[交換条件]

*中編/あの頃の私達は、ヒロイン

先程まで激しく抵抗していたとは思えない程、自分の下に居る女は随分と大人しくなっていた。
身体を差し出す事を条件に封印を解けと言われた時は、正直耳を疑った。

「長い間チャクラを感じないと、いくら一人で修業をしていようが身体はどんどん鈍る。それが嫌なだけだ」と女は言った。
修業の為だけに迷いなく身体を差し出す。
自分の女としての性に対してこんなにも無頓着で客観的に考えていたとは夢にも思わなかった。
普通の女として生きたいとは思わないのかと問うた時に女が言った言葉を思い出す。

「あの時に女を捨てた」
過去に何があったかなどを詮索するつもりはないし、それがこの女の生きて来た道なのだから自分には関係のない事。

「っ…、ふっ…」

逃げる舌を捕らえ絡ませれば、瞳を閉じている女の顔が少し歪む。
それでも微かに漏れる声は艶っぽく、少しずつ気持ちが昂るのを感じる。
纏っている服を剥ぎ取れば、いとも簡単に裸に近い姿になる。
自身も服を脱ぎ捨て、再び女に覆い被さる様に組み敷く。

身体の線に沿う様にゆっくりと手を這わせれば、少しだけ身体が跳ねた。
いくら灯りが無く暗かろうとも、微かに月の光が障子を透け部屋の中に入って来る。
顔を見られるのが嫌なのか、左手で瞳を隠す様に覆っている。

「…隠すな」

そう言いながら、左手に指を絡ませ自由を奪い、もう片方の手で胸の膨らみに手を伸ばし形の良い胸を玩ぶ。
それから少しして暗闇にだんだんと目が慣れて来ると、今まで気付かなかったものに気付く。
肩から胸にかけて斬り付けられた様な大きな傷跡やそれに似た様な傷が大小様々身体の至る所に残っていた。

驚いていないと言えば嘘になる。
忍である以上、傷を負う事は仕方がない。
それでも、自分よりも遥かに小さく華奢なこの身体に残る傷跡の多さを目の当たりにすると、つい見入ってしまい手が止まる。

「抱かないのならば、さっさと退け」

「誰も抱かんとは言っていない。ただ、少し驚いただけだ」

「…こんな身体中傷だらけの女はそうは居ないからな。私は別に気にしていない。それにお前も似た様なものだろ」

自分のそんな様子に気付いたのか、伏し目がちに視線を逸らしたままそう言う。
確かに自分の身体にも大小様々な傷跡は数多く残っている。
だが、この傷跡は自分にとってはただの傷跡ではなく、大きな意味を持っている。
二人の弟を失い、今の自分にはもう心から守りたいと願う家族は兄者一人だけになってしまった。
この身体に残る傷跡は兄者や他の仲間達、一族を守った証。
自分はその証を心から誇りに思っている。

「…これらの傷は兄弟や仲間を守って出来たものだ。大切な者を守って出来た傷であり、ワシの誇りだ。仲間を守りたい気持ちはお前だって同じだろ。
ならば、お前が女だろうとその傷を見て蔑む気などない」

「………」

肩から胸にかけて大きく残る傷跡に触れる。
特に嫌がる訳でもなく、ただその動きをじっと見つめている姿はどこか哀愁を感じられた。

***

昔、愛した人に同じ様な事を言われた。
状況も今と同じ。
初めてその人と身体を重ねた時だった。
勿論、状況は同じでも昔と今とでは全くと言って良い程違う。

ずっと共に戦いの中で生きて来て、それでも私を愛してくれた。
傷だらけの自分を誇りに思うって微笑みながらそう言ってくれた時は本当に嬉しかった。
自分が今まで生きて来た道は間違いじゃなかった。
そう思えただけで、今までの自分を受け入れてあげる事が出来た。
そして、その時に初めて誰かの前で涙を流した。

***

「んっ…、っ…」

胸を揉み拉きながら突起に舌を這わせ口に含めば、女の口からは艶っぽい声が微かに漏れる。
忍として生きて来たからか、身体は無駄なく引き締まっており、女性特有の柔らかさの中に感じるしなやかな手触りが心地良い。
口をきつく結び、声を漏らさない様に我慢している姿にそそられる。
身体の線に沿って口付けを落しながら、柔らかな身体を愛撫する。
無意識なのか、時折肩に置かれている手が髪を優しく撫でる。

「っ…!ちょ、やだ…っ」

「…耐えるな」

足の隙間に身体を入れ込み、秘部に舌を這わす。
閉じようと抵抗する足を押さえ、逃げられない様に固定する。
ゆっくりとそこを愛撫すれば、女の口からは熱の篭った艶めかしい声が漏れる。
その声や表情に煽られる様に気持ちはどんどん昂る。
段々と主張し始める自身の欲望は、早くその身体を感じたいと言わんばかりに大きくなる。
己の快楽の為だけに無理矢理に抱くつもりはないし、例え身体だけの関係であろうとも、その時だけは互いが互いを感じ合える方が良い。

