[愛とは 第四部]

*中編/あの頃の私達は、ヒロイン

抱き締められ、深く口付けをされたまま扉間が後ろへゆっくりと倒れ、その上に自身が乗っかる様な形になる。
相変わらず心臓はうるさいけれど、その感覚でさえも心地良く感じる。
貪る様な激しい口付けに頭がくらくらする。

「…言っておくが、これから先ワシはお前を手放す気などないからな」

唇が離れれば至近距離で視線が重なり、そのまま抱き締められ耳元でそう呟かれる。
その声がやけに色っぽくて身体がぞくりと跳ねる。
そのまま身体を横に転がす様に移動させ、今度は自身に扉間が覆い被さる様な体勢に変わり、またすぐに唇を塞がれる。
するすると寝巻の帯を外され、露わになった身体に何度も口付けを落とされる。
扉間から与えられる行動一つ一つに意識が集中してしまい落ち付かない。
触れられれば次がもっと欲しくなる。
愛する男に触れられるという事がこんなにも自分を狂わせるなんて、もうずっと忘れていた。

***

露わになった肌に唇を這わせながらその場所に辿り着く。
脇腹に残る真新しい傷跡。
縫合された跡が未だ痛々しく残っており、あまりの傷の深さに思わず眉をしかめる。
名無しを斬った時の事は今でも鮮明に覚えている。

斬った時の感覚も痛みに耐える声も、真っ赤に染まった手も全部。
今回は運良く最悪の事態は免れたが、この手で殺していたかもしれないと思うと今でも背筋が凍る様な思いだ。
それでも、記憶が戻りこうやって傷付けた事を後悔出来る様になった事は、せめてもの救いなのかもしれない。
あのまま、マダラが術を解かなければ自分は何も知らず、ずっと虚無の中で生きていただろう。
こうやって名無しを愛し愛される事も無かった。

「んっ…、扉間、くすぐったい…」

「…我慢しろ」

傷跡を軽くなぞる様に触れればその感覚から逃れ様と身体を捻る仕草が色っぽい。
自分の名前が名無しの口から紡がれる度に愛おしさが溢れる。
こちらを見つめる瞳も声も全てが自分だけに向けられているという事がこんなにも満たされるものだとは思わなかった。
愛は人を変えると言うが、まさかそれが自身の身に起こると誰が想像出来ただろうか。

余裕なんてない。
ただ、触れてその存在を感じたい。
もう他人に名無しの面影を求める必要はないのだから。

「わっ、ちょ…っ」

傷跡に口付けを落としながら舌を這わせれば、刺激に敏感になっているのか肩に置かれている手に力が込められる。
身体には薄っすらと鳥肌が立っており、小さく息を吐く音が聞こえた。
そんな名無しの様子に構う事なく愛撫を続ければそれから少しして自分を呼ぶ声が聞こえ、熱っぽい瞳と視線が交わる。
さっきまで泣いていたせいか、目元は未だ薄っすらと赤いまま。
そして、初めて見るその表情に自然と視線が釘付けになる。

何度も自分の名前を呼び、こんな風に見つめられて何も思わない男なんていない。
自分の知っている名無しとは違うその姿に柄にもなく少し心臓が早くなる。

「扉間…っ」

今までとは違う甘さを含んだ瞳と声が自分の名前を呼び求められる。
初めて感じる感覚に何とも言えない感情が襲う。
今すぐにでも抱いてしまいたい気持ちともっとこのまま自分を求める名無しの姿を見ていたい気持ちが入り混じる。
たった一人の女にこんなにも余裕が無くなるなんて自分自身思いもしなかった。

自分を求める姿をもっと見ていたかったが、こんな姿を見て正常心で居られる程自分は出来た人間じゃない。
ましてや、愛した女が自分を求めるのだ。
我慢出来る訳が無い。

早々に自身の纏っていた衣服を脱ぎ捨て名無しに覆い被さり唇を重ねる。
頬を優しく包む手が温かくて落ち付く。
足を持ち上げ自身を宛がい奥へと進めば、口付けの合間に無意識に熱い息が漏れ、全身を強烈な快楽が襲う。
自分と同じ様に息を吐く名無しの顔には痛みを伴うのか、瞳を閉じたまま薄っすらと眉間に皺が寄っており、少しだけ首に回されている手に力が込められる。
そんな名無しの様子に一度動きを止め、落ち付くのを待っていれば、それに気付く様に瞳が開けられ艶っぽい視線を向けられる。

「はぁ…っ、大丈夫だから、早く…」

名無しのその言葉とまるで今にも泣き出してしまいそうな顔に一瞬で胸が高鳴る。
そんな事を言われて我慢出来る筈もなく、そのままゆっくりと律動を開始させれば段々と滑りも良くなり、名無しの表情も少しずつ艶かしいものへと変わっていった。
快楽を求め自然と早くなる動きに合わさる様に吐き出される息と声が静かな部屋に響き、聴覚を刺激する。

***

久しぶりに感じる刺激に全身が粟立ち、ぞくぞくと肌に感じる感覚が愛おしい。
自分を見下ろす熱っぽい瞳も身体に掛かる重みも全てが扉間から与えられるものだという事を実感すればする程、自分をただの女へと変えて行く。
結局、扉間を拒む事も自分の気持ちを隠し通す事も出来なかった。
ただ貪欲にその愛を欲しいと思った。

