[番外編. 暁 - 小南]

名無しが居なくなってもう随分と時が経った。
あの日、イタチと共に木ノ葉へ向かった名無しは酷く辛そうで、その姿を見ているだけで心が痛んだ。
それでも、何かに痛む程の心をまだ自分が持っていた事が嬉しかった。

イタチによるとあの日、偶然にもイタチがその場を離れた一瞬、名無しの両親の墓に自来也先生が現れた。
そして、自来也先生が名無しの両親の事を知っていた事。
白虎と昔から知り合いだった事などを聞いた。
それを聞き、名無しがここへ戻って来ない理由を確信した。

白虎から自来也先生や里の忍の事も聞いたのだろう。
「暁」は犯罪組織。
以前にイタチと鬼鮫が木ノ葉の里で交戦している事を考えれば、名無しの行動も仕方のない事なのかもしれない。

名無しの事だ。
自分が帰ろうものならば、暁の情報が里に漏れてしまうと考えたのだろう。
ましてや自来也先生程の忍に下手な嘘は通用しない。

(…あの子は優し過ぎるわ)

木ノ葉の里に送り込んでいるスパイの情報によれば、今は自来也先生と同じ三忍である火影・綱手の元で医療忍者として修業をしているらしい。
特に不自由はしていない様で安心した。

あの時、名無しが帰って来ないとイタチから聞いた時、正直ホッとした自分が居た。
長門もきっと私が感じている事と同じ事を思っているだろう。
もし、このまま暁に居たら必ずマダラに利用されていた。
それは確実な事。
あの人は自分の利益の為ならばどんな事でも手段は選ばない。

(そうなる前にこうなった事がせめてもの救いかしら…)

外に目を向ければ相変わらず何も変わらない風景。
私達の始まりの街。
そして、弥彦が救いたいと願った街がただ静かに広がっていた。

***

「お前達は木ノ葉の里へ行き、苗字名無しを連れ戻せ」

呼ばれた部屋でそう簡潔に告げられる。
今になって一度手放した名無しを連れて来いだなんて虫のいい話だ。
この男が何を考えているかなんてそんな事はどうでもいい。
名無しがこの男のせいで悲しみ傷つく姿は見たくない。

「何故、今になって名無しを必要とする?」

「俺が何も知らないとでも思っているのか?忍としても医療忍者としてもそろそろ役に立つ頃だろう」

マダラはゼツを使いありとあらゆる情報を常に把握している。
案の定、名無しの事も監視していた。
名無しの能力が安定し、使えると判断したのだろう。

この男はやはり信用出来ない。
自分達の目指す「平和」とマダラの目指す「平和」
言葉は同じでも全く違う。
マダラは誰も信用していないし、誰にも心を見せない
何を考えているか分からないからこそ、名無しを近付けたくはない。

「断る」

「俺の命令に逆らうのか?」

「えぇ。その命令に対してはペインも私と同じ答えよ」

そう、言い放てば仮面の奥の瞳が一瞬、鋭く光る。
そのまま何も言わずに静かにこちらを見つめている。
今、この男が何を考えているのかは、どうでもいい。

名無しに近付けてはいけない。
これが今、最も重要な事。
自分が名無しに持っている感情をこの男は鼻で笑い、嘲笑うだろう。
でも、その心こそこの世界にとって大切なもの。

「…まぁ、いい。もう少し使い物になった時にでも働いてもらう」

「………」

そう冷たく言い放ち、そのまま部屋を出て行った。
近い将来、暁は本格的に動き出す。
各国に散らばっている尾獣を集めるためにメンバー全員にノルマが課せられる。
名無しが居る火の国には九尾の人柱力が居る。
火影の元で修業をしているという事は遅かれ早かれいずれ名無しとは再会する事になるだろう。

そして次に出会う時は仲間として出会うか、敵として出会うかは分からない。
勿論、出来る事ならば、敵としてではなく仲間として出会いたい。

「…まるでこの国と同じね」

弥彦が泣き虫だったこの国を救った様に、今度は自分が泣き虫なあの子を守ってあげたい。
守ってみせる。
今度こそ、絶対に散らせはしない。

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