[ 夢と現実 第二部]

眠れなかった。
身体は疲れているのに頭が冴えてしまい、瞳を閉じて無理矢理にでも寝ようとしたが、出来なかった。
身体を起こし、ゆっくりと仕切りを開けてみるが、やはりそこにはイタチの姿はなかった。

(…眠れないし、少しなら外に出てもいいかな…)

イタチが出て行った時の様に窓から外へと出る。
外は少し肌寒かったが、我慢出来ない程ではなかった。
そのまま辺りを少し歩き、街灯の下にあるベンチに腰掛け空を見上げる。
街灯には光に吸い寄せられるようにたくさんの虫達が集まり飛び交っていた。

どれぐらいの時間が経っただろうか。
身体はいつの間にか冷たくなっていたが、それでもこの場所から動く気にはなれなかった。
そのまま膝を抱え顔を埋める。

***

「なーなー、姉ちゃん大丈夫?気分ワリーの?」

突然、自分のすぐ近くで声が聞こえ、ゆっくりと顔を上げれば、オレンジ色の服を着た男の子がこちらを見ていた。
こんな夜更けに男の子が一人で出歩いているのかと怪しく思ったが、こちらを気遣う様な瞳を見ていたら不思議とそんな気も無くなり、大丈夫だよと微笑んでいた。

「あのさ!何で姉ちゃんこんな時間にここに居たの?」

「…眠れなかったから外に出てみようかなって思って。君は?こんな時間に外に出ちゃって親御さんに怒られない?」

「俺ってば両親居ねーし、それに今日はエロ仙人とバァちゃんに居酒屋に連れて行ってもらって、その帰りだってばよ」

あっけらかんと話す男の子は特別寂しそうな訳でもなく、今日の事を思い出しながら自然と笑っていた。
その笑った顔を見ていたら、自分も彼等と一緒に居る時はこんな風に笑っているのかなと男の子と自分とを重ね合わせていた。

「…君は両親が居なくて寂しくない…?」

「んー…、寂しい時もあるけど、今は仲間がたくさん出来たから寂しくねーってばよ!」

「そっか、君は強いね…」

仲間が出来たから寂しくないって思う気持ちは同じ。
皆が居るから今の自分は笑っていられるし、もっと頑張って強くなろうと思う。
今はまだ役に立てないけれど、いつか等を手助け出来る様になりたい。

「あ、そういえば自己紹介がまだだったね。私の名前は苗字名無し。君は?」

「オレってば火影候補ナンバーワンのうずまきナルトだってばよ!」

「ふふ、ナルト君か。よろしくね」

たまには夜に外に出掛けるのも悪くないと思った。
こうやって新しい友達も出来たし、自分がどれ程彼等の事を大切に思っているかを初めて実感した。
きっとナルト君にも大切な人がたくさん居るから自分の事を悲観せずに居られる。
人と人との繋がりが悲しみや寂しさを包み込んで幸せに変えていく。

「名無し姉ちゃんってば忍者?」

「そう見える?うーん、でも私って忍者なのかな…。修行はしてるけど忍者っていう自覚はないし…。ナルト君は忍者だよね。その額当て見た事あるよ」

「ニシシ!これってばオレが下忍になった時にイルカ先生がくれた大事な額当てだってばよ。オレの宝物!」

その額当てが本当に心から大切な物だという事がナルト君の笑顔を見ていたら分かる。

***

色々な事を話した。
忍者になる為のアカデミーではいつもバカな事をやってよく怒られたとか、ナルト君の先生や師匠の事、好きな女の子やライバルの男の子の話とか、本当にたくさんの事を話した。

「んでさ!んでさ!そん時、オレがラセンガンって必殺技でさドカンてやって、そしたら敵がブォーーってなって、そんでさぁ…」

「ナルト君はその人の為に戦って守ったんだね。ふふ、カッコいいね」

「そんな風に言われると照れるってばよ。そうだ!名無し姉ちゃんには大切な人って居るの?」

大切な人って居る?
そう問われすぐ頭に浮かんだのは、おばあちゃんの顔と両親の顔、そして…、皆の顔だった。
居るよと笑顔で答えれば、ナルト君も笑顔で「名無し姉ちゃんもオレと一緒だな」って笑って言ってくれた。

