[真贋]

*中編/あの頃の私達は、ヒロイン

飛雷神の術で部屋へと運び、適当に椅子に座らせる。
名無しに背を向け、寝具の準備をしている最中にも何かを言っていたが適当に返事をしていた為、内容までは聞いていない。
準備を終え「着替えて寝ろ」と一言言い残し部屋を後にする。

しかし、自室へと戻る途中もちゃんと寝たかどうかがどうしても気になって仕方が無かった。
万が一あの状態で儀式の間に戻られては困る。
今は大人しく寝てくれるのが一番良いのだ。
そんな心配もあり仕方なく踵を返し部屋を見に行けば、部屋に居たは良いが、あの格好のまま直接布団に横になっており、溜息を吐きながら仕方なく起こす。

「おい、そんな格好で寝るな。皺が付くぞ」

眠っている所を起こされ、少し唸った後に薄っすらと瞳を開ける。
ミトから借りたのだろうと言えばまた少し唸った後に覚束ない手付きで着替え始めた。
女の着物とは随分と不便なもので、何重にも重ねて着ている為に脱ぐのも一苦労だ。
胡座をかきながら着替えをじっと見ているのも変だが、自分がこのまま部屋に戻れば確実にそのままの格好で寝るであろう名無しの姿が容易に想像出来る為、
仕方なく着替えが終わるまで待つ事にした。

しかし、それが間違いだったのかもしれない。
目の前で着替えられれば当然視線は、女性特有の膨らみや首筋、腰、足へと向かう。
ましてや今は酒が入っており警戒心が無く、いつもと違う姿に化粧までしている。
ダメだと分かってはいても、どうしても見入ってしまう。
なるべく見ない様に視線を逸らすが、そんな自分の様子を変に思ったのかフラフラとこちらへ肌着姿のまま歩いて来る名無しの姿が目に入り、
そのままその様子を見ていると、胡座をかいている足の上に座りもたれ掛かりながら嬉しそうに笑うものだから、驚きと同時にどうして良いのか迷う。

一向に退く気配も感じられず、つい、その柔らかな身体と体勢に我慢出来ず、背後から露わになっている首筋に口付けを落しながら肌着の上から柔らかな胸を揉み拉く。

「んっ、ん…ぁ」

薬のせいなのか、それともただ酒が入っているせいなのか、快楽には忠実ですぐに名無しの口からは甘い声が漏れる。
下着を退け直接触れば更に甘い声が漏れ、それがより一層自身を昂らせる。

さっきまでの体勢が気に食わなかったのか、今は名無しが自身を押し倒して馬乗りの形になっている。
普段とは違う様子に媚薬でも盛られたかと確信しつつ後ろめたさを感じるが、今更止められはしない。
名無しから落される口付けと肌に感じる柔らかな感触に興奮する。
自身も酒が入っているせいかいつもより理性は効かず、すぐに身体が反応してしまう。
それに気付いたのか、名無しの唇が離れたかと思うと今度は猛った自身を口に含み愛撫し始めた。

「…っ、随分と可愛い事をするな…」

顔に掛かる髪をどける様に撫でれば、瞳を閉じながら小さな口で頭をゆっくりと動かす姿に自然と熱い息が漏れる。
乱れた服から覗く白い肌がやけに色っぽく感じ、つい魅入ってしまう。
肌に感じる感覚と視覚からの刺激が相まってかいつも以上に身体が敏感に反応する。

***

普段と違う従順な姿もそうだが、今の顔は今まで見たどんな表情よりも柔らかくて、まるで愛しい者を見る様なそんな瞳をしていた。
さっき自分を助けた時の様な作り物の笑顔ではなく、名無しの本来の姿を見た様な気がした。
正直なところ、見なければ良かったとも思った。
こんな事になるのならば、あのまま部屋に戻れば良かったと今更ながらに後悔したが、もう後の祭りだ。
今この状態で止められる程、自分は紳士でもなければ、善人でもない。

「んんっ、あっ…」

名無しの手を引き自身に跨らせ、そのまま腰を掴んで下ろさせる。
自身をきつく包み込む感覚に熱い息が漏れ、無意識に腰を掴んでいる手に力が入る。
床に手をつき、啄ばむ様な口付けを落としながら自ら腰を動かす姿はまた格別で、今すぐにでも欲望のままに抱きたかった。
さっきまでの後ろめたさなど、もうどこかへ行ってしまった。

