[14. 出会い]

こちらの世界に来てもう随分経った。
その間、ほぼ毎日修行をしていた。
修行と言っても以前デイダラが言っていたように、回避中心の修行にチャクラコントロールや術の修行を混ぜたような修行だった。
彼等の任務がない日はいつも誰かと修行をしていた。
皆にしてみれば楽しいのかもしれないが、自分にしてみれば正直地獄のようだった。

何度も何度も殺されかけ、何度泣かされたか数えきれない程だった。
その血の滲む修行の賜物か、体力も反射神経も以前とは比べ物にならない程に良くなった。
彼等と比べたらまだまだ足元にも及ばないが、それでも自分の変化をこうやって実感出来る事は嬉しかった。

「…今日は休み?え、でも…、修行しなくて良いの?」

「息抜きもたまには必要ですよ。今までの生活と全く違う環境に居ると疲れやストレスも溜まるでしょうし」

今日は鬼鮫と忍術の修行をするはずだったが、どうやら疲れが顔に出ていたのかそう提案してくれた。
その申し出はとても嬉しいが、ただ休んでいるだけというのも時間が勿体ないように感じた。

(せっかく鬼鮫が気を使ってくれたんだし、ここに居ても何もないし、部屋で何かしようかな…)

自室に戻りベッドへ腰掛ける。
いつもであれば外で修行をしている時間帯だ。
何かやるといっても何もする事はないし、一人でどこかに行ける訳でもない。

(うーん、困ったな…。何しよう)

窓の外を見ても太陽はまだ上がったばかり。
日没にはまだまだ時間がある。
窓の外をぼんやりと見つめながら何をしようか考えていたら、空からはらはらと何かが降って来た。

(ん…、雪?じゃないよね。そんな季節じゃないし…)

窓を開けそれを手に取る。
手に取ったそれは綺麗な色紙を細かく切ったような形をしていた。
はらはらと舞い上がったり舞い散るその光景はとても幻想的で魅入ってしまう程綺麗だった。

(…誰かが飛ばしているのかな?…でも思い当たるような人なんか居ないし…)

今日は時間もたくさんあるし、気晴らしがてらもう一度外に出てみる事にした。
外に出れば風が気持ち良く、部屋の中に居た時よりも気持ちをスッキリさせてくれた。

アジトの周りを少し歩けば遠くに見知らぬ女性が立っており、今までに会った暁のメンバー同様、黒地に赤い雲の模様が描かれたコートを着ていた。
遠目から見ても分かるぐらい綺麗な人だった。

「…あなたが名無し?」

そのままぼんやりと見つめていたら突然声を掛けられた。
まさか自分に気付いているなんて思ってもいなかったから少し驚いた。
自分の名前を知っていると言う事は既に誰かから自分の事を聞いたのだろう。

「あ…、はい。初めまして。苗字名無しと言います」

軽く会釈しながら自己紹介をした。
遠くから見た時にも思ったが、近くで見ると更に綺麗な人だなって思った。
はっきりとした顔立ちに綺麗な髪色。

「私は小南よ。よろしくね」

「よろしくお願いします。えっと…、さっき窓から綺麗な紙が舞っていたのを見てここまで見に来たのですが、あれって小南さんですか?」

「えぇ、そうよ。小さい頃から折り紙が好きで今も紙を使って色々な事をやるわ。さっきの気に入ってもらえた?」

「はい!窓越しに見てて舞い上がったりする折り紙がすごく綺麗で誰がやっているのか気になって見に来ちゃいました」

そう答えると、小南さんは柔らかく微笑んだ。
それは女の自分から見てもその微笑んだ顔は見惚れてしまうものがあり、大人の女性の色香が伝わって来そうだった。

「ふふ、変わった子ね。あなたの事はペインから聞いているわ。少し話でもしましょう」

「はい。えっと…、ペインって誰ですか?」

「ペインは私達暁のリーダーよ。あなたはまだ会った事はないわね」

小南さんに促され近くの岩場に腰掛ける。
そこは丁度木陰になっており、風がひんやりと冷たく気持ち良かった。
暁に女性が居るだなんて誰も教えてくれなかったから、居ないものだとばかり思っていた。
だから少し嬉しかった。

