[16. 忍術]

「今までの修行で基本的な事は出来るようになっただろう。…今日からはそれを応用した術を教える」

そう言うなり目の前にはもう一人のイタチが現れる。
これは分身という術らしく、前に鬼鮫と練習した事を思い出だす。
最初は目の前で起こった出来事にいつも通り身体が震えたが、もうそれにも大分慣れた。
この世界では何にでも慣れなければ身がもたない。

「分身の術はオリジナルの残像を作り出す術であり、物理的に何かに触れたり術を使う事は出来ない」

「鬼鮫もそう言ってた。ただ残像を作り出すだけであまり意味はないって…」

自分の言葉に頷いた後、今まで居た分身は消えまた新たに別の分身が現れた。
イタチ曰く、この分身は同じ分身系の術でも先程のものとは違い「影分身」という術らしい。

「この術は分身の術よりもチャクラを使用する代わりに残像ではなく実体を作り出す。簡単に言えば自分と同じように行動し何かに触れたり経験したりする事が出来る」

普通の分身よりも耐性があり、分身が経験した事はその分身が消えた後に術者の記憶として残る。
しかし、この術は今までの術とは違い、分身体の数だけ本体のチャクラも分割される為、難易度が高くチャクラも大量に使用する。
その為、潜在的に多くのチャクラ量を秘めている自分向けだとイタチは言った。
自分にどれ程のチャクラが秘められているのかは分からないが、イタチが自分向けだというのであればそうなのだろう。

イタチの言葉は不思議と信じられる。
何が自分にそう思わせるのかはっきりとは分からないが、きっと彼のその誠実な態度や雰囲気がそう思わせるのかもしれない。

***

「…分身の術をやる要領でチャクラを練り込み、それを分身する人数分に均等に分割する」

チャクラを扱う修行は今までのチャクラコントロールの修行で何度も練習した。
そのお陰か分身の術も今では問題なく出来るようになった。
しかし、まだ潜在的なチャクラ量に関しては上手く引き出せていないところがあるらしい。

「影分身の術…!」

とりあえずイタチと同じように一人分身を出してみた。
確かに普通の分身の術に比べるとチャクラもそれなりに使っている事が分かる。
ただ、さっきイタチが「チャクラも大量に使用する」と言っていたが、今のところは想像していたより身体に負担を感じる事はなかった。

(…やはりな。道理で呑み込みが早い筈だ)

写輪眼はチャクラの流れを見抜く。

名無しの中には名無し本人のチャクラの他に別の流れが二つ存在していた。
一つは名無しを生き返らせた時に残った母親のチャクラ。
ただ、もう一つのチャクラはもっと濃いものを感じる。
恐らくこのチャクラが苗字一族の能力を引き出す鍵。
成長が著しく早いのもこのチャクラと母親の能力を引き継いでいる事が大きな要因だろう。

「…何か変な感じ。分身に自分の意志があって、それが全部繋がっているような感覚…。なのかな?」

「それが影分身の特徴だ。術を解けば分身達が経験した精神的な物事全てがオリジナルにそのまま還元され蓄積される」

百聞は一見に如かず。
何事も体験しそこから学んでいく。
この世界に来て色々な事を体験し学んで来たからこそ、それが如何に大切かを理解出来るようになった。

「今からオリジナルと分身の二組に分かれる。分身は俺に付いて来い」

そのままオリジナル達から見えない場所まで歩いて行く。
着いた先は以前角都と一緒にチャクラコントロールの修行をしたアジト近くにある湖。

「ここら辺で良いだろう。俺達分身の姿はオリジナルの方からは見えない」

「…?ここで何をするの?」

そう聞くや否や、首根っこを掴まれ勢い良く湖に投げ込まれた。
それはあまりにも突然で悲鳴を上げる間もなく気付いた時には既にずぶ濡れ状態のまま湖の中に立っていた。

「………」

「よし。そのまま影分身の術を解け」

正直、今の状況に頭が一瞬付いて行かなかったが、イタチの普段と変わらない冷静な声を聞いていたら沸々と怒りが込み上げてきた。
湖から上がりながらこの理不尽な行為に対する文句を言ったが、聞いているのかいないのかイタチから返事は返って来なかった。

