんだがな」
「帰ったらなんか話があるってはいってたけど」
 3つ違いの黒髪の幼馴染はずっと幼い頃に白ひげに引き取られてきた。
 その理由は知らなかったけどイゾウとジイさんは仲の良い家族で、イゾウは本当の親父みたいに白ひげをオヤジと呼んだ。
 小さい頃に父を亡くしたサッチはそんな二人が羨ましくて、それにきっと気付いてたイゾウはスパルタだったけど本当の兄みたいにサッチに構ってくれた。
 母が仕事でいない間ご飯を一緒に食べてくれたのも、サッチに料理を教えてくれたのも。甘いしょっぱいと文句を言いながらもいつだって最後には褒めてくれた。
 白ひげもその大きな膝にサッチを乗せてよく話をしてくれたし聞いてくれたから、自分だけ仲間はずれみたいな今があんまり面白くなくてサッチはちょこっと口を尖らせる。
「じゃあ、名前からだなあ。サッチ、こいつぁマルコだ。
 ちょっと理由があってこれから一緒に暮らすことになった」
 またグララと笑った白ひげは自分の足に引っ付いたままのマルコという名前らしい子供の頭を大きな手で撫でた。
 マルコはくすぐったそうに笑ってその手にぐりぐりと頭を押付けたから、白ひげに懐いてるのがすごく分かって、拗ねた自分がちょっと恥ずかしくなる。
「マルコ、こいつぁサッチっていってな、小せえ頃から隣に住んでる。気立てのいいやつだから、同じ小学校に通うし困ったら頼ってやればいい」
「いってぇ!」
 マルコと反対側に寄ったサッチの背中をバシンと叩いて、それから優しい手つきで頭を撫でてくる白ひげに照れくさくなって、結局マルコと同じようにその手に頭を押付けた。
「なんだ二人揃って猫の子じゃねえんだから、そうこそばゆいことするんじゃねえ。グラララララ!」
 そう笑いながらも手を止めない白ひげにサッチもマルコも思う様すりついて、また目を合わせて二人でくすくすと笑う。
「あ、なあジイさん。マルコおれと同じ年?下?」
「ああ、本当ならサッチよりひとつ年は上なんだが、少し体が弱くてなあ。お前ェと同じ学年に春から通うことになる」
 さっきから聞いてみたかったことを素直に口にだせば、嬉しい同意と思いがけない言葉が返ってきた。
「ほんとか!? でも体弱いってマルコ大丈夫なのか?」
「なあに心配するほどじゃねェ。すぐサッチと変わらねェくらいのやんちゃ坊主になりやがるだろうよ」
「・・・うん。だいじょうぶ」
 マルコが年上ということよりも体が弱いというのに驚いてうろたえだすサッチに、安心しろと白ひげは頷いてやる。田舎の空気は小さなマルコを健康にするだろうし、面倒見の良いサッチが一緒ならば尚更だ。
「そんなら、いいけど・・。でも、なんかあったらおれに言うんだぞ!」
「うん」
 実は人見知りのするサッチと人から距離を置きがちのマルコが仲良くなれるか心配だった白ひげは、打ち解けた二人の様子を見て杞憂だったと安堵の息を漏らす。
「なあジイさん遅くならないようにするから、マルコと一緒に遊んでいい?」
「雪あそび・・・」
「グララおれに聞くことじゃねェだろうが。子供は遊んでこそだ!気をつけて遊べばそれでいい。サッチ、マルコのこと頼んだぞ」
「うん、わかった!」
 元気良く頷いたサッチとマルコに目を細めて笑った白ひげは、二人の頭をぐしゃぐしゃにして一足先に先に帰っていった。
 いつになく嬉しげだったそのゆったりとした大きな背中にバイバイと二人で手を振って見送ると、サッチは早速何して遊ぼうと頭をひねる。
「さて何しよう・・・雪合戦?雪だるま作り?マフラー巻いても長くは遊べないよな・・・」
 徐々に同じ年頃の友達が公園に集まりつつあるけど、雪に慣れてないマルコに初っ端から雪球を投げつけあうというのはハードルが高い気がする。
 最初は気を使っていても、熱中すればあっという間にそんなものはどこかにいってしまう。
「でも雪だるま作るには雪がなあ?」
 ふわふわと軽い雪は両手いっぱいにすくって握っても、ビー玉くらいにしかならない。
 これを雪だるまの大きさまでに育てようと思うと結構大変だ。ある程度まで握って中心となる球を作ったら、今度は積もった雪の上に転がして大きくしていく。
 だけど吹けば飛ぶ軽い雪では転がすどころか、球が埋まってしまってしまうのだ。
「そうだ雪兎!えっと、マルコ、雪兎つくろうぜ!」
「ゆきうさぎ?」
 何も全力で雪遊びをしなくて、雪が珍しいマルコならば雪兎だって珍しいはずだ。
「雪で兎を作るんだ。まず、両手にたくさん雪をのせてぎゅーっと固める。手の平の半分くらいの大きさになったら、左手に固めた雪を載せて」
「ぎゅー、ぎゅーっ。・・・このくらい?」
「うんうん、でまた雪を固めてくんだけど、今度は右手をカップの形にして雪をすくってそのまま上のほうに重ねていくんだ」
 小さな頃から誰に教えてもらわなくてもできたことを言葉にするのは意外に難しくて、サッチは実際にやってみせた。