「この世界にはだいぶ慣れた?あなたの元居た世界とは随分と違うでしょ?」

「最初の頃に比べればだいぶ慣れました。私の世界には忍術や口寄せやチャクラというものは無いので、初めて見た時はすごいびっくりしました。
今でもまだ驚かされる事たくさんあります」

まるで初めて未知なる物を見た時の子供の様に話す名無しは無邪気に笑い嬉しそうだった。
こんなにも無邪気に笑う人の笑顔を見たのはとても久しぶりだった。

そんな名無しの無邪気な笑顔を見ていると本当にこの子が戦争や争いの無いこの世界とは違う他の世界から来たという事を実感する。

「ねぇ、名無しの住んでいた世界はどんな所だったか聞かせてくれる?」

「私の世界ですか?…そうですね、私が住んでいた世界は朝でも夜でもたくさんの人が街や自分達の好きな場所で自由に好きな事をしたり、
色々遊んだり出来る場所があって、あとは…」

自分の住んでいた世界を客観的に他人に説明する事は意外と難しいなって思った。
何気なく当たり前のように住んでいたから尚更そう思う。
ここに住み始めてこんな風に自分の事を聞かれたのは初めてだった。
他のメンバーは干渉しない性格なのか、ただ単に興味がないのか誰も何も聞いて来なかったから。
だから嬉しかった。

「ふふ、名無しの住んでいた世界はとても素敵な所なのね。そうね…、最後に一つ聞いてもいいかしら?」

「はい、何でしょう?」

小南さんはそう言うなり自分と向き合う形に座り直し、少しだけ真剣な顔つきになった。

「…名無しは平和ってどんなものだと思う?素直なあなたの言葉が聞きたいわ」

人からそんな質問をされたのは初めてだった。
物心付いた時から今までずっと普通の生活だった。
自分にとって「平和」は当たり前のもので、どんなものなのか考えた事もなかった。
だから、その質問にすぐには答えられなかった。

平和。
その言葉自体の意味は分かっているつもりだけど、それが「何なのか」って真剣に考えた事はなかった。
この世界に来る前は何の不自由もなく、至って普通の生活を過ごしていた。
だけど、それと同時に両親が居ないという事の寂しさもいつも感じていた。

初めて自分の両親の最期を知った時「何でこんな世界に生まれたんだろう」ってずっと思っていた。
両親や自分が別の世界で生まれていたらもしかしたら今も家族で幸せな生活を送っていたのかもしれない。

そう考えると「平和」ってそんな悲しい事が起こらない事なのかなって思った。
でも、それ以上に「平和」は人の心次第だと思った。
いくら自分の周りに争いがなく平和だったとしても、独りだったとしたらそれはとても悲しいから。
誰かと繋がっているからその幸せを実感出来る。
その幸せが「心」の平和になり、世界が平和に感じる。

「…子供染みて現実を見ていないって事は分かっているんですけど、やっぱり自分にとって大切な人が居る事が平和だと感じる一番大事な事なのかなって思います」

ずっと自分の話が終わるまで聞いていてくれた小南さんは、答えを聞いて何を思ったのかは分からないが、微笑みながら頭を撫でてくれた。
頭を撫でられるなんて少し恥ずかしいが、小南さんのその顔を見ていると嬉しくなった。

「…そうね。名無しの言う通りだわ。自分が大切に思う人が居るからこそ平和だと感じられるのね。名無しの素直な言葉を聞けて良かったわ。ありがとう」

「…小南さん?」

それ以上声を掛ける事が出来なかった。
少し切なそうに空を見上げる小南さんは何を思っているのだろうか。
聞いてはいけない小南さんだけの大切な思い出。
きっとそれは誰にだってあり、絶対に他人が入り込めないものの様に感じた。

