[番外編. 木ノ葉 - はたけカカシ]
「うわっ!ガ、ガイさんにカカシさん…!もう、ビックリさせないで下さいよ…」
綱手様の執務室を掃除していたら、急に背後から声を掛けられビクっと身体が跳ねる。
うるさい心臓をどうにか落ち着け、二人の手を見れば数枚の書類があった。
恐らく任務の報告書を持って来たのだろう。
「綱手様でしたら、先程シズネさんと何処かへ行かれましたよ?…あっ!そう言えば、酒って言ってたから、きっと居酒屋だと思います…」
「はぁ…、まったく…」
私の師匠である綱手様は大のお酒好き。
イズモさんとコテツさんが急に居なくなる綱手様を必死に探しているのを何度か見かけた事がある。
今回はシズネさんが付いて行っているから、大丈夫だとは思うけれど分からない。
綱手様は自来也さんと同じ「三忍」
頭脳明晰、医療忍者としての才能も高く人望も厚い。
おまけにとても綺麗な人だ。
スタイルも良くて女の自分から見ても羨ましくなる程。
怒ると怖いけど。
「名無しは掃除中?」
「はい。やっと資料の片づけが終わったところです…」
「名無し!そんな辛気臭い顔してたら、青春が逃げるぞ!ガッツだ!!」
最初はガイさんの熱さと濃さに付いて行けなかったけど、今はだいぶ慣れた。
カカシさんは相変わらずポーカーフェイスで、ガイさんとは正反対の性格をしている。
二人は永遠のライバルらしく、ガイさんとカカシさんに初めて会った時には一時間ほど延々と永遠のライバルの話を聞かされた。
ガイさんの事は好きだ。
何事にも一生懸命で一途に頑張る姿は元気を与えてくれる。
その姿は自分も頑張ろうと思わせてくれる。
そして、その心は弟子のリー君にちゃんと受け継がれている。
リー君もとても良い子で礼儀正しい真面目な子だ。
カカシさんは、少しイタチに似ている。
写輪眼は勿論だけど、あまり多くを語らないし感情をあまり表に出さない所とか色々。
だから、どうしてもカカシさんを見ているとイタチを思い出す。
「お、そうだ!確か今晩だったな」
「え…?あ、はい!そうです。リー君達そろそろ来ますか?」
「バッチリだ!」
グッっと親指を立てナイスガイポーズをするガイさん。
その様子が可笑しくて少し笑ってしまった。
「えー、ちょっと君達何の話?俺だけ除け者にしないでよね」
会話の内容が何となく気になり声を掛けたが、二人の秘密です!と名無しに言われ少しへこむ。
ましてや相手はあのガイだから余計にその言葉が効く。
自分と名無しが初めて会ったのは一年程前。
詳しい事情は五代目と自来也様しか知らないが桔梗さんの娘だ。
桔梗さんは俺が初めて好きになった女性。
美しく、優しく、強い。
桔梗さんには幼いながらも良くしてもらった事を覚えている。
物心付いた頃から大人に紛れて任務をこなしていた自分はいつしか自分の事を子供とは思わなくなった。
自分は大人なんだって思っていた。
(…まさか、こんな形で出会う事になるとはね)
約二十年ぶりに見る桔梗さんの面影を宿した女性。
あの頃の自分はどう足掻いても越えられない壁があった。
大人と子供。
その目が決して自分を見る事はなかった。
桔梗さんは死んだ。
今、自分の目の前に居る人物は全くの別人。
でも、きっと自分はこの子を好きになる。
桔梗さんに似ているから、娘だからは関係なく、その人柄や優しさに惹かれる。
「…シさんっ、カカシさん。カカシさんっ!」
「あ、ごめんごめん。ボーっとしてた。何だった?」
考え事と任務疲れが相まって、本当にボーっとしていた。
後ろでガイの豪快な笑い声が聞こえる。
女性の方では平均的な身長なのだろうが、自分達から見たら小柄に見える名無しの顔は少し不貞腐れていて、一瞬焦った。
もし、ここでサクラが居たら「いいトシしたおっさんがキモイ」と言うだろう。
「えっと…、今日一日パックンお借りしてもいいですか?」
「パックン?構わないけど、どうするの?」
「秘密です」
パックンを口寄せし、名無しがパックンを抱き上げれば満更でもないのだろう。
可愛いワンちゃんはモテるから大変だなんて言っている。
そのままお礼を言い、パックンを抱きかかえたまま執務室から二人と一匹の出て行く様子を後ろから見つめる。
***
今日の任務は砂隠れの里との盟約により火の国付近に逃げ込んだ数名の抜け忍を捕える任務。
