[番外編. 木ノ葉 - 春野サクラ]

「うわぁ!!へ、蛇だっ…!大蛇が襲ってくるぞ!逃げろっ!!」

今、自分が居る場所は火の国・木ノ葉の里城門入口付近。
自来也さんに街でも散策すると良いと言われ散歩をしている途中の出来事だった。

「あん」と書かれた大きな扉の先には門に向って必死に走ってくる人々とその背後に大蛇の姿が見える。
走ってくる人の中には年端も行かない子供やお年寄りもおり、一刻でも早く助けに向わなければいけない状況だった。

見る限り、恐らく主の居ない口寄せが自我を失い暴走化しているのだろう。
大蛇の瞳をよく見ると真っ赤になっており、興奮している様にも見える。
でも、ここはもう暁のアジトじゃない。
誰かが助けてくれたり手伝ってくれる訳じゃない。

自分の力でどうにかするしか方法はない。
周りを見れば門番をしていた忍と近くに居た女の子が人々を避難場所へ誘導している姿が目に入る。

(…今、動けるのは私だけ。みんなを助けなきゃ…!私は…、守るって決めた。こんな事で迷ってなんかいられないっ!)

おまじないの様に心でそう呟き、自身を奮い立たせ素早く印を結び白虎を口寄せする。
四神象華を使えれば大蛇を撃退出来るかもしれないが、如何せんあの術は規模が大きく、逆に被害を広げてしまう危険性があり使えない。
という事は、頼れるのは自身の力である臨血界と白虎だけ。

「白虎っ!!一瞬でいい、術か何かで動きを止められる!?」

「名無し様の仰せのままに」

そう一言、白虎が答えた次の瞬間―
白虎は力強く大蛇に向って咆哮し、その動きをまるで金縛りの様に止める。

前に白虎から聞いた事がある。
白虎を含む四神は口寄せ動物全ての長のような存在であり、全ての口寄せ動物とテレパシーの様なもので繋がっていると教えてくれた。
問いかければ例え遠く離れていても意思の疎通を図る事が出来ると。
どうにか暴走化を解除し、本来の姿に戻す事が出来れば解決策が見えてくるはず。
例え何であろうとも、殺さずに助ける事が出来る方法があるのならばそれを試したい。

「はぁっ!!」

ドガンッ!ガッ!ゴゴゴッ…!

チャクラを最大限にまで練り上げ、瞬時に右手の拳に集中させ地面を衝く。
角都と戦った時にこの技を使った時よりも更にチャクラコントロールの精度を向上させ、今ではある程度威力をコントロール出来る様になった。
拳で地面を衝いた瞬間、地面は地響きの様に大きな音を立てながら抉れる様に割れ、大蛇を地中へと飲み込む。
その様子を確認し、素早く両手で臨血界を使い大蛇を拘束する。

「よしっ…、これでもう大丈夫。白虎、後はお願い!」

大蛇の視界の目の前に降り立った白虎はそのまま大蛇に近付き、触れた。
その瞬間、大蛇の瞳の揺らめきが止まり、瞳の色も段々と変化していった。
上手くいったのだろう。
臨血界で拘束していても全く振動を感じなくなった。
白虎もこちらへ顔を向け、もう大丈夫ですと言いこちらへ向かって歩いて来た。
大蛇は自我を取り戻したのかそのまま一瞬の内に消えてしまった。

「…あの大蛇はもう大丈夫なのかな」

「ご心配には及びません。龍地洞という彼等の場所へ戻っただけです」

「そっか、良かった」

本当にそう思った。
何であろうとも傷付けずに済んだのだから。
そうホッとしていたら背後に先程門番に居た忍が現れ、声を掛けられる。

「あなたがあの大蛇を追い払って下さったのですね。ありがとうございます。もう少し遅れていたら大惨事になり兼ねませんでした」

「運良く怪我人も軽傷者ばかりで今は近くの病院で手当てを受けているところです」

「皆さん無事なんですね。良かった…」

ふと、大丈夫だと教えてくれた二人の背後に視線を移せば、ピンク色の髪の毛をした女の子がこちらへ向い走って来るのが見えた。
どこかから急いで走って来たのだろう。
大きく肩が揺れ、どうにか呼吸を落ち着け様と大きく深呼吸をしていた。
しばらくして落ち着いたのか、パッと顔を上げた女の子の目はキラキラと輝いていて、とても可愛らしかった。

「あ、あの!お名前は何て言うのですか!?さっきの戦いすっごくカッコ良かったです!それに、すごく綺麗でした!」

「おいおい、ナンパかよ」

「もう!何言ってるんですか!コテツさんもイズモさんも見たでしょ!?」

嬉しそうに興奮している女の子は先程教えてくれた忍達に自分の勇士を力強く語っていた。
本人を目の前にこういう話をされると、正直かなり恥ずかしい。
別にやましい事をした訳でもないのに、こんなにも褒められると何故か落ち着かない。
そんな様子に気付いてくれたのかイズモさんと呼ばれた人が声を掛けてくれた。