***

久しぶりにのんびりした一日だった。

あれから小南さんと別れ、そのまま少し外を歩いてから部屋へと戻った。
ベッドに腰掛けながら小南さんの事を考えていた。
まさか暁にあんなに綺麗な人が居るなんて知らなかったし、誰も教えてくれなかった。
イタチの計らいによりここに住む事になったとはいえ、周りはうるさい男ばかり。
正直、同性の友達が欲しいと何度思った事か。
だから今日は小南さんとたくさん色々な事を話せて本当に嬉しかった。

「また色々話せると良いな」

膝の上にはさっき小南さんから貰った紙の花束。
紙を使って色々な事をすると言っていたが、まさか自由自在に好きな物を作ったり出来るなんて思っていなかった。
だから紙が意思を持っているかのように花束の形になった時は本当に驚いた。
あれもきっと「忍術」というものなのだろう。
いつか自分も彼等みたいに色々な忍術を使う事が出来る日が来るのだろうか。

左右の掌をじっと見つめたまま集中する。
修行の成果なのか、最近は自分の身体を巡るチャクラを自在にコントロールする事も出来るようになった。

「うん…。ちゃんと成長してる」

自分の成長を実感出来る。
それが糧となり自分を更に伸ばしていく。
目的地はまだ見えない。
今はただひたすらこの世界を強く生き延びるだけ。

***

「今日、名無しに会ったわ。…あの子を見ていると昔の自分を思い出してしまう。あの子は本当に争いのない世界から来たのね…。何もかもが純粋過ぎて、
見ているだけで今の自分を無くしてしまいそうだわ」

「………」

帰り際に折り紙で作った花束をあげた時の名無しの嬉しそうな笑顔が頭から離れない。
本当はこの世界に居るべき人間じゃない。
名無しにはこんな血生臭い世界は似合わない。

でも、この世界で自分の存在意義を探している彼女に言える事は何もない。
ただ、自分に出来る事は醜い争いの火種が名無しに降りかからないよう守る事だけ。

「…俺達は一度全てを失った。失ったからこそその痛みを忘れない。俺は名無しに痛みを与えようなんて思っていない。ただ、平和を成し得る為には、
何が俺達にとって重要なのか…。それを名無しから感じたい」

「長門…」

「俺自身も極力マダラと名無しを接触させないようにするつもりだ。…それがこの組織に引き込んでしまった俺なりの名無しを守る方法だ」

あの時から今まで追い求めていた平和。
それは三人が一緒に居たからこそ求めていたものだったのかもしれない。
弥彦が死に、ただ今は恨みや憎しみがそうさせているという事は分かっているが、そうするしかなかった。
それが今まで死んでいった数多くの仲間達への懺悔。

そんな事を考えていたら、ふと、昔、自来也先生が言っていた言葉を思い出す。

『傷付けられれば憎しみを覚える…。逆に人を傷付ければ恨まれるし、罪悪感にも苛まれる。だが、そういう痛みを知っているからこそ、
人に優しく出来る事もある。それが人だ』

その後、先生はそれは成長する事だと、そしてどうするか自分で考える事だと自分に言った。
そして、その時に誓った。
これから先どんなに痛みが伴う事があったとしても二人を必ず守るという事を。

「…俺達は数え切れない程の痛みを知った。あの頃は自来也先生の言葉を信じようとした時もあった。だが、結局争いの中で残ったものは何もない。
ただ、痛みだけが俺を成長させた」 

お互いが理解し合うこそが真の平和。
そんなのはただの戯言だ。
戦いの連鎖や憎しみは決して消える事はない。
ならば、この世界を征服し自分が神になってやる。

それが自分が考え出した答えだった。
尾獣を手に入れ、世界に変革をもたらす者になろう。
その為にはどんな手段も厭わない。

それが、自分の…いや、自分達の夢だから。
今はまだ悪意に満ちたこの世界。
誰かが変えなければ何も変わらない。

「俺がこの世界を変えてやる」

それが、自分が出来る唯一の方法。

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