[追いかけっこ A]

自分の事を好きだと、恋仲同士になったと言って下さった扉間様の言葉がずっと頭をぐるぐると回っている。
さっきよりも優しくて熱い口付けに身体が動かない。
それに、さっき扉間様に言われた言葉を思い出すとまた顔が熱くなる。
「兄者と共謀し、ワシを術でたぶらかそうとした者には仕置きが必要だな。覚悟しておけ」と今までに聞いた事も見た事も無いぐらい色気たっぷりに言われた。
扉間様のあんな顔、初めて見た。
そして、その顔を自分に見せてくれているという事がもの凄く嬉しい。

それに、今になって実感が湧いて来たのか、どきどきして身体中が熱い。
予想外の展開につい、無意識に扉間様の服をきつく握る。

「くくっ、いつもの威勢はどうした。やけに大人しいな」

胸に顔を埋めたままそう言われ、恥ずかしさが一気に上がる。
これから何をするのか分からない程子供ではないし、こういう経験が無い訳でもない。
今まで敵から情報を引き出す為に身体を使う事はあったが、好きな人とこういう事をするのは初めてで、扉間様の一挙一動につい動揺してしまう。
きっと心臓の音も聞こえているのだろう。
小さく笑い声が聞こえて来る。

ずっと恋い慕って来た憧れの人がこんなにも近くに居て、自分を好きだと言い触れて来るのだから緊張しない筈が無い。
余裕があるのはいつも扉間様の方で、それを全部分かっていての笑い声だと思うと少し悔しい。
かと言ってそう簡単に緊張が解ける事は無く、また笑い声が聞こえて来た。

「…仕方ないじゃないですか。扉間様の事ずっと好きだったんですもん…」

こんな状況で改めてそう言葉にすると、今までずっと言って来た筈の言葉なのにやけに恥ずかしく感じ、段々と声が小さくなってしまった
顔は見られていないのに、恥ずかしさのあまり片手で顔を覆い隠す。
顔を覆い隠したまま黙っていると胸から顔を上げる気配を感じたが、今は扉間様の顔を直視出来る自信が無い。
きっとまた笑われるに違いない。
そんな事を考えながら顔の熱が引くのを待っていると、急に腕を取られ、また口付けを落とされた。

***

まさか、あの名無しに落とされるとは夢にも思っていなかった。
こんな風に触れて感じたいと思う程に愛らしく思うし、口付けの合間に漏れる吐息にも愛しさを感じる。
愛撫する度に素直な反応を示す名無しは普段の姿からは想像出来ない程に艶っぽく、女を強く感じさせる。
引き締まった身体は綺麗だと思うし、こちらを見つめる表情も堪らない。

内心苦笑いを浮かべつつ愛撫を続ければ、髪に触れる名無しの手に気付く。
強くも弱くも無い丁度良い加減で髪を梳きながら撫でられる。
それがやけに心地良い。
頃合いを見計らい服を脱ぎ捨て舌を絡ませれば、頭を撫でていた手は首へと周り抱き締められる。

「はっ…、扉間様…」

自身を宛がい奥へと進めば、耳元で吐息交じりに名前を呼ばれる。
今までに聞いた事が無い程に艶めかしい声は、肌に感じる感覚と相まっていとも簡単に理性を揺さ振る。
ゆるやかに腰を動かし始めれば、それに合わさる様に名無しの口からも艶めかしい声が漏れ始める。
深く一秒でも長く感じていたい。
そう思い腰を動かしながら名無しの顔を見下ろせば、とろんとした瞳がこちらを真っ直ぐに見つめている。
唇は薄っすらと開いていて、時折自分の名前を愛おしそうに呼ばれる。
自身を締め付ける感覚も名前を呼び好きだと言う名無しの表情も全て。
全てに欲情する。

焦らす様に何度もゆっくりと腰を深めれば、物足りないのだろう。
少しだけ腰を浮かし、物欲しそうに身体を動かす。

「随分と物足りなさそうだな」

にやりと笑いながらそう言えば、分かっているくせに、という様な視線を向けられる。
それがやけに面白く、時折強く押し付けたりして反応を楽しむが、純粋に快楽を求める動きとは違い、ゆっくりと深く感じられるからか、いつも以上に理性が揺れる。
正直なところ、自分はもっと辛抱強い男かと思っていたが、案外そうでもないらしい。
仕返しがてらもう少し焦らしてやるつもりだったが、どうやら上手くは行かなさそうだ。
今すぐにでも動き出したい衝動に駆られる。

思った以上に深みに嵌ってしまったような感覚。
まさにそれだった。

「ん…、そんな急に、動かないで下さい…っ」

「…そんな事を気にしていられるのも今の内だけだ。覚悟するんだな」

腰を掴む手に力を込め、動きを速める。
名無しの声と息もそれに比例して激しくなり、表情も更に艶めかしいものへと変わっていった。
子供だとばかり思っていた女は想像以上に艶めかしくて、少しだけ騙された様な気分だった。