そろそろ己の限界を感じ、再び組み敷く様に覆い被さり口付けを落す。
特に嫌がる訳でもなく、素直にその口付けに応えた事に多少驚いたが嫌な気分はしなかった。

***

「力、抜いてろ」

艶っぽい声でそう耳元で囁かれると同時に入口に強い圧迫感を感じる。
ゆっくりと中に感じる感覚に自然と声が漏れ、無意識に男の背中へと腕を回していた。

男の熱の篭った声と息が聴覚を刺激し、身体が勝手に反応する。
人間の身体とは厄介なもので、一度受け入れてしまえば理性で快楽を抑え込む事は難しい。
触れられれば身体は反応するし、より快楽を求めてしまう。
そんな感覚に自分でも随分とふしだらな女になったと自虐的に笑えば、それに気付く様に男と瞳が合う。

「随分と締めるな…っ、そんなにも良いか?」

「んっ…、お前こそ随分と余裕がない様に見えるけどな…っ」

「ふっ、口の減らん女だ…」

そう言い、片足を持ち上げられ更に深く奥へと入って来る感覚に熱い息が漏れる。
押しこむ様に何度も体重を掛けられながら揺さぶられ、甘い痺れが身体を襲う。
薄っすらと瞳を開ければ、真っすぐこちらを見下ろす瞳と視線が重なり、そのまま乱暴に唇を塞がれる。

自分を抱いている男の瞳は酷く情熱的で、普段の冷めた印象からは随分とかけ離れて見えた。
抱かれながら頭の片隅で普段の何を考えているのか分からない瞳よりも、自分を抱いている時のこの瞳の方が何倍もましだとぼんやりと思った。

「…っ、はぁ…。首に捕まってろ」

言われた通り首に腕を回し捕まれば、身体を抱き起こされ男と向き合う形になる。
先程までの体勢と違い、自分の体重でより一層深く押し込まれ余裕がない。
それに気付いているのかいないのか、そのまま腰を持ち上げられ下から突き上げられる。
こうやって同じ目線になってみると、男と女の体付きの違いを思い知らされる。
自分を簡単に持ち上げ、支えられる逞しい腕に嫉妬する。
厚い胸板も大きい手も全部違う。

「はぁ、はっ…!んん…っ」

突き上げる動きに自然と息は上がり、回している手に力が入る。
肩口に顔を埋めれば、腰を支えていた腕が背中に回り、身体全体で突き上げられる様な動きに変わる。

***

今まで出会った事のない性格の女だなと思った。
美しい顔立ちはしているが、男勝りな気性の持ち主で全く可愛げがない。
口調も女のものとは思えぬ様な冷たさを感じる時もある。
それでも兄者は「そこが名無しの愛らしいところではないか」と豪快に笑いながら言っていた事を思い出す。

状況は違うが、自分が動く度に声を漏らし艶のある息を吐く姿を見れば確かにそう思わない事もない。
それは、普段の冷めた態度からは想像出来ない程、官能的で男の性をいとも簡単に昂らせるものだった。
耳に響く艶めかしい声がずっと頭に残る。
その声をもっと聞きたくて更に奥深くへと押し込めば背中に回っている手に力が入る。

「はっ…っ、こっち向け…っ」

「はっ、んん…!ふっ…」

そろそろ自身の限界を感じ、舌を絡めながら再び後ろへと押し倒す。
そのまま本能のままに身体を動かせば、自身を掴む女の手が更に強くなる。

余裕なんてない。
額から汗が数滴胸元に落ち、まるで行為の激しさを表わしているかの様だった。
お互いの息遣いや肌をぶつけ合う音が静かな部屋に響き、どんどんと早さを増して行く。

「   」

女の瞳には薄っすらと涙が浮かんでおり、声には出ていないが誰かの名前を呼んだ様な気がした。
誰かを想っていながら他の男に抱かれるのはどんな気持ちなのだろうかとぼんやりと頭の片隅で思うが、今は深く考えられる程余裕はない。

激しく腰を打ち付ける度に悲鳴にも似た嬌声が漏れ、自身を締め付ける。
その直後に自身の限界を感じ、そのまま女の腹部へと欲を吐き出す。
心臓の鼓動は激しく鳴り響いており、当分落ち着きそうにない。
上がった息を落ち付けようと深く息を吸えば、同じ様に息を上げている女と視線が合う。
何かを言う訳でもなく、そのままゆっくりと呼吸を落ちつける様に瞳を閉じる。

***

「少し待っていろ」

呼吸も落ち着いたのか、一言そう言い残し部屋の奥に向かった男の後ろ姿をぼんやりと見つめる。
薄暗い部屋の中では部屋の奥までははっきりとは見えなかったから、男が何をしているのかは分からない。
それから少しして戻って来た男は、恐らく寝巻であろう随分と楽そうな服を着ていた。

