[捕まったら最後、A]

*長編/From here to there with youヒロイン

初めての任務を終え、今は自室でゆっくりと今日の事や明日からの事を考えていた。
小南さんに「自分の気持ちを無理に捨てる必要はない。自分の気が済むまで好きでいるのも一つの恋愛の形」だと言われ、ほっとした。
まだサソリを好きだという気持ちを諦めなくてもいいと思ったら、少しだけ気が楽になった。
自分なりにこの気持ちと向き合いながら、今はゆっくりと進んでいこうと思う。

窓の外に視線を向ければ稲光が見え、また雨が少しずつ降り始めていた。
明日からまたいつもの日常が始まる。
久しぶりに会えるのかと思うとやはり心が浮き立ち、サソリに恋をしているのだという事を実感する。

(やっぱり、好きだなぁ…)

想い人の事を考えながら瞳を閉じれば、今日の疲れも相まって睡魔は思っていたよりも早く訪れた。

***

夜が更けった頃を見計らい、静かに目の前の扉を開け、足音を立てずに目的の場所まで進む。
辿り着いた視線の先には久しぶりに見る名無しの顔。
その顔を見ていたら、ひと月前に自分から逃げていた時の表情を思い出し、また僅かな苛つきを覚える。

(…呑気に寝てられるのも今のうちだ)

仰向けになっている身体は拘束するのも容易で、傀儡糸を使い両手首を頭上に固定する。
そのまま無遠慮に服を脱がせば、閉じていた瞳が薄っすらと開くが、気にせずその肌に触れる。
触れた身体は思っていた以上に温かく、そのまま好き勝手に弄ぶ。

それから少しして、ようやく今の自分の状況を理解したのか、驚いたような表情をした名無しと瞳が合う。
跨ったまま上から見下ろせば混乱しているのだろう。
言葉にならない様な声が聞こえた。

「え…、な、に…」

「ククッ…、お目覚めのようだな。さて、悪い子には仕置きが必要だな。…なぁ名無し?」

下着を取り外しながら耳元でそう囁き、そのまま唇を塞ぐ。
抵抗出来ないのをいい事に片手を秘部へと伸ばせば、小さく震える身体に気付くが、お構いなしに指を進める。
逃げる舌を絡ませながらゆっくりと陰核をなぞり、時折り爪を立ててやればびくりと身体を震わせ強く瞳を閉じる姿に口角が上がる。
拒絶の声が聞こえるが、舌を噛む訳でもなく自分を受け入れる名無しの姿を見ていたら、ふと小南の言葉を思い出す。

『あの子もこの件については了承済みよ』

自分の知らぬ間に他の奴もこうやって受け入れたのか。
この顔を自分以外の奴にも見せたのかと思うと、このまま殺して傀儡にしてやろうかという気分になる。
そんな事を考えながら今度は首筋に噛み付けば、また名無しの表情が変わる。

自分の行動ひとつで変わる表情。
それは痛みだったり快楽だったり様々。
首筋に噛み付いていた唇を滑らせ胸に触れれば、また違う反応を見せる。

「サソリ…、嫌だよ。止めて…」

震える身体で明確な拒絶の言葉を掛けられるが、その言葉を無視し胸を弄びながら反応を楽しむ。
顔を歪め、声を抑え耐える姿に劣情が掻き立てられる。

そろそろ頃合いかと服を脱ぎ捨て、再び名無しに覆い被さり、まだ十分に潤っていない秘部に自身を宛がい奥へと押し込む。
制止の声を無視して無理矢理に挿れたせいか、名無しの顔は歪み目元に薄っすらと涙が浮かぶ。
それでもその声に構わず奥へと進むが、入口は思いの他きつく、まるで自身を拒むかの様だった。

痛みを耐えるかの様にくぐもった声が聞こえるが、その声に構わず小刻みに律動させ奥へと進めば段々と滑りは良くなり、無意識に深く息を吐く。
腰を掴み一定の早さで揺さ振れば少しずつだが、名無しの口からも痛み以外の声が聞こえ始めていた。

***

どうしてこうなったのか、何で、だとか色々な感情がぐちゃぐちゃに混ざり合って分からなくなる。
自分の身体に触れるサソリは以前とは別人のように感じて怖かった。
知らぬ間に腕もサソリの傀儡糸で拘束されていたせいか、余計にそう感じる。
チャクラを込めて切ろうとしてもびくともせず、ただ為されるがまま。

その間にも行為は進む。
触れられれば身体は反応するし、好きだからこそこんな風に一方的に触れられて悲しかった。
これじゃあただの欲の吐け口と同じだ。
でも、ここで例え自分が泣いたとしてもサソリは何とも思わないのだろう。

泣きたくない。
絶対に泣くもんかと思っていも、涙腺は勝手に緩くなる。

「んっ…、い…っ」

前に抱かれたときは例え気まぐれだったとしても気遣ってくれている事が伝わって来たし、優しかった。
だから、今はこんなにも悲しい。
我慢しても零れる涙は拭う事も隠す事も出来ず、ただ流れ落ちるだけ。
自分にはどうする事も出来ない。

