小説 | ナノ


ザクザクと地を踏み歩く音が続く、
あれから、どれくらい山の中を歩いたのだろうか。
どうやらミンスのおかげもあって、追手はまだ来ていないようだ。
そしたらきっと、少し休んだほうがいい。
私やハクと違って姫様は繊細だから




「………ハク、そこを登ったら少し休もう」


あたしがそう声を掛けるとハクは振り向き、
チラ、と姫様を見た。



「あぁ、そうだな」




ハクに姫様の護衛を頼み、私は寒くならないようにと焚き火の用意をした。
山の中の夜はとても冷えるから。




「ミンスは………死んじゃったの………?」



パチパチと火の粉が弾ける中で
振り絞ったように、弱々しい声を姫様が発する。その弱々しさに思わず、ぐっと言葉を飲んでしまった。



「私も……死ぬのかな…ハクも、ユンシェも………スウォンに殺されて」



「あんなクソッタレにやる命なんて持ち合わせてねーですよ」


「そう簡単には死にませんよ、姫様」


「ハク……ユンシェ…死なないでね…
死んだら、許さない、か…ら」



姫様はそう言いながら、眠りに落ちた。
やっぱり疲れてたんだな、と布をかける。



「ハク……まだ、疑ってる?」


「疑って欲しいか?」


「ううん、違うけど…正直スウォン様護衛の私がいるのは、安心出来ないんじゃないかなって」


「もう、様付けなんてやめとけ。それに、別に気にしてない。ほんとに知らねーみてーだし。」



お前だって、いっぱいいっぱいだろ?と頭を撫でてくれるハクは本当に優しいと思う。









「ありがと」


「どーいたしまして」



「……じゃ、ハクも少し休んで。見張り番は代わるから。」


「いや、お前が寝ろ。俺は良い」


「興奮しちゃって寝れないからさ」


「馬鹿野郎余計寝ろ」



グッとハクの胸板に押しつけられる。



「っあ、わりい」


「?何が?暖かかったけど」


「…あーそうだった、お前ってそういう奴だったよな…」


そう言いながら離れて、やはり寝ろと言うハクに、じゃあとこれからどうするのかを話し合う事にした。
とりあえずここからでは地の部族の土地は遠いし、かつグンテ様はどちらかと言えばスウォン寄りだろう。
ユホン様をあれだけ慕っていて、イル陛下の悪口ばっかり言ってたし。



「じゃあやっぱり風の部族の土地かな?」


「だな、風牙しかねぇわな。ジジイもいるし少しは融通効くだろ。」


「ふふ、久しぶりにムンドク爺ちゃんに会えるんだねー。テウ達も元気かなー」


そう言えば、ジジイはともかくテウ達とも面識あんのかよお前と言われた。



「そりゃ次期将軍様ですからね」


「へーへーさいですか(あいつらが言ってた美人のねーちゃんてコイツか)」


「あー、信じてないなー」


「いいから俺も寝るからお前も寝ろ」


そう言いながらも、すぐに起きるんだろうなと思いつつも、優しさに甘える事にした。






城を出てから何日経ったのだろうか。
ハクと話し合い、風牙の都に行く事になってから風牙の都に向かい歩く。



「ハク、そこを登ったら今日は休んで、移動は明日にしよう」


「あぁ、そうだな。姫さん、今日はここで休みます。ここの虫は害が無いから大丈夫です。」



姫様は先日、川で水浴びしてる最中ヒルに噛まれてしまったのだ。
姫様は城外には出ないから、恐怖で震えていたのを覚えている。

すると、突然身の回りをキョロキョロとし出す姫様。


「……何か、忘れ物でも?」


やはり不思議に思ったらしいハクの問いかけに、焦ったようにふるふると首を振る姫様。


「?」


何か、忘れただろうか。
とりあえず考えても仕方ないので。
焚き火の用意をして、今晩は拾った木の実を夕食にする。
姫様にはもっと良いものを召し上がって欲しいが、ここには川もないし、鳥もいないので仕方がない。