「…別に自分でやれる」

横になっているすぐ隣に胡座をかいて座り、持っていた手拭で腹部を拭かれる。
そう声を掛けても、ただ黙って手を動かされる。
その態度に小さく溜息を吐き、縁側の方へと視線を向け障子越しからでも分かる月明かりをぼんやりと見つめる。
特に何かを話す訳でもなく、ただ静かな時間だけが流れて行った。

「これでも着ていろ。お前のはさっき修業していた時に汚しただろう。簡単にだが洗って乾かしてある」

「…もっと小さいやつはないのか?」

「ワシの部屋にあると思うか?」

渡された服は男が来ている様なもので、自分が着るには随分とサイズが大きい。
それでも、いつまでもこの格好で居る訳にもいかず、仕方なく渡されたものに袖を通す。
案の定、自分には大き過ぎて紐できつく縛らないと衣服の意味が無い程だ。

「…その格好で戻るのか?」

「悪いか?」

「別に悪くはないが…、この時間に兄者の部屋の前を通る時は気を付けろ。一応あれでも千手の長だからな…。感知能力はワシの方が上だが、
その格好で万が一見つかってもワシはどうなっても知らんからな」

口調からして別に脅している訳ではないのに、その言葉には妙な説得力があった。
柱間というあの男なら何が起こるか分からない。
そう思う程、柱間の行動は予測出来ない様な時がある。
それは戦闘の時以外でもこう言った日常生活の中でも起こり得る。
自分の部屋へ戻ろうと障子に手を掛けていたが、仕方なくその手を離し部屋へと戻る。

***

「…何で私がお前と同じ布団で寝なきゃいけない?」

「一組しかないのだから仕方ないだろう。…黙って寝ろ」

修業と先程の行為での疲れが溜まっており、仕方なく男の言う通り寝る事にした。
そこまで大きくは無い布団の中で、お互い背中合わせで瞳を閉じる。
しかし、寝る体勢に入ったは良いが、身体は疲れている筈なのに頭が妙に冴えていて中々眠気がやって来ない。
その理由はなんとなく分かっている。

(…落ち着かない)

こうやって誰かと近い距離で眠るのは、もう随分となかったから。
警戒心というよりもただ落ち着かなかった。
そのままゆっくりと身体を仰向けにし、薄暗い天井を見つめる。

どれぐらいの時間が経っただろうか。
未だに訪れない眠気に小さく溜息が漏れる。
視線を隣へと向ければ、規則正しい寝息が聞こえて来た。
静かに身体の向きを変え男の背中をじっと見つめる。
その背中を見ていたら無性に触れたくなって仕方が無かった。
あの人とは全然違うのにどうしても思い出してその姿を重ねてしまう。

「…少しだけ」

まるで独り言の様にそう呟き、男の背中に軽く額を寄せる。
こういう時、自分は弱いなとつくづく思う。
いつまで経っても忘れられなくて、ずっと引きずっている。
そんな事を考えながら瞳を閉じれば、少しだけ気持ちが落ち着いた様な気がした。
それから少しして、先程と同じ様に背中合わせの体勢に戻る。
そう、戻る筈だった。

「わっ…、な…!お、起きて…!」

「うるさい。耳元で叫ぶな」

今の自分は身体ごと引っ張られ、男の腕の中にすっぽりと収まっている状態。
向かい合わせで男の胸元に顔を埋めている。
頭を上げ顔を見ても瞳は閉じており起きる気配は無い。
その顔を見ていたら、自分のさっきまでの行動が全部知られている事に気付き恥ずかしくなる。
それでも、今更それがどうにかなる訳でもなく、その事は一度忘れる事にした。

このままの体勢で眠るつもりなのか、自分を抱き締めたまま相変わらず動かない。
それでも、あの人の事を考えていたせいか、今はいつもみたいに突っぱねる気にもなれなかった。
仕方なくその行動を受け入れる事にし、そのまま大人しく気持ちを落ち着かせる。
身体を包み込む暖かい体温が懐かしくて、落ち着く。
今日はいつもと違う事があったから、少し変になっているだけ。
そんな言い訳を考えながら、今は静かに瞳を閉じる。

***

(…寝たか)

いつの間にか軽く背中に腕を回し、額を寄せながら規則正しい寝息を立てる女の顔を覗き見る。
随分と深く眠っているのか、軽く触れても起きる気配は感じなかった。
髪を梳く様に撫でれば、さらさらと艶やかな髪が指の隙間を通る。
さっきもいつもの様に突き放すかと思ったが、やけに素直に従ったなというのが正直な感想だった。

自分に誰かを重ねて見ている事にはすぐに気付いた。
そうでなければ、本来敵である自分に対してあんな態度や顔を向ける筈が無い。
そう思うと妙に納得した気分だった。
女が何を思って自分に抱かれたのかは分からないが、疲れ切った様な様子を見て少し罪悪感を覚える。
そんな罪悪感からか、大人しく寝ている女の姿を見て今日だけは腕ぐらい貸してやろうと思った。
そのまま自分も瞳を閉じ、ゆっくりと眠りに就く。

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