[捕まったら最後、B]

*長編/From here to there with youヒロイン

どうしてこんなにも泣くのか。
自分の何がそんなにも良いのかは分からないが、自分の言葉一つでこうも感情を露にする名無しを見るのは悪くない。
目元を拭う名無しの手を退け、その顔を見下ろす。

今まで女は面倒で鬱陶しいだけのものだと思っていた。
現に今でもその考えは変わらない。
だから、手元に置きたいと思うだなんて考えた事すらなかった。
犯罪組織に似つかわしくない名無しの存在。
何も知らない馬鹿な女だが、それでもこいつの感情全てが自分だけに向けられている事を実感すると先程までの苛ついた感情が薄れていくのが分かる。

(俺も随分と甘くなったものだな)

いつの間にこんなにも感情に動かされる様になったのか。
その原因も全部こいつのせいだろう。
だが、名無しの何が自分をそう動かすのかは定かではないが、嫌な気分はしない。

「…お前は本当に救いようのない馬鹿な女だな」

自分なんかを好きになるなんて。
そして、そんな馬鹿を抱きたいだなんて思う自分も大概どうかしている。
このまま考えていてもどうせ答えは出ないだろう。
そう自分なりに結論付け、そのまま唇を塞ぎながら瞳を閉じる。

***

今日は一体どれくらいサソリの前で泣いただろう。
そう思う程にたくさん泣いた。
その涙は悲しみだったり喜びだったり。
それでも、今日の出来事が全部繋がり、結果として自分の予想とは真逆の答えとなった。
いつかは消さなければいけなかった筈の想いはまだここにある。

馬鹿な女だと言った時のサソリの顔は呆れた様な顔だったけれど、いつもより優しい顔だった。
そんな顔を見せられたらずっと離れられない。
きっと、自分は死ぬまで馬鹿なままだ。

キスの合間に名前を呼べば、一瞬その動きは止まるが、またすぐに唇を塞がれる。
こうやって好きな人に触れられる事の出来る幸せ。
ゆっくりとその背中に腕を回し、この感覚を頭に焼き付ける。

***

薄っすらと開かれた唇に舌を捻じ込み絡ませれば、素直にそれに応える名無し。
先程とは違う従順な態度に妙な征服感が生まれる。

首筋には先程自分が噛んだ噛み跡がまだ残っていた。
薄っすらと変色しているのを見る限り、自分が思っていたよりも幾分強く噛んでいたようだ。
その噛み跡に舌を這わせれば小さく震える名無しの身体。
あの時の表情が見たくてもう一度噛んでやろうかと思ったが、これ以上怖がらせるのは止めておいた方が良いだろう。
そんな思考を切り替えながら身体に触れる。

柔らかな膨らみへと手を伸ばせば、触れたそこから鼓動が伝わり、名無しを感じる事が出来る。
ゆっくりなぞるように舌を這わせれば名無しの口からは熱の籠った息が漏れ、肩に置かれている手に力が入る。
胸から腹、腰、太ももに唇を這わせながら動かせば時折、腰や足が動き、まるで快楽を欲しているかのようだった。
思っていたよりも素直な反応をする名無しに満足し、更に愛撫を続ける。

「や、待っ…サソリ…ッ」

ゆっくりと身体をなぞる様に太ももの内側から下へと這い、敏感な部分へと辿り着く。
制止の声が聞こえたが、そのまま舌を這わせば思った通りの反応を示す名無しに口角が上がる。
声を我慢したり顔を見られるのが恥ずかしいなどと考える余裕なんて無いのだろう。
与えられる刺激にどうにかなってしまいそうなのか、耐えるように懇願するように何度も自分の名前を呼ばれる。

(あー… 早く挿れてぇ…)

名無しの口から漏れる自分を呼ぶ声に欲情する。
無理矢理に抱いたという事もあり、今回は優しく抱いてやろうかと思っていたが、目の前で艶っぽい声を上げる名無しを今すぐにでも滅茶苦茶に抱いてしまいたい衝動に襲われる。
愛撫する度に素直な反応を見せる名無しは普段の姿からは想像出来ない程に扇情的で女を強く感じさせる。
手触りの良い身体もこちらを見つめる表情も堪らない。

早くその身体を感じたくて再び覆い被さりながら舌を絡ませれば、肩に置いていた手は首へと周り抱き締められる。

「はっ…、サソリ…」

十分に潤っているそこは難なく自身を受け入れる。
愛おしそうに自分の名前を呼ぶ声は今までに聞いた事が無い程に艶めかしく、肌に感じる感覚と相まっていとも簡単に理性を崩させる。
優しく抱くなんて無理だな、と結論付け腰を動かし始めれば、それに合わさる様に名無しの口からも艶めかしい声が漏れ始める。
名無しの熱を帯びた瞳がこちらを真っ直ぐに見つめており、その表情に誘われるかのように唇を合わせる。
自身を締め付ける感覚も自分を呼ぶ声も表情も全部に欲情する。

思った以上に深みに嵌ってしまったような感覚を覚え、欲望のまま名無しを揺さぶる。

***

自分に触れる手も真っ直ぐこちらを見下ろす瞳も全部、今までとは違う。
自分の気持ちを受け入れてくれたサソリが愛おしい。
その名前を何度も呼べばその度にキスを返される。