「んぁ、はっ…!あ…っ」

「はぁ…!っ…、薬なんか盛られおって…。女なんだから、もう少し危機感ぐらいは持つんだな。ワシも男だぞ…っ」

明日には忘れてしまう事ぐらい分かってはいるが、そう耳元で呟いた後そのまま唇を塞ぎ、下から突き上げながら身体ごと揺さぶる。
舌を絡ませながら突き上げれば、激しい動きに合わさる様に名無しの口からは艶のある声と息が漏れる。
動く度に漏れる声をもっと聞きたくて、一度名無しの中から自身を引き抜き、そのまま四つん這いの体勢にさせ背後から挿入する。
乱れた髪から覗くうなじや背中に口付けしながら、本能のまま叩きつける様に腰を打ち付ければ、艶やかな嬌声が動きに合わせて名無しの口から吐き出される。
背後から手を重ねれば、息を上げながらも顔をこちらへと向け、口付けをねだる姿を素直に可愛らしいなと思った。

そろそろ自身の限界が近付き、更に動きを速めれば、自身を締め付ける力も強くなる。
段々とお互いの息遣いも激しくなり、肌をぶつけ合う音が妙に大きく聞こえた。

「はぁ、…っ!んん…っ」

「くっ…!っ…。はぁ、はぁ…っ」

そのまま欲を吐き出し、うつ伏せのまま息を整えている名無しの隣に自身も横になる。
酒を飲んだ後に動いたせいか、少し頭が痛い。

名無しの方へと視線を向ければ、ふと、あるものに視線が注がれる。
自分でも無意識にやっていたのか、肩やうなじに口付けした際に、赤い痕を残していた事に気付く。
まずいなとは思ったがもう遅い。
顔に掛かる髪をどける様に撫でればまたあの顔で微笑まれる。
その顔を隠す様に胸元に引き寄せれば、疲れと酒が相まってか、そのまま瞳を閉じる名無しの姿が目に入る。

(…明日の朝が恐ろしいな)

明日になれば自分も名無しもいつも通りに戻る。
それが「普通」だ。
今は何も考えずにいた方がかえって良いのかもしれない。
抱き締める手に力を込め、名無しの首筋に顔を埋める。
そのまま深く息を吸えば名無しの匂いが直接頭に響き落ち着く。

今日は自分も酒やいつもとは違う雰囲気に当てられてどうかしていた。
そうでなければ、こんなにもこの身体が恋しいだなんて思わない。
そう自分の中で結論付け、そのまま布団に入る。
眠気は自分が思っていた以上に早く訪れ、この日はそのまま眠りに就く。

***

「…、らま…!起きろ扉間!」

「うっ…!」

肋骨ら辺に鈍痛を感じ、まだ重い瞳を開ければ不機嫌そうな顔で首を捻りこちらを見つめている瞳と至近距離で視線が重なる。
頭が段々と覚醒し、ようやく今の状況を理解する事が出来た。
背後から名無しの身体に腕を回し、抱き締めている自分の姿に気付く。
そして、肘で腹を思いっきり殴られた事にも。

未だぼんやりとする頭で今から起こるであろう事を考えると、頭が痛くなる。
目が覚めて知らぬ間に男に裸で抱き締められ寝ていれば、流石の名無しも驚くだろう。
言い訳ではないが、どう名無しを納得させようかと頭を捻ってはみるが良い案はそう簡単には浮かんで来ない。

「…何を考えているのかは知らんが、とりあえず離せ」

言われた通りに腹部に回っていた腕を離せば、そのまま上半身だけを起こし背を向けたままその場から動かない。
特に責め立てる様な素振りも見せず、ずっと背を向け無言のまま。
寝起きから怒鳴り声を聞かなくて済んで良かったと言えばそうだが、思っていた反応は返って来ず、逆に気になって仕方がない。
かと言って、下手に話し掛けて機嫌が悪くなるのも面倒だ。