 マルコはサッチのつたない説明にも戸惑うことなく、サッチと同じものをぎこちない手付きで作っていく。羽のような雪をすくって握って、単純な繰り返しでもマルコは楽しそうだった。
「そしたらどんどん上が丸くなってくから、手のひらの大きさまで作ったら、本当の兎をさわるみたいにそーっとまわりを撫でる。そうしたら兎が座ってるみたいな丸い形になるだろ?」
「でもまだ兎に見えないよい?」
「耳と目をつけるんだ。えっと南天はないから椿でいいか・・・」
自分の左手の上に作った雪兎を壊さないように、サッチは近くにある生垣から目と耳の材料を集める。
 公園を囲むように植えられた赤い椿は昨日の吹雪のせいで葉と開く前の蕾を根元に少し落としていた。咲けなかった蕾でも黒い外側を少しめくれば綺麗な赤い色が覗くから、兎の目用に綺麗なものを選んで耳用に深緑の葉を数枚拾う。
「この赤い蕾を目の位置にそーっと埋め込んで、はっぱを耳の位置に差す、と」
 マルコに蕾と葉をふたつずつ渡して、見本代わりに自分のに葉と蕾を埋め込むとさっきまでただの雪のかたまりだったのが、赤い目と緑の耳を持った兎になった。
「ほんとだ・・・!」
「へへ、これが雪兎!可愛いだろ?」
 サッチの見よう見まねで雪兎を完成させたマルコは手にのる雪兎と真反対の色の目をきらきらと輝かせて破顔した。
 雪国の子供なら幼稚園に上がる前には作るものでこんなに喜んで貰えるなんて思わなかったから、少し気恥ずかしくなったサッチは寒さで赤くなった鼻をこする。
 雪だるまやカマクラを作ったらどんな反応をしてくれるのか、今からわくわくしてしょうがない。
「すごいよい!」
「もう少し雪が積もったら今度は違うもの作ろうぜ。でっかい雪だるまとか!」
 こーんなに大きいの!とサッチが手振りで大きさを表すと、楽しくてたまらない様子のマルコが満面の笑顔でサッチの頬にキスをよせた。
「ありがと、サッチ!」
「・・・う、え、うわ!」
 軽い音を立てて離れたマルコの唇がにっこりと笑いを刻んだのを見て、サッチは自分がキスをされたのだとやっと理解して思い切りこけた。
「だいじょうぶ・・・?」
 突然雪の中に倒れこんだサッチを心配してマルコが覗き込んできたが、サッチは顔が真っ赤になりすぎて返事ができなかった。キス、マルコがおれにキス!?
「サッチ?」
「マルコ、い、いまの・・・」
「・・・ダメだった?イゾウが家族や友達にしんあいのじょうをあらわす時にするもんだって・・・」
「ま、まちがってはないかもだけど・・・」
 サッチがしどろもどろに尋ねれば、マルコが無邪気に幼馴染の名を告げた。イゾウは絶対マルコが分かってないのを知ってて言ったに違いない。
「サッチ、これ持ってかえりたいよい」
 頼もしいけれど悪戯心溢れる幼馴染に頭を抱えていたら、オヤジにも見せたいとマルコが両手で大事に雪兎を抱えていた。
「あ、そうだな、ジイさんに見せにいこうぜ」
 今はまだ大丈夫だが手袋越しとはいえ手のひらに載せたままだと溶けていってしまう。その前に見せにいこう。
 マルコが初めて作った雪兎をきっと白ひげも喜んでくれるに違いない。
 サッチが初めて作って焦げた卵焼きを上手くできたと褒めてくれた時みたいにきっと。
「サッチ」
   そうと決まれば雪の中に埋もれていてもしょうがないと身を起こして、つぶしてしまったランドセルと全身についた雪を払い落としているとマルコが呼んだ。
「マルコ?」
「これから、一緒?」
 小さなマルコの声は粉雪みたいにさらさらとサッチに降りかかって、サッチの一番大事なところへ暖かく届いた。
 落ちかけた夕日を厚く遮る冬の雲のように、白い毛糸の帽子と緑色のサッチのマフラーに埋もれたマルコの顔はあまり見えなかったけど、こぼれる金色の髪だけは微かな夕陽を受けてきらめいていた。さっきサッチの目を引いたそのままの光で。
 初めて会ったばかりでまだ何にもわからないけど、ずっとマルコと一緒にいたいとサッチは思った。
「これからずっと、一緒にいような!」
 いい予感はきっとマルコのことで、いいことがあったと一言で済ませるにはとても大きすぎることだけど、マルコと一緒ならいいことがずっと続く気がした。
 ずっと、ずっと



『For now.』のado様より頂きました。
誕生月の方のリクエスト受け付けるということでショタサチマルをリクエストしちゃいました。
可愛いちびっこ達にきゅんきゅんしますwww
無邪気なサチマルいいなぁ。和む(●´ω`●)
最後のサッチの気持ちに私も共感w
これからもっと仲良くなるといいよね!きっとなるよね!
素敵な小説、本当にありがとうございました♪


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