ガイ、リー君のスリーマンセルで案の定、任務はすぐに終わった。
砂に抜け忍を引き渡し、報告書を執務室に持って行った時に偶然でも名無しの顔が見れた時は嬉しかった。
しかし、いくら気に入ってる子の顔を見れたとしても疲れは残る。
任務続きとなると疲れも溜まるし集中力も落ちる。
ましてやさっきのガイと名無しの会話を聞いている。
あまり気分は良くない。
「…ま、考えても仕方ないんだけどね」
まるで自分に言い聞かせる様に呟く。
執務室を出て長い廊下を足早に歩く途中、アスマと紅に声を掛けられたが、今日はあまり人と話したくなかった。
そのまま自宅へと戻り、疲れ切った身体をベッドで横たわらせ、無理矢理身体を休ませる。
***
コンコン
コンコン
ゴンゴンっ!!
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
ノックの音で目が覚め、ボーっとする頭を回転させる。
最初は控えめだったノックが段々と荒々しいものに変わっていった。
起き上がるのが面倒で居留守を決め込もうと考えていたが、このまま引き下がるとも思えないし、仕方なく玄関へ向かい扉を開ける。
「…へ。何?何なのコレ?」
扉を開けた先にはサクラ、ガイ班のメンバー、ガイ、そして名無しの姿があった。
子供達全員、手には大小様々な箱を持っており、こちらが何かを言う前に部屋の中へと入って来た。
おじゃましまーす、とサクラとテンテンの愉快な声が聞こる。
名無しも少し控えめながら「おじゃまします」と軽くお辞儀をし、サクラ達の後に続いた。
そして、最後にガイが部屋へと入り終えると、いつものあの顔で正面から大きな声で思ってもいなかった言葉を口にする。
「我が永遠のライバル・カカシよ!!今日は盛大にお祝いする!みんな行くぞ!?」
あぁ、そうだ。
今日は俺の…
『ハッピーバースデー!!カカシ先生!』
俺の誕生日だ。
すっかり忘れていた。
まさか、この年になってこんな風にお祝いされるなんて思ってもいなかった
子供達が次々に手に持っていたプレゼントを俺の両手に積み重ねる様に乗せていく。
全部乗せ終わった頃に、またハッピーバースデーと言われた。
「カカシよ!俺からはこの通気性・保湿性に優れ、動き易さを追求し尽くした完璧なフォームに美しいライン!これをプレゼントしよう!」
「いらないよ」
「あはは、ガイさん…、だからそれ止めた方が良いって言ったじゃないですか!カカシさんいらないって言ってますよ?」
「ぐぬぬ…、えぇい!こうなったら今度はこれだっ!」
ガイの隣で笑っている名無しの顔はとても楽しそうで、その顔を見ていると安心する。
笑った顔はすごく綺麗で、癒される様な感じ。
「きっと好きになる」じゃなくて、もしかしたら、もうこの子の事が好きなのかもしれない。
「カカシさん。私からはこれを」
「ん、何これ?」
「あっ!名無しさんそれって…!もしかしてカカシ先生の為に作ってたんですか!?」
名無しの隣に居るサクラが俺の手元を見て驚いた様にそう言った。
サクラが驚く程なのだから普通の物ではないのだろう。
小さな箱に入っている小瓶。
一体、これは何なのだろうか。
「ねぇ、これって何なの?」
「カカシ先生そんな事も知らないの!?もう信じらんない!」
「カカシさんが知らないのも仕方ないよ。これは白虎が教えてくれた術で、まだ私達しか知らないから」
二人の会話を聞く限り特別な物なのだろうが、よく分からない。
小瓶を取り出し、近くで見てみても至って普通の液体の様に感じる。
「これね、まだ綱手様とシズネ先輩と名無しさんしか使えない術なんだけど、簡単に言えば再生薬みたいな物なの」
「再生薬?」
「医療忍者はまだ数も少なく、全ての隊に配属出来る訳じゃありません。もし、任務中に怪我をしてしまったら命を落とす危険性が高くなる…。
この薬は特別な術式で医療忍術のチャクラを凝縮し、その液体の中に封印してます。骨折や外傷を細胞の活性化によって治したり、チャクラ補給などが出来ます。
少しでも里の皆さんが無事に帰って来られる様に作った物なんです」
「これ作るのには繊細なチャクラコントロールと時間がかなり掛かるから、作るのがとても難しいの。だから、まだ実用的じゃないし、すっごく貴重な物なんだから!