「そういえば自己紹介がまだでしたね。俺は神月イズモです」

「春野サクラです!」

「はがねコテツです」

順番に紹介され、軽く会釈した後にこちらも簡単に自己紹介をする。
三人の話を聞くと、さっきの大蛇は数ヵ月前に起こった里での事件の名残だと教えてくれた。
以前にも同じ様に暴走化した大蛇が里を襲って来たらしく、警戒態勢が敷かれていたという。

「名無しさんはここの里の人じゃないですよね?観光か何かですか?」

「…ううん、私の両親がこの里の出身で、事情があって数日前からこの里に住む事になったの」

嘘は言っていない。
でも、この里に居る限り決して「彼等」に関係のある言葉は使えない。
それは、どうする事も出来ない自分が唯一出来る事。

「ふふ、名無しさんって少し綱手様に似てますね」

「綱手様?」

「はい。ここ木ノ葉の里の火影で私のお師匠様です」

この里の火影。
そういえば、初めて自来也さんに会った時に白虎が「綱手と大蛇丸は元気ですか?」と言っていた事を思い出す。
この里の火影で自来也さんと同じ三忍。
自来也さんも火影になっても酒癖の悪さは治らないと言ってた。

「その人…、自来也さんが言っていた人だ。この里の火影になったって言ってた」

「え?名無しさん自来也様とお知合いなんですか!?綱手様は自来也様と同じ伝説の三忍ですよ。…それより名無しさん、自来也様にエッチな事されませんでした?
バカナルトっていう同じ班の男子の師匠で、エロ仙人って言われてるんですよ!」

「…サクラお前すげぇな。自来也様をそこまで言うとは…」

「ははは、大丈夫。とても優しい人だし、それにナルト君のお師匠さんだもの。悪い人の筈がないよ」

それから四人で色々な事を話した。
まさか自分がナルト君とも知り合いだったとは思っていなかったらしく、少し驚いていた。
サクラちゃんとナルト君は同じ第七班のメンバーらしく、アカデミーの頃からの腐れ縁の様なものだという。
メンバーはもう一人居るらしいが、今は事情があって班を抜けているらしい。
その話をした時のサクラちゃんの顔が少し悲しそうだったから、それ以上は聞けなかった。

「そう言えば、さっき話が逸れちゃって聞き忘れてたけど、私って綱手様に似ているの?」

「えっと、容姿が似ている訳じゃなくて、強くて綺麗で女性だけど戦っている姿がすごく素敵でカッコイイところが似てるな、って」

こんな風に言われたのは初めてだし、今まで褒められた事はあまり無かったから、正直どう答えていいのかが分からない。
ましてや戦い方を褒められるなんて思ってもいなかった。
そんな初めての出来事に顔が少しだけ熱くなる。

***

きっと大抵の男の人ならイチコロなんじゃないのって思うぐらい。
目の前で恥ずかしそうにしている名無しさんの顔は少し赤くなっていて、年下の自分が言うのも変だけど、すごく可愛かった。
チラっとイズモさんとコテツさんを見ると、案の定だらしない表情をしていた。
いつもだったら、これだから男の人はって思うけど、今回は仕方がないと思う。

「あ〜…、名無しちゃん。そういえば、この街はもう見て回った?」

「え?いえ、まだ住居の準備をしていて、今日少しだけこの付近を見て回っただけなので…」

「そっか!じゃあ、今度俺が美味しい店とか街の紹介するよ」

先手を取ったのはイズモさん。
遅れを取ったコテツさんも負けじと名無しさんを誘っている。
名無しさんの方はと言うと、デートに誘われているとは思っていないのか、時間が合うならば四人で行きましょうと楽しそうに言っていた。
そのまま四人でわいわいと話をしていたら、どこからか聞き慣れた声が聞こえた。

「どうだ、街は見て回れたか?」

「え?…あっ!自来也さん!」

自分達のすぐ斜め後ろに立っている木の枝に腰を下ろした自来也さんの姿を見つける。
そのまま軽い身のこなしで自分達の居る場所までジャンプして来た自来也さんは、相変わらず豪快に笑っていて、その顔を見ていると自然と自分も笑顔になった。

「自来也様、お久しぶりです」

「久しぶりじゃのォ!そういえば、二人共綱手の秘書業務をやっとるらしいが、大丈夫か?アイツすぐに居なくなるだろう」

「…まだシズネさんがいらっしゃるので、今のところは何とか…」

その答えに豪快に笑った自来也さんは、相変わらずだと少し嬉しそうに言っていた。

お母さんの事を知っていたり、白虎が信頼している人だから、きっと自分も無意識に「自来也さんなら大丈夫」って思っているのかもしれない。
実際に話をしていても、とても面白いし楽しい人だ。
物事に対する考え方や価値観もとても素晴らしいと思った。
お母さんもこんな風に自来也さんの事を思っていたのかと思うと少し変な感じがした。

