[15. 誤解]

ここでの生活は体感する全てのものが新しく、自分にとっては、とても刺激のあるものだった。
修行自体は相変わらず奇想天外なものだが、それにもだいぶ慣れてきた。

ただ、一つだけ気になる事があった。

「ねぇ、ここの皆って食事はどうしてるの?」

そう、隣に座っている飛段に素朴な疑問をぶつけてみた。
ちなみに、今自分が居る場所は暁メンバーが任務など様々な用件や話し合いなどを行う部屋だ。
内装は他の部屋とあまり違いは無いが、それなりに人数が入るよう広めになっている。
何故、自分がここに居るのかと言うと、ただアジトを散策していた途中、この部屋からサソリ、デイダラ、飛段の三人の声が聞こえたからだ。

「食事だぁ?俺は作れねーから、角都の奴に作って貰ってるけど、他の奴等は知らねーよ。デイダラちゃんは粘土でも食ってんじゃねーの?ゲハハハ」

ピクっとデイダラが飛段の言葉に反応する。
あぁ、またそんな余計な事言って…。

「んだとてめぇ!オイラは粘土なんか食わねーよっ!!お前こそ角都に作ってもらわないで自分で作りやがれ!うん!」

また始まった。
お互いが頑固でムキになり易い性格だから、言い合いはどんどんエスカレートし、仕舞いには喧嘩に発展するのがいつもの事だ。
この光景を見て溜息をつくのもいつもの事。
ただ、いつもと少し違うのは、ここに自分達の他に今日はサソリが居るという事。

サソリはまるでデイダラの保護者だ。
デイダラもデイダラで、サソリみたいに冷静で簡潔に話す人の言う事はちゃんと聞くらしい。
飛段の挑発を軽くあしらう姿はデイダラにも見習わせたいものだ。

「んだよ、つまんねーなぁ。そうだ!なぁ名無し〜、二人で楽しい事でもしようぜぇ。絶対満足するぜぇ」

そう言いながら、まるで自身を引き寄せる様に軽く抱き締める飛段。
そんな自分達の様子を見て、再び顔に青筋を浮かべるデイダラ。
周りなど気にする事なく延々と何か話している飛段の顔は楽しそうで、ただ苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。

空気を読めないのが飛段の悪い所だ。
これから起こるであろう騒動にまた頭を抱えたくなる。

「ゲハハハハ!!デイダラちゃんよー!男の嫉妬は醜いもんだぜ〜」

「違うっつーの!お前が名無しにちょっかい掛けるのがムカつくんだよっ!うん!!」

目の前で繰り広げられる馬鹿げた言い争い。
デイダラの言葉に対し、それが俗に言う嫉妬ってやつじゃないのかと、内心思いつつも決して口には出さない。
名無しも名無しで、いつもの事なのか気にする様子もなく近くにあった本に手を伸ばし読み始めた。

「女だったら、誰かれ構わず手ぇ出しやがって!この節操なし野郎!そんなんだから、全然女にモテねーんだよ!うん!!」

「んだとコラっ!ジャシン様が付いてる俺がモテない訳ねーだろ!デイダラちゃんこそ、そんな低い身長じゃあモテねーな!ゲハハハ」

何だとこの野郎!
お前こそ!
一向に納まりそうのない、言い争い。
そして、段々とイライラし始めているであろうサソリ。

(今のうちに逃げようかな…)

このまま静かに退散した方が被害は少ない。
サソリは一度怒り始めると容赦しない。
ましてやあの二人なら尚更だ。
よし、今がチャンス。

「おい、どこへ行く」

後ろに目でも付いているのだろうか。
忍び足で出口に向かっていた自分を制する声。
それはまるで「ここで大人しくしてろ」と言わんばかりの威圧感が含まれていた。
ここは素直に言う事を聞いておかなければ後が怖いと頭が瞬時に判断する。
サソリがここに居ろと言うのならば、自分に被害は来ないだろう。

サソリは変な所で律儀な性格だ。
とりあえず、あの二人の近くでは騒がしいのでサソリの隣に座る事にした。
角都はどこかへ行ってしまったので、今この場に彼等を止められるのはサソリだけだ。