「人ってば、大切な何かを守りたいって思った時に、本当に強くなれる、って初めて戦ったヤツに教えてもらった。
だから、オレも名無し姉ちゃんも今よりもっともっと強くなるってばよ!」

「うん…、そうだね。私もそう思う」

何故だろう。
いつの間にかモヤモヤしたものが晴れていて、とてもスッキリした気分になっていた。

「大切な何かを守りたいと思った時に、本当に強くなれる」

いつの間にこんなにも大切だって思うようになっていたのだろう。
ナルト君と話をして少しだけあの夢の出来事を受け入れる事が出来た。
お母さんも大切な人を守る為に戦ってた。
大切だから守りたい。

(私ってバカだな…。そんな事にも気付いていなかった。大切な人を失いたくないから、戦う。ただ、それだけ…)

***

「じゃあ、オレはそろそろ帰るってばよ!名無し姉ちゃんも気を付けて帰れよー!姉ちゃんビジンだから、エロ仙人みたいなヤツには気を付けろよ!」

「ははは、気を付けるね。今日ナルト君と話せて楽しかったよ。ありがとね」

「ニシシ!オレも名無し姉ちゃんと話せてすっげー楽しかったってばよ!」

手をブンブンと振りながら走って行くナルト君の背中を見送った後、自分も部屋に戻ろうと踵を返すと、そこには見慣れた顔があった。
相変わらず無表情だけど、自分の様子を見に来てくれたのかと思うと自然と顔がゆるくなる。

「…早めに寝ておけと言ったはずだが」

「私にだけ早く寝ろだなんてズルイでしょ?」

意地悪にズルイでしょと言葉を返せば、イタチの口からは小さな溜息が漏れる。
とは言ってももう真夜中だ。
ズルイと言ったが明日の為にもそろそろ寝た方がいい。

「そういえば今までどこに行ってたの?明朝には戻るって言ってたけど…」

「………」

「…もしかして、ずっと外に居たの?」

無言のまま返事をしないイタチの手を取ってみると、指先まで冷たくなっており、長時間外に出ていたのだろうという事が分かる。
イタチは何も言わないから、こちらが気付かなければ今みたいにこうやって身体が冷たくなろうと気にしない。
私には明日に備えて早く寝ろって言うくせに、自分の事はいつも後回しだから心配になる。

「ねぇ、一緒に帰ろ?手だってすごく冷たくなってるし、こんな所に居たら風邪引いちゃう」

「俺は問題ない。お前は先に戻って寝るといい」

「…ふーん。じゃあ私も眠たくないしここに居る」

そう言い返せば、じっと何か言いたそうな顔で見つめてくるが、知らん顔をする。
人の事は言えないが、イタチも変なところで頑固だ。
何も言わずに行動するからたまに不安になる。

再び先程のベンチに腰を掛け夜空を見上げる。
しばらく静かな時間が流れ沈黙が続いたが、先に口を開いたのはイタチの方だった。

「俺達が怖いか?」

「…怖くはないよ。夢の中で何かを守る為には何かを犠牲にしなければいけない時もあった…。心を殺して任務に就いて、そしてまた傷付く。
その繰り返しだった。だから、怖いと言うよりも…、悲しいかな」

「上の命に従い動く。それが忍だ」

おばあちゃんも両親も暁の皆もナルト君も「忍」
屈託ない笑顔で色々な事を話してくれたナルト君の顔が頭に浮かぶ。
ナルト君は大切な何かを守りたいって思った時に本当に強くなれるって教えてくれた。
大切な人を失いたくないから守る為に戦う。

「…さっき会った男の子は、私よりもずっと年下で忍なのに大切な人を守る為に戦うって言ってた」

「忍に年齢や性別は関係ないからな。お前が言ったように、何かを守る為には何かを犠牲にしなければいけない。それがこの世界では常日頃に起こる」

「…イタチも何かを守る為に何かを犠牲にしたの…?」

名無しと話すとあの夜を鮮明に思い出す。
サスケを救う為に一族を両親を殺めた日。
両親は俺に殺される事を受け入れサスケを託した。
俺は弱くてあんな方法でしか自分の大切なものを守る事が出来なかった。