今だってそう。
すぐにでも扉間を感じたくて欲しくて堪らなかった。
自分でもはしたない女だなとは思うが、こればかりは仕方が無い。

「名無し…っ」

こんな風に名前を呼ばれて求められれば身体も勝手にそれに反応する。
何もかも、全てが今までとは違う。
ちゃんと互いの心がここに在るだけでこんなにも愛しく感じ合える事が出来る。
愛した男に抱かれる事がこんなにも自分を変えてしまう。

求めればすぐに触れられて手にする事が出来るこの距離感が堪らなく心地良い。
この気持ちを自分の中に留めて置く事など出来なくて、もっと言葉で伝えたいけれど、そんな想いとは裏腹に自分の口からはただ与えられる快楽に対して息と声を上げるだけ。
それでも、その合間に扉間の名前を呼べば、今まで見た事がないぐらい扇情的な瞳で見つめられ口付けを落とされる。
そのまま抱き起こされ、揺さ振られながらの激しい口付けに自然と息が上がる。
少しして唇が離れたかと思えば、今度は首筋や胸に舌を這わせられ愛撫される。

「んっ、はぁ…、だめ…」

内側と外側からの刺激に身体全体に鳥肌が立ち、ぞくぞくする。
その感覚に無意識の内に締め付けてしまったのか、扉間の口からは噛み殺した様な息が漏れる。
我慢出来ず首元にしがみつく様に抱き付けば、それからすぐにおかしくなってしまいそうな程の快楽に襲われる。
全身の痺れる様な感覚に声が出ない。
そんな自分の様子に気付く様に激しい動きは緩まったが、それでも規則的に揺さ振られ、快楽の波が消える事はなかった。

「っ、…随分と締めるな…、達してそうそう悪いが」

「ん、ちょ…待って、うあっ…ぁ」

「…もう我慢出来そうにない」

そう耳元で囁かれ、視線が合った次の瞬間には押し倒されさっきと同じ体勢で更に激しく腰を打ち付けられる。
快楽を求める激しい動きに為されるがままに声が漏れる。
達した事によって敏感になり過ぎているのか、自分の意思とは関係なく下半身に力が入る。
上から見下ろす扉間の瞳には自分が映っていて、時折細められる瞳は酷く優しかった。
その瞳を見ていると自分の意思ではどうにも出来ない程に愛おしくて、自然と涙が零れ落ちる。
こんな風に愛されて幸せだって心からそう思った。

***

本当はもっと優しく抱くつもりだった。
いくら傷が癒えたからとはいえ、無理な事はしたくなかったから。
それに、名無しの性格や様子を見る限り、自分と別れた後も他の男と同衾していない事はすぐに分った。
だからこそ優しくしたかったのに、途中から我慢出来ず、結局は名無しが達した後も制止の声を振り切り激しく揺さぶり続けている。

「っ、はっ…」

自身を締め付ける感覚に耐える様に息を吐きながら、声を上げて善がる名無しの姿を見つめる。
瞳には涙が浮かんでおり、ぽろぽろと止まる事無く流れていた。
その顔がまた堪らなく官能的で、まるで煽られている様な感覚に陥る。

前屈みになりながら身体を密着させ唇を重ねれば、口付けの合間に聞こえる艶めかしい息遣いが頭に残り、より一層気持ちが昂る。
名無しの腕が首に回り、動きに耐える様に力を込める姿にある種の高揚感を覚え、更に自身に熱が集まるのを感じた。
体重を掛ける様に押し込む度にどんどん自身の息も荒くなる。

「ん…ぁ、扉間…っ」

「はっ…、くっ…」

そろそろ自身の限界も近い。
少しずつ吐精感が近付くのを感じ、乱暴に舌を絡めればそれから少しして名無しの中で何度か脈を打ち広がって行った。
高鳴る心臓と息を落ち付けようと余韻を味わう様にゆっくりと前後に動かせば、未だ締め付けを感じる事が出来る。
薄っすらと開かれている唇からは息を整えようと何度も深く息を吐く音が聞こえた。

それから少し落ち着いた頃を見計らい名無しの身体を抱き上げる。
支えながら正面から見つめれば、自身にもたれ掛かかっていた顔を上げ、何度も口付けされる。
先程のものとは違う啄ばむ様な軽い口付けだが、それでも自身を満たすには十分なものだった。

「…さっき言った事、ちゃんと守ってよ」

首元に顔を埋めながらそう小さく可愛らしい事を言うものだから、つい顔が緩む。
こういった小さな事にでさえ一喜一憂する自分を少々情けなくも思ったが、今日ばかりは仕方あるまい。
抱き締めながら身体全体で名無しの存在や匂いを頭に焼き付ける。
その言葉に「覚悟しておくんだな」と返せば、また少し顔を上げ、嬉しそうに微笑む名無しの表情が目に入る。
初めて見るその表情はずっと自分が見たかったもので、ようやく辿り着いた気がした。

「愛してる」
もう一度、その言葉を伝えれば、次はどんな顔をするだろうか。
ようやく手にする事が出来た。
もう名無しを手放す気も名無しを残して死ぬ気も無い。

これから先、自分達に何が起こるのかは誰にも分らない。
それでも明日からはきっと今までとは全く違うものになるだろう。
自分に守られる程弱くはない女だが、それでも名無しを守り共に在りたいと心から思う。
そう思いながら抱き締める手に力を込める。

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