サソリの顔を見るのが辛くて瞳を閉じながら動きに耐えていたら、思いもしない言葉を掛けられる。

「…他の奴はよくても俺に抱かれるのは泣く程嫌だとはな」

その言葉の意味が分からず、薄っすらと瞳を開けサソリの顔を見つめる。
自分はサソリ以外の誰かに抱かれた事など勿論ない。
だからその言葉の意味が分からなかった。
分からないにしても、サソリにそんな風に思われているのが嫌だった。
だが、その言葉に対して否定の言葉を発しようにも激しく揺さぶられ、上手く言葉が続かない。

途切れ途切れにだが少しずつ言葉を紡げば、ようやく激しかった動きが少しだけ緩やかなものに変わった。

「私、はっ…誰ともこんな事してない、よ…」

「…はっ、そんなの信じられるかよ。現に他の男の相手しに行ってんじゃねーか」

そう言ってやれば、訳が分からないという表情を見せる名無し。
しかし、それから少しして何か思い当たる節があったのか、少しだけその表情が変わる。

「…今日だけ…、その人の、娘になる任務の事、言ってるの…?」

不安そうな瞳で真っ直ぐこちらを見つめる名無しの言葉に嫌な予感がした。
こんな状況で名無しが嘘をつくとは思わないし、それにこいつは普段から嘘は付かない。
そして嘘をついていないという事は、自ずと自分を謀ったであろう人物は決まってくる。

「………お前、小南に何か言ったか?」

緩やかだった動きを止めそう問えば、名無しの瞳が揺れ、少しの沈黙の後に小さく肯定の言葉が聞こえた。
名無しが小南に何を話したのかは定かではないが、一つだけ明確な事は自分はあの女にまんまとしてやられたという事。
その事実に頭が痛くなる。

そして、その一番の被害者が名無しだ。
名無しにしたら寝込みを襲われ、訳も分からぬまま犯されたという事になる。
色々と考える事はあるが、取り敢えず今は手首の拘束を解いてやる方が先だろう。

身体を解放されようやく安心した様な表情に変わる名無しに少しばかりの罪悪感を覚える。
そのまま身体を起こさせ、床に落ちているブランケットを掛けてやる。
手首を見れば傀儡糸を切ろうとチャクラを込めたからか、糸が肌に食い込み血が滲んでいた。
手首には血の跡、目元には涙の跡。
術で手首の傷を治してやればようやく名無しが口を開いた。

「…怖かった」

手首の痛みも治り落ち着いたのか、またその瞳から涙が零れ落ち始める。
この件に関して名無しに落ち度は無い。
認めたくはないが、小南の言葉を勝手に鵜呑みにした自分が悪い。

そしてここまでして気付く事もある。
まさか自分が名無しに対してこれほど独占欲を持っていたとは思わなかった。
だが、今日の自分の行動を思い返せば思い当たる節もあり、頭が痛くなる。
居る筈もない相手に勝手に苛つき一方的に抱いた。

そして目の前には未だ泣いている名無し。
吐きたくなる溜息を堪え、もう一度名無しに声を掛ける。

***

「………悪かった」

目の前にはバツが悪そうな顔で謝罪の言葉を口にするサソリ。
どうしてこんな事になったのかは分からないが、その姿を見ていつものサソリに戻った事が分かりほっとする。
大きく息を吸いもう一度涙を拭えば気持ちもだいぶ落ち着いてきた。
その言葉にもう大丈夫だと返せば、今度は少しの間を置いてサソリが話し始めた。

「お前、小南に何話した?」

その問いにどきりとする。
聞かれるだろうとは思ってはいたが、いざ本人に聞かれると、どうしても口籠ってしまう。
相談していた内容もそうだが本人に面と面を向かって言うのは流石に言い辛い。
だが、今この状況でそれが通用する筈もなく、掛けられたブランケットで顔を隠したまま恥を殺して話し始める。

「…それで小南さんに今回の任務の話を貰ったの。少しでも気晴らしになるかなって思って…」

ブランケット越しに感じる視線から今すぐにでも逃げ出したい。
穴があったら入りたい気分だ。
これじゃあ好きだと告白しているのと同じ。
全部洗いざらい話し終え、羞恥心でどうにかなってしまいそうだった。

まさか自分もこんな風に気持ちを伝える羽目になるとは思ってもいなかった。
しかも、情事の途中だった事も相まって恥ずかしさに拍車が掛かる。
せめて服を着ようと床に落ちている衣類に手を伸ばせば、逆にその手を掴まれ心臓が跳ねる。

***

名無しが傀儡に嫉妬していた時から自分に対して好意を持っていた事は知っていた。
だからあの時、自分から逃げられない様に名無しを抱いた。
傀儡を好きになる様な馬鹿な女を逃さない為に。
だからこそ小南の言葉を聞いた時、自分から罠に飛び込んで来たにも関わらず、その罠を擦り抜けて勝手にどこかに行った名無しに対して苛ついた。
もう一度その身体に自分を刻み込んで、今度こそ逃げられない様にしてやるつもりだった。

その時はそれが独占欲から来るものだとは露程も知らずに。

(どっちが捕まったのか、分かったもんじゃねーな)