まるでキスを強請る子供のようだ。
それでももっと欲しくなる。

「はぁ、は…っ。好き、…っ」

息も切れ切れにそう言えば、薄っすらと瞳を細められ、未だ強い情欲を感じられる視線を一身に受ける。
もっと触れたくて腕を伸ばし自身の元へと引き寄せ抱き締める。

密着した身体は熱く、耳元で聞こえるサソリの声に身体が勝手に反応する。
激しい動きに合わさる様に漏れる息は、まるで息を吸うのを忘れてしまったかのよう。
身体に掛かる重みに強く快楽を感じると同時に無意識に抱き締める腕にも力が入ってしまう。
そんな自分に気付く様に動きは激しさを増し、お互いの息遣いも激しくなる。

「んっ、はぁ…!っ…」

名無しの腕が背中に回り、動きに耐える様に力を込める姿にある種の高揚感を覚える。
少しずつ吐精感が近付くのを感じ、自身を締め付ける感覚に耐える様に乱暴に舌を絡めたまま名無しの身体を揺さぶる。
与えられる快楽に声を上げる姿は官能的で美しいとさえ思わせる。

(…堪んねぇな、この顔…)

普段では決して見る事のない女の顔。
そしてその顔を自分だけに見せる名無しに対し所有欲や支配欲が沸き上がる。
このままこの瞳を永遠に自分だけの世界に閉じ込めてしまいたい、そう思う程に。

そろそろ名無しも限界なのだろう。
締め付けを感じながら自身もそのまま欲を吐き出し、ゆっくりと息を整える。
お互いの息遣いだけが静かな部屋に響き、頭に残る。
同じ様に息を整えていた名無しも少し落ち着いたのか、閉じていた瞳が開けられ視線が合う。

「ん…、サソリ…」

情事の余韻を残したぼんやりとした視線と自分を呼ぶ声にむず痒い気持ちになる。
そのむず痒さを隠すようにまた唇を合わせれば、情事の時のものとは違う軽いものだったが、何故だか変な気分になった。

***

「今日は追い出さねーんだな」

「うっ…」

目の前にある背中に向かってそう言えば、少しの沈黙の後、もぞもぞと動きながら身体をこちらに向ける名無し。
その顔は先程まで自分に見せていた艶やかなものではなく、いつもの名無しの顔。

「…だって、せっかく側に居てもいいって言ってくれたし、自分からそんな事はしないよ…」

話している途中で羞恥心が出てきたのか、最後は消え入る様な声色だっだが、前回の事を考えると逃げずにこちらに顔を向けているだけでも及第点だろう。
そうか、と返せば気の抜けた顔で嬉しそうに笑う顔が目の前に広がる。
この身体になると感覚があるせいか、気付く事もある。

「ガキみたいな体温だな」

触れた身体は普段の体温なのだろうが、想像以上に温かく、掌からじんわりと自身に熱を分けていく。
他人からの体温を意識して感じる事など、今までの記憶の中でも殆ど無いに等しい事もあり、その感覚がやけに珍しく感じた。
そのまま好き勝手に触っていたら、小さく笑う声が聞こえ、そちらへと視線を向ける

「さっきから、くすぐったいよ。でも…、サソリの手って冷たいから気持ち良い…」

このまま眠るつもりなのか、気持ち良さそうに瞳を閉じ、為されるがままの名無しの顔をじっと見つめる。
その顔に警戒心などある筈も無く、相変わらず気の抜けた顔をしている。
こうも無防備な姿を見せられるとこっちまで気が抜けてくる。

自分がこの部屋に来てからもう随分と時間も経っているし、日付もとっくに変わっている。
無理矢理起こされた事もあり、そろそろ眠気が来たのだろう。
頬を撫でてやればまた嬉しそうに笑う名無しの姿を見ていたら、つい柄にも無い事をしてしまう。

「さっさと寝ろ」

閉じる瞼にキスをし、もう一度その温かな身体に触れる。
じんわりと伝わる熱を感じながら自身もそのまま瞳を閉じる。

***

「あら、随分と不機嫌そうな顔ね」

自分の顔を見るなりそう一言、いつもの表情で言い放つ今回の元凶である女。

その言葉には答えず、素早く毒付きのクナイを顔目掛けて投げる。
だが、投げたクナイは案の定、その身体を擦り抜け背後の壁に突き刺さる。
はらはらと術者の周りに舞う紙は相変わらず独創的で不思議なものだった。
傀儡師である自身の術は小南のものとすこぶる相性が悪い事もあり、これ以上やっても時間の無駄だと判断し、仕方なくクナイを仕舞う。

「あなたにも独占欲ってあったのね。意外だったわ」

「てめぇ…」

自分が不機嫌な理由もクナイを投げた理由も全部分かっているからこその言葉だろう。
昨夜の自分の行動を見透かされている様で正直、気に食わない。
まんまと騙された自分にも腹が立つが、何より小南の掌で転がされていた事が一番腹が立つ。
名無しから聞いた話からして、全て小南の思惑通りに事が運んだという事になるのだろう。

「私はきっかけを作っただけ。この結果になったのはあなたの意思そのものよ」

自分でさえ気付かぬ間に持っていた名無しに対する感情の露呈。
独占欲、所有欲、支配欲。
それを他者からの干渉によって呼び起こされたのかと思うと、腸が煮え繰り返る思いだ。
自分がこんな感情を持っている事を名無しは知らないし、これから先も知る必要は無い。
名無しが自分の元から去る日は来ないし、この手に落ちたからには二度と手放すつもりもない。

「あいつの望み通りにしてやっただけだ」

「そう…。何はともあれ、落ち着くところに収まって良かったわ。ちゃんと名無しの事、大事にしなさいよ」

そう言いたい事だけ言い放ち、さっさと歩いて行く小南。
その後ろ姿に向かってもう一度クナイを投げるが、やはりその身体に当たる事はなく、また壁に突き刺さった。

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