カカシ先生絶対に怪我しちゃダメよ!」
確かに、医療忍者を加えない隊が万が一、大きな怪我をした場合、任務に大きな支障を来す。
もし、この薬が実用化されれば、医療忍者の常識を超える画期的な物になるだろう。
そんな貴重な物を俺が貰っても良いのだろうか、という気持ちはあったが、正直かなり嬉しかった。
絶対にだらしない顔してるんだろうな。
口布をしていて本当に良かったと心からそう思う。
ありがとうとお礼を言えば「怪我しないで下さいね」と少し心配そうな顔をする名無し。
「さて…、プレゼントも渡し終えた事だし、そろそろ行くか!」
「はーい!ほら、先生も早く早く〜!」
「次は何なの?」
サクラとテンテンに半ば引っ張られる様な形で連れられた場所は名無しの家。
そのまま中へと連れられ、リビングの扉を開ければ良い匂いが鼻を掠める。
背後から「よく来たな」と聞き慣れた声が聞こえ、振り向くとそこにはパックンの姿があった。
「あれ、何でパックンがここに居るの?」
「名無しに頼まれてな。留守番だ」
視界に入るパックンの姿はいつもの物ではなく、カラフルな物に変わっていた。
視線をパックンから逸らし、キッチンの方へと目を向ければ、忙しなく動き回っている名無しの姿が目に映る。
髪を高く一つに束ねエプロンをしている姿はいつもと違いとても新鮮だった。
「きゃっ!?カ、カカシさんっ!もう…、急に後ろに立たないで下さいよ!」
「ん、ごめーんね。…これ、もしかして全部名無しが作ったの?」
「えぇ。皆さんのお口に合うといいのですが…」
和食から洋食まで様々な種類の料理が出来上がっていた。
以前、五代目に手作りの和菓子を絶賛されていた事を思い出した。
その時にお裾分けを貰ったが、確かに美味しかった。
料理も出来る、頭も良い、見た目も性格も良いとなれば言い寄る男も多い。
現にアオバやゲンマ、イズモやコテツ達に言い寄られている名無しの姿を度々見かける。
「あ…、俺これ好きなんだよね」
「ふふ、パックンとガイさんの言う通りですね」
「どーいう事?」
名無しの話によると、折角パーティーを開くのだから好きな物を用意しようと思ったらしいが、何が好きかが分からずいつも一緒に居るパックンとガイに俺の好物を聞いたという。
執務室に居る時に俺にパックンを借りたのも、ガイとの話を聞いた時に「秘密です」と言われたのも全部この為だったのかと思うとスッキリした気分だった。
秋刀魚の良い匂いが部屋を包み食欲をそそる。
リビングではサクラやリー君達が食器の準備をし終わったのか、キッチンにある料理を次々と運んで行った。
サクラとテンテンに至っては流石女の子というか。
カカシ先生良かったね!と名無しには見えない所で嬉しそうに脇を突かれる。
「さっ!準備もできたし、改めてカカシ先生誕生日おめでとう!!」
子供達の祝福に顔が綻ぶ。
こうやって誰かに祝ってもらえる事のありがたみを改めて実感した一日だった。
子供達から貰ったプレゼント。
ガイから貰ったというより無理矢理押し付けられた一生着ないだろうあのスーツ。
そして名無しから貰ったプレゼント。
今日はきっと忘れられない一日になる。
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