顔を隠したまま衣服を取ろうと伸びる手を引っ張り、身体ごと手繰り寄せる。
手繰り寄せたまま後ろへと倒れれば、名無しが自分に乗っかる形になる。
逃げられないように身体に腕を回せば名無しの身体全体から動揺が伝わって来る。

こいつは最初からずっと檻の中に居て逃げようとすらしていなかった。
自分から逃げる気など最初から無かった。
結局、全部自分の勘違いだったのかと思うと呆れてものが言えない。
傀儡に嫉妬して好きになるような馬鹿もそうだが、そんな馬鹿を思いの外気に入っている自分も大した馬鹿野郎だ。

自分の身体に掛かる重みも全身から伝わる体温も悪くない。
久しく感じていなかった人本来の感覚にむず痒さを感じる。
人の感情を捨てた自分がまさかガキだと思っていた女に振り回されるとは今日まで夢にも思っていなかった。

「…さて、洗いざらい話ちまった訳だが…。お前はどうしたいんだ?」

そんな自分に情けなさや苛つきを覚え、その原因となった名無しに意地悪くそう問う。
どう答えようか考えているのか、一瞬、名無しの動きが止まる。
胸元に顔を埋めてい為、どんな表情をしているのかは分からないが、何となくは想像出来る。

「……まだ、好きでいたい…」

「お前も馬鹿だな」

「う…、そんなの仕方ないじゃん…」

思っていた通りの言葉と反応に口角が上がる。
全部曝け出し開き直ったのか、最後は少しだけ不貞腐れた様な口調になっていた。

名無しが自分の言葉を待っている事は分かっていたが、敢えてその言葉には答えずに回していた腕を解き、身体の線に沿ってゆっくりと手を滑らす。
そして、その感覚に驚き顔を上げる名無しと至近距離で視線が合う。
未だ薄っすらと赤い目元がさっきまでの情事を思い出させる。
不安気に揺れる視線もまたそそられるものがある。
さっきの続きを再開しようと唇を寄せるが、寸前のところで口元を抑えられ予想外の抵抗を食らう。

***

身体をゆっくりとなぞるサソリの指先に驚いて顔を上げれば、いつものサソリの顔がそこにあった。
さっきの話を聞いてサソリが何を思っているのか、そんな事は自分には分からない。
何も言ってくれないから、その顔を見ていると不安になる。

このまま成り行きに任せればきっとまたサソリは自分を抱くのだろう。
だけど、もうこれ以上曖昧な関係にはなりたくない。
そうなるぐらいならいっその事、諦めろとそう言ってくれた方が何倍もいい。
このままだと、自分の気持ちはいつまで経っても中途半端なままだ。

「………」

サソリにしては珍しく表情があからさまに変わったところを見る限り、抵抗されるとは思っていなかったのだろう。
眉間にシワを寄せ無言のまま見つめられる。
負けじと見つめ返すが、掌に感じる生暖かい感触に咄嗟に手を引けば、ニヤリと笑うサソリの顔があった。
そして、油断したその隙を突かれ、今度は自分がサソリに組み敷かれる体勢に変わる。

「ククッ…、良い度胸じゃねーか」

楽しそうに笑うその顔は自分の好きないつものサソリの顔で、さっきまでの気持ちが絆されそうになる。
もう悲しい気持ちは感じない。
だけど、一度だけでいい。
もしこのまま自分を抱くのなら嘘でもいいから、好きだって言って欲しい。

馬鹿だって言われてもいい。
だけど、もう自分の気持ちは全部曝け出した。
次はサソリの番だ。

「…何でサソリは私を抱くの?」

「お前はどう思うんだ?」

真っ直ぐその瞳に向かってそう問えば、逆にそう問い返される。
どう思うか、それが分かればこんな気持ちにはならない。
意地悪な質問に口をつぐめば、またいつもの笑い声が聞こえた。
サソリの掌で好き勝手に転がされているのは悔しいが、それはいつもの事だ。
それでも一通り満足したのか、ゆっくりと顔を寄せられ思いもしない言葉を掛けれれる。

「俺は釣った魚にはちゃんと餌をやるタイプだからな。お前がこれから先も馬鹿なままなら死ぬまで側に置いてやるよ」

予想外のサソリの言葉に一瞬、反応が遅れる。
好きだ、愛してるなんて言葉を貰えるなんて最初から思っていなかった。
だから、心底驚いた。
実際にはそんな言葉ではないけれど、あのサソリが傀儡じゃない自分を側に置いてくれると言ったのだ。

サソリの中で少しは特別なんだと思ってもいいのだろうか。
浮かれてしまいそうな気持ちを抑え、もう一度サソリの顔をじっと見つめ、問う。

「私…、傀儡じゃないよ…?」

「俺は気に入ったやつを手元に置いておきたいだけだ。それが傀儡であろうとなかろうと関係ねーよ」

それにお前はもう俺のものだ、と続けて言うサソリの言葉に引っ込んでいた涙がまた溢れ出てくる。
傀儡としてではなく、自分に向けられるその瞳に初めて自分自身を見てもらえたような気がした。

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