小説 | ナノ

「美鳥〜、勝己くんが迎えにきてるぞ〜」


「え?かっちゃんが?」


朝いつも通りに、テレビを見ながらもