[甘い罠]

*長編/From here to there with youヒロイン

女を抱いたのはいつ振りだろうか。
まさか自分自身がこの身体を便利だと思う日が来るとは思いもしなかった。

目線を自分の隣に移せば気持ち良さそうに眠っている名無しの姿が目に入る。
真っ黒で艶やかな髪は指で掬ってはその隙間からサラサラとこぼれ落ちる。
こうやって落ち着いてじっくりと名無しの顔を見たのは初めてかもしれない。
薄っすらと開かれた唇は少し乾燥していて、そこからは規則正しい吐息が聞こえる。
全体的にバランスが良く整っている方なのだろう。
身体も自分好みで悪くない。

(死姦は趣味じゃねーしな。まぁ、もっと俺好みに変えてやるよ)

頬に指をゆっくりと滑らす。
あの声を、あの表情を、その全てを名無しに与えたのが自分だと思うとゾクゾクする。

ただ一つ難を言えばこの倦怠感だ。
傀儡は疲れや痛みを感じない分、この身体になると余計にそれを強く感じる。
改めて人間の身体の脆弱性を認識した。

***

「…ん?、えっ、なっ…!…っ」

カーテンの隙間から入る日差しを感じて目が覚める。
まだ薄暗い部屋の中、ぼんやりとする頭を回転させゆっくりと瞳を開ければ見慣れた顔がそこにあった。
悲鳴が出そうな程驚いたが、何とか叫び声だけは抑える事が出来た。
気持ちを落ち着かせ、もう一度ゆっくりとその顔を見れば一瞬にして思い出される昨日の情事。
サソリの声や表情が鮮明に脳裏に浮かぶ。

(どうしよう、どうしよう…。うぅ…、小南さん助けて…)

自分が動けば絶対にサソリは目を覚ますだろう。
もちろん服は着ておらず、昨晩はそのまま眠ってしまったようだ。
緊張し過ぎて疲れたのか、情事が終わった後の事はよく覚えていない。
あの時はそんな事を考えている余裕が無かったから。

それよりも今はこの状況をどうにかしなければ。
どうしようかと考えてはいるが、こんな至近距離にサソリの顔があると落ち着かない。

(…起こす訳にもいかないし、このままっていうのも落ち着かない…)

サソリと関係を持った事が今でも少し信じられない。
その顔をじっと見つめればまた心臓が早くなる。
静かに眠るサソリの顔はいつものような意地悪な顔ではなく、ただ綺麗だった。
見た目だけなら自分と同じぐらいかそれよりも下に見えるかもしれない。

これが人傀儡の力。
サソリの「時」はこの姿を保ったまま止まっている。

***

結局、この状況をどうするか考えても答えは見つからず、ただ動かず静かにしているしか方法がなかった。

「見た目は若いけど、中身はおじさん?…なんか詐欺っぽいな」

「…さっきから人の寝顔を見てると思っていたが…。そんな事考えていたとはな。好き勝手に言ってくれるじゃねーか」

「え…っ」

瞳を閉じたまま急に発せられた言葉に、一瞬、頭の回転が止まってしまった。
聞こえないであろう程の小さな声だった筈なのにまさか返事が返って来るとは思わなかった。

「お、起きてたの…!?」

「お前が起きる前からな。…まぁ、そんな事は別にどうでも良い。それよりも…、いつまでもそんな格好で居るって事は何されても文句は言えねーよなぁ」

そう言うなりそのまま名無しに覆い被さり真上から見下ろす。
突然の行動に驚いている名無しの顔の両脇に手を置き反応を楽しむ。
戸惑い気味に目線は合わすが、何度も瞳を逸らされる。
驚きつつも大した抵抗をしないところを見ると、名無しなりに自分を受け入れているようで妙な征服感が生まれる。

「ちょっ…、待っ…て…」

静止の言葉を遮る様にわざと音を立てて口内を犯す。
舌を絡ませれば戸惑いながらもそれに応える仕草がいちいち欲を掻き立てる。
最初は手を使い弱々しいながらも抵抗していたが、その手を取り指を絡ませれば次第にそれも弱くなる。

唇を離し首から胸元に舌を這わせ赤い印を残す。
所々に残る印はまるで所有物の証。

「ちょ…っと、サソリ待って…。朝だから…誰か、部屋に来ちゃう…っ!そ、それに…っ」

「黙ってろ。こんな時間になんか誰も来やしねーよ」

「サ、サソリ…!」

いくら身体を重ねたからと言っても、経験の少ない自分にとっては恥ずかしいものはやはり恥ずかしい。
何とか言い訳を探し言ってはみるが、サソリには全く通用しない。

***

サソリから落とされる口付けに慣れる事はなく、される度に心臓が内側から大きな音を鳴らす。
瞳が合えば逸らしたいのに逸らせなくなる。
真っ直ぐ自分を見下ろすサソリは少し熱っぽくとても扇情的な瞳をしていた。
その瞳を見ているだけで昨日の甘い感覚が蘇る。
サソリが触れている部分に意識が集中する。
ゆっくりと肌を伝う手は少しくすぐったくて優しい。