「…ねぇ、あの二人止めないの?」

正直うるさい。
アジト内での仲間同士の戦いは禁じられているらしいから、その分どんどんと激しくなる口論。
しかもその内容が子供同士の罵り合いのレベルだ。

「はっ!オイラだって岩隠れの里に居た時は粘土造形師として滅茶苦茶モテてたんだぞ!お前のジャシン教と一緒にすんじゃねーよっ!」

「あぁ?ジャシン様をバカにすんじゃねーよ!この無神論者が!!そのモテてたのも勘違いなんじゃねーのか?」

そしてまた冒頭に戻る。
言い争いの内容はどっちがモテてたか?というものだ。
思春期真っ只中の子供か。

「名無しにも相手にされねーデイダラちゃんは可哀相だな!ゲハハハ!」

「てめぇだって相手にされてねーだろっ!」

わざわざ私を巻き込まないで欲しい。
二人の喧嘩に巻き込まれれば簡単には逃げられない。

「そう思ってるのはデイダラちゃんだけだぜぇ?名無しは中々良い身体してるぜ〜」

ゲハハハ!と言いたい事だけ言って満足そうに笑う飛段に対し硬直しているデイダラ。
誤解される様な言い方は極力お断りしたい。
今日で何度目か分からぬ溜息をつく。

「お前、飛段とヤったのか?」

サソリは相変わらず直接的な物言いだ。
こちらに顔を向けながらそう言うサソリの問いに再び溜息を漏らす。

(どうやって、誤解とこう…)

これからの事を考えていたら、ふと、後から聞き慣れた声が聞こえた。

「飛段、いつまで待たせるつもりだ。さっさと準備しろ」

角都だ。
いや、角都様だ。
なんて良いタイミングだろうか。

「角都!飛段の馬鹿がまた皆に誤解される様な事言い出したんだけど…。お願いだからどうにかして…」

名無しにとっての唯一の希望である角都に助けを求め、今までの事の成り行きを簡単に説明した。
そんな中、角都と話している途中、急に後ろから大声で名前を呼ばれた。

デイダラだ。
両肩をガシっと掴まれ激しく前後に揺らされる。
何であんな奴とヤってんだ!とか、今からでもまだ間に合うぞ!とか色々言っている。
完璧に誤解しまくっているデイダラ。

「…おいデイダラ。それ以上やったら名無しの首が取れるぞ」

サソリの言葉でどうにか開放されたが、未だに頭が揺れている感じがする。

「飛段、お前も紛らわしい様な言い方はするな。名無しとこいつの間には何も起こっていない」

そーだ、そーだ!と後ろから聞こえる名無しの声と小さく舌打ちをする飛段。
その後も、どうして飛段が名無しの身体の良し悪しを知っているのかなど、修行の時に起こった事を詳しく説明してくれた。

「…でその時にこいつが勝手に発情しただけだ」

発情って…。
でもあの時、角都が居てくれて本当に助かった。
とにかく、一応これで誤解は解けた。
全くもって傍迷惑な話だ。

「でもよー、あの時は名無しだって抵抗しなかったぜ?」

「あれは、突然の事でビックリしたからだよ」

「って事は、同意の上での行為だってのに、良いとこで邪魔しやがってよぉー」

「………」

飛段の頭は一体どんな思考回路をしているのだろうか。
全員呆れた様に冷たい視線を向ける。
そろそろ、空気の読み方ぐらい覚えた方が良さそうだけど、それにが出来ないのが飛段だ。

(…ホント仕方ないんだから)

たまに見る事が出来る修行の時とはまた違う彼等の顔。
そんな彼等に呆れつつも、嬉しいような楽しいような不思議な感覚を覚える。
最近よく感じるこの感覚。
一緒に居るとすごく楽しい。

うるさくていつも騒がしいけど、それさえも本心では楽しいって思ってる。

「何笑ってやがる」

「別に何でもないよ?ただ…、変な感じがするだけかな。こういうの初めてだから、呆れる気持ちもあるけど楽しいって思うの」

「ふん…。くだらねぇ」

名無しの話にそう答えてやれば、少し不貞腐れたような顔をしていたが、そのまま放っておいたらいつの間にか機嫌が直ったのか、
未だに騒がしい方向に目を向けたまま薄く微笑んでいた。

こいつは、自分達の本当の顔をまだ知らない。
自分達の正体を知った時、どう思うのだろうか。
殺した事も、死体を見た事も無い様な奴が真実を知った時、どうなるのか。
もし、それで心が壊れてしまったら、感情も何も無い傀儡にしてやろう。

「早く壊れろ」

それは誰にも聞こえないような本当に小さな思い。

傀儡は量より質が何よりも重要だから。
あいつは必ず良い傀儡になる。
三代目と肩を並べるかそれ以上だ。
今すぐにでも名無しをこの手に掛けたい気持ちを抑え、今はまだいつか来るであろうその時を待つ。

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