[27. 帰還]

ナルト君と別れ、未だ薄暗い中を一人黙々と歩く。
肌に感じる空気は相変わらず冷たいままで、自身の熱を少しずつ奪っていく。

考える事、やらなければいけない事はたくさんある。
綱手様の言う通り、これから先の未来に何が起こるかは自分にも分からない。
それでも、もう後戻りは出来ない。
動き始めた時間は自分に何を見せるのか。

(ここら辺でいいかな…)

里へと続く門が遠くに見える。
その光景を頭に焼き付けた後、そのまま人気の無い脇道へと入る。
生い茂る木々を退けながら先へと進めば、少しだけ開けた場所に辿り着く。

その場所はとても静かで、初めてこの世界に来た時の事を思い出す。
あの時からもう随分と時が経った。
今の自分はもう、あの頃の何も知らなかった自分ではない。
これから先、もし辛い事や悲しい事が起こったとしても、今の自分には前に進んで行くしか道はない。

もう一度、心を落ち着かせる。
そして、この数年間決して呼ぶ事の無かった懐かしい名を呼ぶ。

「…ゼツ、居るんでしょ?出て来て」

それから少しの間を置いてその言葉に応えるかのように、地面からゆっくりと姿を現すゼツに驚きはなかった。
いつからだったか、里にいる間にゼツの気配を感じる様になったのは。
はっきりとした時期は覚えてはいないが、いつの間にかその気配を曖昧ではあるが感じ取れる様になっていた。
暁という立場上、接触をして来る事は無かったが、恐らく自分の事を監視していたのだろう。

「ヨク、オレ達ニ気付イタナ」

「ハロー!名無し。僕達に気付くなんてすごいね」

相変わらずのその姿に胸が締め付けられる。
赤い雲の文様が描かれた外套を纏った犯罪者。
それでも、自分にとっては特別な人達。

いつか、どちらかを選ばなければいけない日が来るのか。
自分にその時、正しい選択が出来るのか。
暁と里、そのジレンマに押し潰されそうになる。

(…それでも、今は…)

ゼツに駆け寄り、その身体を思いっきり抱き締める。
もう二度と会えない人達への思いが募る。
かつてのイタチの様に、自分もいつか何かを守る為に何かを犠牲にする日が来るのだろうか。
背中に添えられている手が自分に刃を向ける日が来る可能性もあるかもしれない。
そして、その逆もまた然り。

今の自分には何も分からない。

「オレ達ヲ呼ンダトイウ事ハ、戻ル気ニナッタノカ?」

「うん、皆のところに連れて行って欲しい」

「…分カッタ。ナラ、オ前ノ身体ヲ少シ借リルゾ」

そう言いながら自身を包み込む闇にその身を委ねる。
段々と薄れていく意識の中で大切な人達の顔が脳裏に浮かぶ。
何も知らなかったあの頃が酷く懐かしくて、せめて夢の中だけでも心が穏やかになるよう願いながら瞳を閉じる。

***

(やはり、こうなってしまったか…)

一尾を封印する最中、ゼツから木ノ葉の連中が来たと聞いた時から嫌な予感はしていた。
暁から名無しを遠ざけるつもりで里に残したが、それが逆に名無しの心をより一層、暁で縛ってしまう結果となってしまった。
風影を奪還しに来た名無し達の足止めとして対峙した時の悲痛な表情がずっと頭から離れない。
あんな顔をさせたくは無かった。

未だ眠り続けている名無しは何を思い、ここに戻って来たのだろう。
それ相応の覚悟を持ち、己の意思で戻って来た名無しに自分がしてやれる事はもう何も無いのかもしれない。
だが、守ると決めたからにはその意思は貫き通させてもらう。

「名無しの様子はどう?」

「チャクラの流れは安定してきている。直に目を覚ますだろう」

名無しがここに連れて来られた時、ゼツに身体を取り込まれる形でここまで運ばれて来たせいか、チャクラが不安定になっていた。
ゼツから引き剥がした後はチャクラも徐々に安定し落ち着きを取り戻していたが、目覚めるにはもう少し時間が掛かるだろう。

「やはり、戻って来てしまったのね。…本当に仕方のない子…」

普段は決して見せる事のない慈しむ様な視線を向ける小南も恐らく自分と同じだろう。
大きな渦へと巻き込んでしまった事に対する後悔と必ず守るという秘めたる意思。
言葉を交わさずとも、その節々に名無しに対する思いを感じる事が出来る。

今このアジトに居る自分達以外のメンバーは既に他の尾獣を狩る為に動いている。
この世界は直に大きなうねりと共に大きく変化するだろう。
今までに無い程の平穏か混沌か、それは誰にも分からない。
名無しには最早悲しむ暇すらも無い。

「お前に一つ聞きたい事がある。お前達はこれから先、名無しどうするつもりだ?」

今この場にマダラは居ないし、さすがにアジト内で自分達を監視する様な事は無いだろう。
そう問えば、その鮮やかな瞳に少しだけ感情が宿る。

「…私達は名無しを傷付けるつもりなど最初から無い。だが、この子が暁に戻って来てしまった以上、守り切れるかどうかは正直分からない」

「マダラ、か…」

マダラについて自分がその存在を知っているという事も予想の一つにあったのだろう。
自分のその言葉に対して然程驚く様子もなく、ただ静かな沈黙が流れる。

考える事は恐らく同じ。
この数年間で忍としての能力を更に開花させたであろう名無しは今や戦力として暁でも十分役に立つであろう域にまで来ている。
臨血界についても例外ではないだろう。
だからこそ、この時をマダラは見逃さない。

「皮肉なものだな…。俺達を止める為に戻って来たにも関わらず、逆にそれが自らを危険に晒す事となった」

「…それでも、それがこの子の意思ならその心は縛れない」

迫り来るであろう脅威に対し何かしらの対策は必要だ。
未だ静かに眠り続ける名無しに自分達の思いが届く事は無いだろう。
それでもこの心が闇に染まってしまわぬ様、最善の手を尽くそう。

例えそれが名無しの望まぬ結末となってしまうとしても。

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