「ん、あ…っ」

抑えようとしても自分の意思とは関係なく自然と漏れてしまう声に気付き恥ずかしくなる。
それに気付いているのか、いないのかは分からないけれど、自分の気持ちとは関係なく行為は進んで行く。
細いけどちゃんと男の人の身体で見ているだけで心臓の鼓動が早くなる。
そんな事を考えていたらまた深く舌を絡めとられ、唾液か少し顎を伝い落ちる。

(…物欲しそうな顔しやがって。堪んねーな)

横になっている名無しの身体を起こしながら自身に跨る様に座らせる。
名無しの腰に手を当てそこに自身を宛がい、ゆっくりと腰を沈めれば肩口に顔を埋めている名無しのぐぐもった声が聞こえた。
まだ二回目という事もあり慣れていないのだろう。
時折、腕を掴む手に力が入る。
根元まで押し込み様子を伺えば苦しいのか少し眉間に皺を寄せていた。

落ち付いた頃を見計らいゆっくりと前後に動かせば、段々と中も潤い始め滑りが良くなると名無しの声も少しずつ熱を帯び始める。
肩に埋めている顔をこちらへ向けさせ深く口付ける。
動いたまま舌を絡ませれば少し苦しそうな表情をするが、時折漏れる艶っぽい声が更に動きを早くさせる。
細い腰を掴み下から突き上げる様に動けば悲鳴にも似た声が耳に響き頭に残る。
動く度に様々な表情を見せる名無しにゾクゾクする。
もっと壊してやりたい、もっと感じさせてやりたい。

「ん…っ、え、サソリ…?」

「…もっと気持ち良くさせてやるよ」

急に動きを止めてそう言えば、不思議そうな顔でこちらを見つめる名無しの顔があった。
そのまま身体を抱き上げて四つん這いの体勢にさせる。
そしてそのまま腰を抱き寄せ再び自身を宛がう。

潤っているそこはすぐに自身を受け入れ熱が包み込む。
そのまま腰を掴み律動を開始させる。
先程よりももっと奥へと侵入させ腰を打ち付ければ名無しのシーツを握る手に力が入る。

「っ…、良いだろ?」

「んっ…、っ!」

覆い被さる様に耳元でそう言いながら背中に舌を這わせば、名無しの身体が震える。
下から上へと背骨をなぞる様にゆっくり舌を這わし啄ばむ様に口付ければ、激しい動きに合わさる様に名無しの口からは艶のある声と息が漏れる。

額に滲む汗が名無しの背中へと落ちる。
与えられる刺激と快楽に耐えつつも段々と乱れて行く名無しの姿をもっと見たくて容赦なく腰を揺さ振る。
深く突く度に漏れる声は扇情的でそれがより一層自身を昂らせる。

***

そろそろ限界なのだろう。
後ろから激しく腰を打ち付ける度に内壁が自身を強く締め付ける。
その感覚に耐える様にゆっくりと息を吐くが、締め付けは弱まるどころか益々強くなって来ていた。

「はぁ、…っ、おい…、そんなに締めるな…っ」

「やっ、あ…っ、そんなに、動かないで…、ん…っ!」

根元まで深く押し込めば自身を包む内壁の急な締め付けに吐精感を感じ、そのまま欲を中に吐き出す。
高鳴る心臓を落ち着ける様により自身を深く奥へ奥へと押し込めば名無しの中で何度か脈を打ち広がって行った。
息を整えゆっくりと自身を名無しから引き抜く。
そのままうつ伏せになっている名無しの隣に身体を横たわらせれば、赤みを帯びた顔で恨めしそうにこちらを見つめている瞳に気付く。

「何か言いたそうな顔だな」

「…今日、鬼鮫と修行なのに…」

「ククッ…、それは残念だったな。いつまでも俺の隣で裸で居たお前が悪い。せいぜい鮫肌の餌食にならねぇ事だな」

そう言い、憎たらしく笑いながら髪を弄ぶサソリの顔はとても妖艶でまた少し心臓が跳ねた。
修行の時間までまだ時間はあるが、きっとそれどころではないだろう。
うるさく鳴り響く心臓はまだ治まりそうにない。

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