暫くすると突然姫様が立ち上がった。
逃亡してからというもの、人形の様で覇気のなかった姫様が初めて自分で動いた。
何かやはり忘れたのか…


「どこへ?」



「あ、あの……私ちょっと」



用足しかと思い、手を離したハクだったが、それにしては遅いし、先ほどの行動も気にかかる。



「……ねえ、ハク。姫様、遅くないか?私、ちょっと見てくるわ」


「………いや、俺も行く。火を消すぞ」


ハクには思い当たる節があるのか、考えていた。
荷物を持ち姫様が戻った道を辿ってみると、そこには姫様は居なかった、余計不安になり急いで探し始めると、恐怖に顔を染め立ち往生する姫様が見えた。










「っ、ハク!あそこ!」


「チッ……!無事か!?」


ハクが姫様を抱え、あたしは鉄扇で蛇を斬り刻む。



「一体どうしてこんな所まで戻ったんです、姫様!」


「この蛇は毒を持ってる!暗闇で足を滑らせて転落するかもしれない!そんな場所に一人で……!死にてぇのか!!」



ハクは心配からか口調が荒くなる。
しかし、足元を見ればうじゃうじゃと集まる毒ヘビ。


「っ、ハク!足元!」


「チッ、巣窟かよ、ここは……!」



いくら鉄扇で振り払っても、次々と湧いてくる蛇。このままでは、危険だ。



「キリがない!ハクは姫様を連れて先を行って!私が蛇を追い払うから!!」



「はぁ?!だけどっ、お前…!」


「毒があるのはわかってる!!大丈夫だから先行きなって!!」


戸惑っていたが、姫様が第一と思い直したのか、走っていくハク。
ハクを追いながら蛇を薙ぎ払っていく。


「っ!!」


「?ユンシェ!?」


「大丈夫!!」


途中で足首を噛まれたが、すぐに切り捨てた。
たぶん毒の耐性もあったから平気なはず。
暫く走り、ハクが止まったので私も止まる。


「ユンシェ…、ハク、ごめんなさい…!」



「大丈夫ですよ、姫様」


「大丈夫じゃねーだろ」


泣きそうになりながら謝る姫様を見てられずに、気丈になって姫様の頭を撫でていれば、その手を取って座らされた。



「噛まれたな?」


「噛まれてないです」


「嘘つくんじゃねーよバカ。噛み跡のこってんじゃねーか」


そう言って、足首に口を近づけて毒を吸い出し、ペッと吐く。



「………おかしいな、こいつの毒は結構強力なはずなんだが…意外と平然としてやがんな?」



「……えへ」


「…ユホン様か」


毒の耐性を付けさせられていたのを察したのか、そう言うのでそんなところ。と濁しておいた。
噛み跡の処置をしていると姫様が、凄く心配そうにこちらを見るので、居ても立っても居られず、水汲んでくると言ってハクに任せた。





「あれ?寝ちゃったの、姫様」


「ああ、疲れてたんだろうな」


ハクの腕に抱かれながら、規則正しい呼吸を繰り返す姫様。
そんな姫様を地に下ろし、近づいてくるハクを制した。



「あ?んだよ」


「姫様の側にいてあげて」


「お前の治療がおわったらな」


「自分で出来るから」


言い合いしていたがハクが一向に譲らないので、諦めて何かに使うだろうと手に巻いていたサラシを渡した。


「…あんま無茶すんな」


「え?ハクからそんな言葉が出るなんて驚きね」

「茶化すんじゃねーよ、お前は女なんだから」


「女だけど次期将軍ですぅ」


「もう将軍じゃねーだろ」


城追放されたんだからよ、と言われて確かにそうだなぁなんて。



「だからお前が無茶する必要も戦う必要も無くなったんだぞ、ユホン様はいねぇしスウォンだって反逆者だ。」


「…つまり、町娘の様に戦わずに幸せに生きろよ〜ってか?
絶対嫌だね」


「っは?」


「私は戦いの中に身を置いてるのが1番合ってんのよ、確かにグンテ様に拾われてからは恩返しと思ってたけど、今はもう違う。

私だって結局戦うのが好きなのよ」


「っ」


ニヤリとニヒルな笑みを浮かべて言えば、ハクの喉が上下した気がした。



「…それに、今ハクに姫様任せて逃げちゃったらハク死んじゃうかもしれないし?」


「ばーか
そう簡単にくたばってたまるかよ(ったく、惚れ直しちまったぜ)」


そんな言い合いをしていれば、ほい出来た!と言われて立ち上がる。



「明日もはえーんだから、寝ろよ」


「はいはーい、おやすみー」





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