小説 | ナノ
「美鳥、飯……」
「百ちゃんと耳郎ちゃんと食べるからっ!」
午前中の授業が終わり、ご飯の誘いをしに来た轟をスッパリ切って美鳥は耳郎と八百万とともに食堂で昼食を食べていた。
今日のお昼ご飯はステーキ、漲るのである。
「やっぱランチラッシュのご飯おいし〜!」
「美鳥さん、さすがの速さでしたわ」
「クラス屈指のイケメンが…轟がちょっとかわいそうになったよ」
「え?なにが?」
「まさかの無意識…」
「轟さん、お昼誘っていらっしゃいましたのよ?」
気づいていらっしゃらなかったんですの?という百ちゃんの質問に気づいてたよ、もちろん。朝ごはんも晩御ごはんもたまに一緒に食べてるからいいの!とステーキを頬張った。
「それにしても、美鳥さん、さすがですわ。指名数が私の25倍なんて…。」
体育祭を振り返って話していれば、少しだけ悲しそうに眉をへにょりと下げた八百万に美鳥はぴたりと固まった。
「百ちゃん100件?耳郎ちゃんは?」
「ウチらのことはいいんだよ。美鳥の見せて!」
「あぅ、いいよ」
「うわっ、何枚あんの!?60枚!?」
「うん、どこにしようか悩んでて…」
「おーっす、隣いい?」
もきゅもきゅとステーキを頬張っていた隣に座ったのは芦戸と葉隠、蛙吹だった。
「お、いいよ!」
「何見てんの……って、あ!指名の紙じゃん!めっちゃある!」
「えーっ、見たい見たい!美鳥ちゃん見せて!」
「奪い取ったらだめよ、透ちゃん」
蛙吹にたしなめられながらも紙を受け取った葉隠と芦戸は、うわーいいなー!と声を揃えた。
「うっそ!見て、ウイングヒーローホークスだ!忍者ヒーローエッジショットも!あ!エンデヴァーもいる!」
「あ〜エンデヴァーさんは身内屈辱を感じる……」
「あ!そうだよ!轟とどういう関係なのかそのうち吐いてもらうからね!!」
「えっ?関係……?」
「ダメだよ、三奈。今日も轟、ランチ断られてんだから」
「なんだと……!?」
芦戸が衝撃を受けている間に、あのさあのさ!と葉隠が喋り出す。
「すごい!なんか滑空って、女子版の轟や爆豪って感じ!めっちゃ女子のエースって感じだよね!」
「でも、救助とか苦手よね」
「ソコハコレカラガンバリマス……」
「ケロケロ、美鳥ちゃんその意気よ。…あ、そういえば、今朝は大丈夫だったの?」
ふと思い出したように問う蛙吹に、指名一覧リストを見ていた周りもハッと今朝の出来事を思い出すと慌てだす。
「そうだよ!そういえば大変だったんじゃん!」
「ヒーロー名考えるのと指名のことで忘れてたね!写真撮られたり囲まれたんでしょ!?」
「あ〜、うん」
「危なっ!怖い!駅員さんに突き出さなかったの!?」
「え、電車内だったし、満員だったしそもそも気づいてなかったしなあ」
「いやほんと危ないって!爆豪が居合わせたから良かったけどさぁ」
ため息をつく耳郎に、芦戸がぴくっと反応した。
「え?爆豪が居合わせたのって偶然なの?」
「ううん、ほら体育祭で後ろにいたらヒーローになるの諦めないでいいっていうから」
いやーかっちゃんが許してくれてよかったよ〜。と気にする様子もなくステーキを食べる美鳥に周りは固まった。
(爆豪のやつ…美鳥が囲まれることを予知して、)
(ていうか完全に手綱握られちゃってんじゃん!美鳥)
(ファインプレー!つーか爆豪、そんな優しかったっけ!?)
(美鳥にだけでしょ)
爆豪が美鳥を守るために一緒に登校したのだろう。
それを一瞬で察知した彼女たちはそわそわと目を合わせるのだった。
ーーーーーー
帰りのホームルームにて。
「滑空、今日は俺が送るから後で職員室に来い。一応親御さんにも報告しておかんとな。あと、体育祭の熱が冷めるまでは轟と一緒に登下校しろ。」
「えっ」
「ハァ!?なんで舐めプ野郎と!?」
「エンデヴァーが是非に。とな」
「親バカがァ!!」
「わかりました(親父、ありがとう……!)」
しばらく一緒に登下校することになった焦凍くんに、面倒をかけてごめんと伝えると気にするなとふわりと笑う。
「(笑顔の破壊力っ……最近焦凍くん柔らかくなったよなあ…)」
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