***

扉間様の言動一つ一つに翻弄されている自覚はある。
頭で理解していても、どうしても心は落ち付かない。
だけど、触れられるとすごく幸せな気持ちでいっぱいになる。
ずっと触れたくて触れて欲しかった手が自分を求めてくれている事実に泣きそうになる。

こちらを見下ろしている扉間様の顔へと手を伸ばせば、逆に優しく覆う様に掴まれ手のひらや手首に口付けされた。
それから身体を持ち上げられ、何度も口付けを落とされながら激しく揺さ振られる。

逞しい腕にきつく抱き締められながらの激しい動きに次第と息が上がってくる。
薄っすらと汗を掻き息を荒げながら動く扉間様を見るだけで身体の芯が熱くなる。
その姿はぞくぞくする程に色っぽくて格好良い。
官能的、この言葉が一番しっくりくる。

「はっ…、名無し…」

耳元で囁かれ、ぞくりと身体に電気が走る様な感覚を覚える。
鳥肌が立ち、身体がもっと欲しいと疼く。
我慢出来ずに自らも動きに合わせて腰を動かせば、自身を掴む手に力が込められ、更に強く抱き締められる。

扉間様から与えられるもの全てが愛おしくて堪らない。
抱き締められたまま後ろへと押し倒され、また自分が見上げる形になった。
先程よりも動き易い体勢になったからか、動きはより一層激しくなる。
余裕なんてどこにも無い。
快楽を求め合う激しい動きと口付けにただ、声と息が勝手に上がる。
部屋に響く情事特有の音も聴覚を刺激し、気分を昂らせる。

「はぁ、は…っ。好き、です…っ」

息も切れ切れにそう言えば、薄っすらと瞳を細められ、慈しむ様な視線を一身に受ける。
そんな視線を向けられて何もせずになんて居られない。
腕を伸ばし首元に絡め自身の元へと引き寄せ、今度は自分から口付ける。

密着した身体は熱く、身体に掛かる重みに快楽を強く感じると同時に自身の限界が近い事も感じ、無意識に下半身に力が入ってしまう。
そんな様子に気付く様に動きは激しさを増し、それから少しして自身の中で欲が広がっていく感覚を感じる。
強く押し付けられたまま息を整える扉間様の顔をぼんやりと見つめていると、何も言わずに触れるだけの口付けを落とされた。
それは情事の時のものとは違う軽い口付けだったけれど、すごく満たされて幸せだなって思った。

***

「おい」

「な、何でしょう…?」

情事の後、あのまま布団へと入ったは良いが、さっきから自分に背を向けてばかりでこちらを向こうとはしない名無しの後姿に声を掛ける。
上ずった声を聞く限り自分が何を言いたいのか分かっているのだろうが、それでも恍けたふりをするとはいい度胸だ。
無理矢理こちらに向かせても良いが、それでは面白味が無い。
少し考えた後、目の前にある背中からうなじに掛けて唇を這わしながら片手で身体の線をなぞる様に動かす。
触れるか触れないかの微妙な力加減で身体をゆっくりとなぞれば、小さく息を吐く音が聞こえた。

案の定、その行動に対してすぐに反応する名無しに構う事無く好き勝手に続ければ、観念したのか視線は揺れたままだが、ようやくこちらを向いた。
つい先程まで肌を重ね合い口付けもしたのに、未だ慣れていなさそうな名無しの態度につい笑いが漏れる。

「…意地悪ですよ」

「くく、仕方なかろう。あんな反応をするお前が悪い」

身体を引き寄せれば、拗ねた雰囲気を出しながらも大人しく腕の中に納まる名無しにまた小さく笑う。
それから他愛のない話やくだらない話をしていたら、時間はあっという間に過ぎて行った。
日付ももう変わっているだろう。
名無しも眠気が強くなって来たのか、口数も段々と少なくなって来た。
瞳を閉じ、額を寄せる名無しの背中をゆっくりと撫でてやれば、小さく感謝の言葉を掛けられた。
気持ち良さそうに大人しく背中を撫でられている姿はさながら小動物の様で、情事の時とはまた雰囲気は違うが、これはこれで悪くは無い。
静かな時間の中でこんな風に名無しと二人で過ごす日が来るなんて思いもしなかったが、思っていた以上に居心地は良い。

結局は最初から全部兄者の手の内で転がされていたのかと思うと、それはそれで腹立だしいが、手に入れられたものの大きさを考えると逆に感謝するべきなのだろう。
どうせ明日には緩んだ顔でひやかしに来る事は目に見えている。
そう思うと億劫だが、今回ばかりは耐えるしかあるまい。
そんな憂鬱を紛らわすかのように、もう既に眠ってしまった名無しの額に口付けを落とし自身も瞳を閉じる。
肌に感じる温かさが心地良くて、眠気は思っていた以上にすぐに訪れた。

翌朝、待っていましたと言わんばかりに顔を緩ませた兄者の姿を見つけ、喜ぶ名無しとそれに便乗する兄者に大きな溜息が漏れたのは言うまでもあるまい。

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