[和nother side]

頼まれていた書簡を猿飛・志村両一族へと届け、屋敷に戻った時に客間で待っていたミトに声を掛けられた。
そして今はミトの待ち人である兄者を探している途中だ。

自身の部屋にも庭にも居ないとなれば、考えられる場所は一か所。
あの女の部屋だ。
兄者は事ある毎に茶菓子を持って行ったり、ただの暇潰しに行ったりとよくあの女の所に足を運ぶ。
許嫁を放っておくのもどうかとは思うが、それは兄者の性格上どんなに言っても治らない。
案の定、女の部屋の近くまで行けば兄者の気配を感じられた。

『…いつまでこうしているつもりだ?さっさと離せ』

『そうだなぁ…、名無しがオレに口付けしてくれたら離してもいいぞ?』

『断る』

耳を澄ませば部屋の中から馬鹿げた会話が聞こえ、思わず溜息が漏れる。
普段の戦っている時からは想像出来ない様な姿が頭に浮かぶ。
兄者のそんな姿を簡単に想像出来る自分が情けない。
何故、自分がこんなにも兄者の事で苦労しなければならないのか考えたところで何かが変わる訳でもない。
それが自分の兄「柱間」なのだ。

『ちょ…!!待っ、やめろっ…!…っ』

中から聞こえる声色が少し慌ただしいものへと変わり、流石にこれはまずいなと思い、目の前の襖を思いっきり開ける。
そこには案の定、想像していた様なだらしない顔をした楽しそうな兄者の姿があった。
女の服の隙間から片手を侵入させ、その反応を楽しんでいるかの様だった。
そんな兄者のお遊びに付き合わされる女を気の毒には思うが、こればかりは仕方が無い。

『と、扉間…』

いつも「お前」と呼んでいた女の口から初めて自分の名前が呼ばれた時は、表情には出さなかったが内心かなり驚いた。

兄者に拘束されているその姿にいつもの余裕はなく、それ程まで今の状態が女にとって非常事態だったのだろう。
最近気付いた事だが、焦っている時や驚いた時、何気ない時に気が緩むと素の自分が出るのか、口調が変わる時がある。
それが本来のものなのだろうが普段は殆ど聞く事は無い。
こちらに助けを求める様な視線に気付き瞳が合うが、助けるにもまずは兄者をどうにかしなければ始まらない。

『おぉ、戻ったか!今回は随分と遅かったな。何か問題でもあったか?』

『いや…、問題はない。それよりも兄者、ミトが客間で待っている様だが…。こんな所で油を売っていてもいいのか?ワシは知らんぞ』

許嫁であるミトの名前を出せば流石の兄者も少し気が緩んだのか、その隙に脱兎のごとく勢い良く部屋から逃げ出し外へと走って行く女の姿が見える。
その姿に大げさ過ぎる程に残念そうな態度を取る兄者に何度目か分らぬ溜息が漏れる。
何かとぶつぶつと文句を言っているが、急かす様に客人が待っていると言えば持って来た茶請けの皿と湯呑を持ち、ようやく戻る準備を始めた。

部屋を出ようとした際に引き止められ、無粋な事を言うものだから、いつもとは違う態度が出てしまいつい余計な事まで喋ってしまった。
言い終わった後には兄者に話した事を心底後悔したが、今更もう遅い。
そのまま振り向かず足早に自室へと戻り、疲れ切った身体を休ませるように横になる。

***

ようやく柱間から解放され、今は部屋に戻る事も出来ずいつもの裏庭に居る。
先程の出来事を思い返すだけでイライラする。
柱間にもそうだが、あの男…、扉間にも腹が立って仕方がない。
自分が柱間を嫌っている事を知っている筈なのに助け様としなかった事やまるで自分が居ないかの様に会話を進めていた態度にも腹が立つ。
あの兄弟は人の事を何だと思っているのだろうか。
そもそも、何故柱間があの日の事を知っているのだろうかと疑問に思う。
扉間もそういった事を他人に話す様な性格ではないだろうし、ましてやあの兄にそんな事を言う筈もない。

という事は、考えられる事はただ一つ。
あの時、あの場所に自分達以外にも柱間が居たという事。

『あいつもこうやってお前を腕に抱いたのだろう?』

さっきまでの柱間との会話を思い出せば、全部ではないにしろ、会話を途中まで聞かれていた事に気付き頭が痛くなる。
あの時の自分はどうかしていた。
どうしてあんな話を扉間なんかにしたのか。
修業の疲れでおかしくなっていたのかもしれない。

柱間に文句を言いに行きたいが、今はミトさんが来ている為、我慢しなければいけない。
ならば、と立ち上がりチャクラを練り目的の人物の居場所を探す。
場所を探知し、そのまま足早にその人物が居るであろう部屋へと向かう。

「おい!柱間をどうにか…っ、…寝てる…、のか?」

「…お前の声で起きたがな」

勢い良く無遠慮に襖を開ければその言葉通り今まで寝ていたのだろう。
仰向けの体勢で眉間にしわを寄せながら顔だけをこちらに向けている扉間の姿があった。

まだ陽が出ているこんな時間に寝るなんてとは思ったが、よくよく考えれば任務から戻ったばかりだと気付く。
しかもその姿をよく見てみると、服の袖から見える誰が巻いたのか下手くそな包帯が何重にも無造作に巻かれていた。
ちゃんと手当てしていないのか、包帯には薄っすらと血が滲んでいた。