「おぉ!忘れるとこじゃった!サクラ。お前さん綱手の元で修業をしとるらしいが、もう一人ぐらい増えても構わんか?」

「へ?私は全然構いませんけど…、どうかしたのですか?」

「そうと決まれば話は早いな」

そう言うと、ニカっと大きく笑いながらこちらの方向へ身体を向ける自来也さん。
サクラちゃんはサクラちゃんで、自来也さんの言葉の意味に気付いたのか嬉しそうに拳を空に突き出していた。
イズモさんとコテツさんも、サクラちゃんと同じ様に二人で拳を合わせていた。

「単刀直入に言う。名無しには近い内に綱手の元で修業をしてもらう。白虎様の話を聞く限り、お前さんの中には桔梗の能力が受け継がれとるらしいからのォ…。
桔梗は綱手と同等レベルの医療忍術が扱える忍じゃったからな。それに…、さっき大蛇と戦っとる時に地面を素手で割っただろう。
あれ程のチャクラコントロールを自在に扱えるなら、医療忍者として修業を積み、綱手や桔梗の様に「戦う事の出来る医療忍者」を目指すといい」

「私が、医療忍者…?」

自来也さんから思ってもいなかった言葉を掛けられ、少し驚く。
そして、また自分の知らないお母さんの一面を知った。

強い忍だったのだろう。
お母さんの話をしている時の自来也さんは、昔の思い出を話す度にその武勇伝や強さなどを嬉しそうに話してくれた。
医療忍術については白虎に色々と聞いた事があるし、サソリには基礎を教えて貰った事がある。
自来也さんが言う様に自分も修業をして「戦う事の出来る医療忍者」になれるのならば、その道を目指したい。

「よろしくお願いします」

「綱手にはワシの方から話しておく。ま、綱手もそうなるだろうと思っていた様だしのォ。アイツは腕は確かだが、キレると恐ろしいから気を付けろよ」

手をヒラヒラ振り笑いながら去って行く自来也さんに軽く頭を下げ見送る。
そのまま真っすぐ歩いて行くのかなと思っていたら、ふと何かを思い出したのか、パッともう一度こちらの方を向き小走りで戻って来た。

「…一つ言い忘れとった。サクラ、お前ワシの事を一体何だと思っとるんじゃ…。エロ仙人って言われとるって、キッツイ事言うのォ…」

「え!?自来也様さっきの話聞いてたんですか!?あ〜あははは…、すみません!ナルトがいつも言ってるからつい…」

「つい…、ってお前も可愛い顔してハッキリ言うのォ…」

「あれ…?そう言えば、さっき自来也さん何で私が大蛇と戦った事知っていたのですか?」

そう言えばそうだ。
あの時、周りを見渡しても、自分とイズモさんとコテツさん、それにサクラちゃんの四人と避難いる人達しか居なかった筈。
それ以外の人の気配は感じなかった。

「…自来也さん、もしかして、さっきの戦いどこかで見てました…?」

「がっはっは!そう怒るな。白虎様は気付いとったぞ?名無しもまだまだ修行が足りんのォ。危なくなったら助けるつもりじゃったが、要らぬ心配だった様だしな。
あの戦い、昔の桔梗を思い出すな。美人で腕っ節の良い女なら、サクラ達が惚れ込むのも無理ねぇーのォ!」

自来也さんの大きな手で頭を無造作に撫でられる。
隠れていた事を誤魔化されている気もするが、今は自来也さんのその仕草がとても心地良くて何も言えなかった。
大きくて温かい手はまるでその人柄を表わしている様な気がする。
いつの間にか撫でられる心地良さに自然と笑みが零れていた。

***

「やーん!嬉しー!名無しさん、これからよろしくお願いしますね!」

「うん。こちらこそよろしくね」

手を握られ、嬉しそうにしているサクラちゃんはとても可愛らしく見ていて癒される。
まるで妹が出来た様な気分だ。
笑顔で名前を呼ばれると、胸がきゅんとする。

これからこの里で始まるであろう「医療忍者」としての修業。
医療忍術という新しい修業方法は、きっと自分に新しい道を見せてくれるはず。
この力を、この能力を最大限に生かせる様に。

「…頑張るから」

いつか、彼等と会えた時に彼等が吃驚するぐらい強くなっていたいから。
自分の為に、そして彼等の為に強くなる。
誰にも聞こえない程の小さな声でそう呟き胸に誓う。

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