「…昨日の事、覚えてる?」

そんな事を考えていたら、小さな声で何かを話しているのに気付く。
いつもとは違い、少し控えめに聞いてくる名無しの問いに自分は酒しか飲んでいないから覚えていると返せばまた沈黙がその場を包む。
そんな名無しの様子に疑問を抱きながらも、いつまでも寝ている訳にも行かず、自らも身体を起こせば思ってもいなかった光景が目に入る。
少し赤い顔で、焦っている様な戸惑っている様なそんな表情をした名無しの顔があった。
起き上がった自分に顔を見られた事に気付いたのか、驚いた顔をした後に枕で思いっきり顔を殴られた。

「ぐ…っ、…」

殴った後に少し声が漏れた所を聞く限り、反射的にやったのだろう。
普段なら問題はないが、気を抜いている時にやられると意外と痛い。

起きてから今までの行動やさっきの表情を見る限り、考えられる事は一つ。
名無し自身、昨夜の出来事を覚えているのだろう。
そう考えればさっきまでの行動やあの表情にも納得出来る。

「…最悪…。もう…、信じられない…。あの男、絶対に殺してやる」

自分の予想通り、やはり昨夜の事ははっきりと覚えている様だった。
「あの男」と特定する辺り、多少身に覚えのある事でもあったのだろう。

それよりも、今一番問題なのは、昨夜の事をお互いが覚えているという事。
自分もまさか名無しが覚えているとは思わないし、あんな風に笑ったり口付けしたりするなんて思ってもいなかったから、色々な意味でも驚いている。
名無しにしてみれば、それを自分に見られた事が心底嫌なのだろう。
布団で顔を覆い隠してはいるが、今更何をしてももう遅い。
普段では絶対に見る事が出来ないそんな名無しの姿を見ていると、興味本位かちょっとした加虐心が生まれた。

「…薬を盛られたにしても、随分と積極的だったな」

「なっ…!、…っ」

布団を剥ぎ取り耳元でそう言えば、思った通りの反応を返す名無しに少しだけ笑いが漏れる。
いつもの冷静さはどこへやら。
薄っすらと赤く染まった顔で睨まれるが、いつもの様な冷たさはなく恥ずかしさを隠す為に強がっている様にも見えた。
自分でもおかしいとは思うが、そんな名無しがやけに可愛く見えてしまい、そのまま軽く口付ける。
案の定、その後には真っ赤な顔で睨まれ、また枕で殴られた。

それから部屋を追い出され、そのまま自室へと戻る。
しかし、その後すぐに怒鳴り声と共に部屋を思いっきり開ける真っ赤な顔をした名無しの姿に何事かと思ったが、いつもとは違う服装を見てその様子にすぐに納得する。
身に纏っている服は首までが隠れるもので、何かを隠すにはもってこいな服装だった。

「扉間…っ!!お前、勝手に痕なんか付けて…!」

こればかりは、さすがに自分が悪い。
素直に謝罪の言葉を掛けたが、時すでに遅しか、その数十秒後には背後からいつも以上に顔を緩ませた兄者の姿を見つけ事の重大さを瞬時に理解する。
他の奴ならまだしも、よりによって一番面倒で厄介な人物に見られた事に頭を抱えたくなる。
名無しもまさか付いて来られるとは思っていなかったのか、驚いた顔をしていた。

「な…っ!何でお前がここに居る!!」

「いくら瞬神の術で逃げ様とも、行き先に見当が付けば関係ないぞ。それよりも、お前達二人もやっと仲睦まじい関係になったという事か。めでたき事よ!
昨夜の名無しはどこぞの姫の様に美しかったからな!しかし、お前も淡白そうに見えてしつこい性格しとるなぁ。あんなにも付けんでいいだろうに。丸見えぞ?」

そう至極楽しそうに話した後、「さっそくミトにも教えてやらねばな!」と言い放った次の瞬間には、既にそこに兄者の姿はなかった。
名無しの必死に引き止める声が兄者に届く筈もなく、ただ虚しく部屋に響いていた。
その後、鬼の様な形相で捲し立てられ、今更もう遅いと内心では思うが、渋々立ち上がり兄者の部屋へと向かう。
自分が撒いた種とは言え、やはりあの時に帰っておけばよかったと心底後悔した。
部屋に着けば着いたで、どうなるかぐらい予想が付く。
嬉しそうに笑う兄者とミトの顔が容易に想像出来、また頭が痛くなった。

大きく溜息を吐きながら、重い足取りで目的地まで向かう。
兄者の部屋まであともう少し。

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