「…それ、もしかして自分でやったのか?」

「それ」という言葉が何を意味しているのかがすぐに分かったのか、短く肯定の返事が返って来た。
まさかとは思ったがそう本人が言うのだからそうなのだろう。
更に近くで見てみると下手くそを通り越してむしろただ適当に巻いているだけの様にも感じた。
呆れてものが言えないと言う言葉はこういう時に使うという事が良く分かった。

「よく、そのままの状態で寝ていられるな…。そんな手当の仕方初めて見たぞ」

「黙れ…。傷が治れば問題なかろう」

「傷の治り具合には差が出るがな」

こういう時、自分の性格が少し嫌になる時がある。
自分は忍でありながら傷を癒す事の出来る忍術を使えた為、戦に出る事はなかったが、うちはの人手不足が懸念され戦に出る事になった。
勿論、戦に出る事になった理由はそれだけではないが、それも一つの大きな理由だった。

しかし、傷を癒せると言っても、限度がある。
生命に関わる様な大きな傷を治す事は出来ないし、失った臓器なども治す事は出来ない。
それでも自分の出来る限り傷を治して来た。
だから、こうやって目の前に怪我人が居ると落ち着かない。
例え目の前の人物が千手であろうとも、今はその千手で世話になっている身。

何より「怪我をしている」という事が嫌なのだ。
心の中で小さく溜息をつき、その場に腰を下ろす。

「…お前は馬鹿か。こんな風に手当てもせぬまま直接傷に巻いたら菌が入って化膿するぞ」

下手くそに巻かれた包帯を全部取り、傷口を見る。
傷口は薄く紫に変色しており、すぐに毒だと気付く。
恐らく刀傷を受けた際に刀身に塗ってあった毒が体内に入ったのだろう。
傷付近からは少し熱を感じられ、まだ体内に毒が残留している事が分かる。
指先が少し痙攣している所を見る限り、神経系の毒だろう。
チャクラを集め意識を集中させながら傷口に当て体内のチャクラの乱れを探す。

そのまま直接毒を体内から抽出し、毒抜きをする。
量もそれ程多くはなく、強い種類の毒ではなかったからか処置はすぐに終わった。

「毒は抜いたがまだ少し痺れが残る筈だ。今日は大人しくしている事だな。…何だその顔は」

「頭でも打ったのかと思ってな」

自分をじっと見つめる顔がやけに不思議そうにしているなと思いそう声を掛ければ、思っていた以上に失礼な言葉が返って来た。
世話になっている礼として助けたのに、まさかそう言われるとは思っておらず、もっと強力な毒でも盛ってやろうかと本気で考えてしまった。
いくら屈強な者でも内臓は鍛えられないから。
もし殺すのならば毒が一番効率が良い。

「次は精々毒を盛られない様に気を付ける事だな」

「くく、恐ろしい女だ。…そういえば、さっき兄者がどうとか言っていたな…」

半分本気交じりにそう言えば少し愉快そうに笑った後にそう言われ、その言葉に何故この部屋に来たかと言う当初の目的を思い出す。
思い出してしまえばまた沸々と柱間に対する怒りが込み上げて来た。

そして、今日の事やここ最近の出来事を捲し立てるかの様に一気に話す。
柱間に対する不満や日頃の自分に対する目に余る行動の数々…。
その全てを弟である扉間に文句として吐き出す。

「とにかく、柱間をどうにかしろ!あいつのせいで落ち着いて部屋にも居られない」

確かに日頃の行いや今日の様子を見ていればそう思うのも仕方が無いだろう。
それ程までに、兄者の行動は度が過ぎていると思う部分がある。
止む事のない文句も仕方のない事だが、自分が言って治るものならばとうの昔にそうしている。
何を言っても直らないから困るのだ。

そう自分の思っている事を正直に言えば、心底嫌そうな顔をしたまま大きく息を吐く。
ある程度の事は予想していたのか、半ば諦めたかの様に肩を落とす姿を見て自分の兄の事ながら何とも情けない気分になった。

「…今度、また何かして来た時には殴るなり蹴り飛ばすなりするがいい」

「実の弟にそこまで言われる兄も悲しいものだな」

そう軽く鼻で笑いながら立ち上がり部屋の外へと向かう女の後姿をじっと見つめる。

「名無し」

そう名前を呼べば、こちらへ振り返り視線が合う。
そのまま先程の治療の礼と兄者に対する詫びを簡単に言う。

まさか礼を言われるとは思ってもいなかったのか、まるで豆鉄砲を食らったかの様な顔で固まっている姿に笑いが込み上げる。
そんな様子に気付いたのか「次は無いからな」と言いながら出て行く姿に、相変わらず可愛げがないなと思ったが嫌な気分はしなかった。
ぼんやりとそんな事を考えながらまだ疲労感の残る身体を横たわらせ、瞳を閉じ再び眠りに就く。

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