俺は裏切り者だ。

***

最初はただ驚きだけだった。
まさかイタチがあんな顔をするなんて思ってもいなかったから。
イタチのあんなにも悲しそうな顔は初めて見た。

「イタチ…、大丈夫?…すごく、悲しそうな顔してる」

「気のせいだ」

「………」

違う。
いつものイタチじゃない。
何かを誰にも知られない様に隠してる。
そうじゃなければ、あんな悲しい顔はしない。
イタチの過去に何が起こったのかは知らないけれど、今はその悲しみを少しだけでも取り除いてあげられればと心からそう思った。

「決めた!ほら、早く帰ろう!」

「俺は用事がある」

「…ダメ。今日だけ私の言う通りにして」

イタチの手を取り、半ば強引に引っ張るような形で宿の方へと連れて行く。
無理にでも手を振り解けばすぐに離れるぐらいの力だが、何も言わず付いて来てくれるイタチやっぱり優しい人だ。
だからこそ、その心を少しでも救いたかった。

***

「はい!早くこっち来て」

「…何のつもりだ」

「何のつもりだって見れば分かるでしょ?一緒に寝よ。こういう時は一人で居るより二人で居た方が良いんだよ」

仕切りの襖は開けられ二つの布団が並べられている。
扉の前に立っていたら「ほら、明日早いんだし、早く寝ようよ」と催促の声が聞こえた。
ポンポンと手で布団を叩きながら、手招きしている姿にまたも少し頭が痛くなる。

***

「ふふ、最初から外になんか行かずにこうしてれば良かったのに。温かいでしょ」

「…うるさい。早く寝ろ」

あれからブツブツと小言を言われ続け、現在の状態に続く。
チラリと瞳だけを名無しの方へ向ければ、こちらに身体を向け寝る気配を感じさせない。
こいつは本当に何も分かっていない。
いくら気心の許した相手でも男と女は違う。
今回の一件でまた名無しの心配事が一つ増えた。

「…ねぇ、イタチはどうして暁に居るの?木の葉の里に着いてからずっと周りを警戒してる感じだったから。この里には居られないのかなって思って」

「………」

「答えたくなかったら答えなくても良いからね」

話したくないのだろうか。
身体を自分とは反対側に向け、寝る体制をとっているイタチは沈黙を貫いたまま静かな呼吸だけが聞こえた。
返事を待っていたが何も話さなかったので、そろそろ諦めて自分も寝ようとした途端、耳を疑う様な言葉が聞こえた。

「俺は自分の一族を殺害し里を抜けた。俺は木の葉の抜け忍。つまり、里の裏切り者だ」

イタチのその言葉を聞き、小さく驚きの声が漏れた。

自分の一族を殺害したとイタチは言った。
それから少しずつ話してくれた。
相変わらず背中を向けたままで表情は分からないが、イタチの声はいつもの冷静な声色のままだった。

「…これでも、まだお前は俺を怖くないと言えるか?」

己の器を測る為に一族を、両親を、全てをその手に掛けたとイタチは言った。
それと同時に「暁」がそういった人物、S級犯罪者達の集まりであるという事も知った。
何故、イタチが里に入る前に「暁」と「イタチ」という言葉を発するのを禁止したのかがようやく分かった。
それと同時にイタチの言葉が真実であるという事も。
いつの間にか、話し終えた頃にはイタチの身体はこちらに向いており、まっすぐ瞳が合う。

「………」

その問いにすぐには答えられなかった。
怖くないって言ったら嘘になる。
その話を信じられない、信じたくない自分も居る。

でも、この世界に来てから今まで一緒に居た「イタチ」がそんな事をする様な人には、どうしても見えなかった。

「何かを守る為に何かを犠牲にしたの?」って聞いた時のあの顔。
それを聞いた時、あんなにも悲痛そうな顔をする人が心の無い裏切り者の筈がない。
その思いは自分の中で一つの確信の様に心に根付いていった。

「…私は信じてるから怖くない。例え何が真実だとしても、私の中では何も変わらないしイタチはイタチだから。それ以外の何者でもない。
それに…、何かを思って悲しく感じる心があるなら、私はそれだけで信じられる」

そう答えれば「そうか」と一言。
前に、小南さんと平和について話した事があった。
その時の小南さんと同じ。
それ以上何も聞けないし、それ以上踏み込む事が出来ない。
そんなもどかしさがあった。

そして話はそこで終わった。

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