「もー!!分かったわよ!解けばいいんでしょ!?解けば!イタチの馬鹿っ!」

文句を言っている間も何も言わず、ただじっと見つめられる居心地の悪さに耐え切れず半ばやけくそのまま術を解いた。

「ねぇ、影分身達って何やってるの?」

「もうすぐ何をしていたか分かる」

***

ピクっ

「あっ、え…?…ってイタチっ!いくら影分身だからって言ってもあんな風に急に投げないでよ!」

「これで分かっただろう。影分身の経験値はオリジナルの中に蓄積されていく」

「………」

ここまで徹底的に無視出来るのもある意味すごいものだ。
何を言っても聞き流すイタチにもう何を言っても無駄だろう。
小さく溜息をつき気持ちを新たに切り替える。

イタチの言う通り影分身の経験値がオリジナルに蓄積されるのならば、もし影分身を上手く使って修行をしたら、もしかしたら今より強くなれるかもしれない。
最近は自分の成長を実感する事がこの世界での自分の存在意義のように感じる。

「…体験した事が経験値として蓄積される…。例えば影分身を使って修行したら分身の数だけ修行した経験値がオリジナルに還元されるって事になるんだよね?」

「だが、蓄積されるのは経験だけではなく、精神的な疲労も一緒に蓄積される。確かに効率は良いが疲労も分身体の数に比例して増えて行く」

「う〜ん…、やっぱり難しいのかな…」

難しい訳ではない。
一体だけではあったが、影分身の持続時間、スタミナ共に自分の予想以上だった。
正直、上忍レベルの忍術である影分身を教えるには名無しにはまだ早いかもしれないと思っていた。
だから、まさか口頭で簡単に説明しただけで出来るとは思わなかった。

うちは一族には古くから伝わる書物の中に千手一族をはじめ、数多くの一族について記されている書物があり、その中に苗字一族の事も記述されていた。
書物には千手柱間とその妻うずまきミトとの間に生まれた子供が苗字一族の初代族長になったという伝記があった。
苗字一族は陽遁に特化した一族であり、生命を司る身体エネルギーを元とする力が強く、チャクラ質も抜きん出ており上位種の口寄せや高等忍術を得意としていた。

そして、その書物には名無しに出生の真実を語った口寄せ「白虎」についても書かれていた。
口寄せの中でも最高位の幻獣系であり、あの森で名無しが苗字一族の者かもしれないと自分に疑問を抱かせた口寄せ。
書物には白虎に関する詳しい事は書かれていなかったが、その風貌を描いたものがあった事があの森での出来事を大きく変えた。

それは偶然か必然か。
自分がその書物を見つけ、読んだ数時間後に上層部から一族抹殺の極秘任務が下された。
抜け忍になれば一生うちはの家に足を踏み入れる事などない。

あの日見た絵が名無しの運命を動かし進ませている。

(…一族の運命を断ち切ったあの日に名無しの運命を動かす絵を見るとは…。ふっ、皮肉なものだな…)

忘れられる筈がない。
愛する家族や一族を殺めたあの日からいつかサスケと戦い倒されるその時まで。
最期を迎えるまでの限られた時間。
自分の前に現れた名無しを導く事がせめてもの罪滅ぼしのように感じる。

一人でも生きて行ける程の力を身に付け、自分の意思で自由に生きて行けるよう。

「これから影分身を使った修行には俺が付き合おう。当分は任務も入らないだろうからな」

「えっ…、影分身で修行しても大丈夫なの?」

「分身体の数と分身時間を調節しながら使えばさほど問題は無いだろう」

そう答えれば、嬉しそうに感謝の言葉を掛けながら意気込んでいる名無しの姿を見つめる。
その一途で真っ直ぐな瞳が何度もサスケと重なる。

『ねぇ!一緒に遊ぼう兄さん!』

『兄さん食後にオレにも分身の術教えてよ!』

『…アンタの言った通り…アンタを恨み憎みそして…、アンタを殺す為だけにオレは…生きて来た!!』

自分を高める為、何事にも真っ直ぐ突き進む姿。
形は違えどもその一途で強い思いが伝わってくる。
無邪気に笑い何も知らずにどんどん巨大な流れに巻き込まれて行く。
そしていつか、名無しも誰かを手に掛ける時が来るのだろうか。

常に死が付き纏うこの世界。
未だ何も知らない赤子の様な名無し。
自分がこの先、長く生きる事はない。
近い将来、必ず来る結末。
その時までこの手を守ろう。

この手が悲しみや憎しみが渦巻くこの世界の色に染まってしまわぬよう。

サスケと名無し。
願わくば二人に安寧と幸せを。
そして、多くの悲しみを包み込むほどの愛を。
うちはの憎しみ悲しみは俺が全部持って行く。
こんな事しか与える事が出来なかった自分をどうか忘れて欲しい。

それが自分の最後の願い。

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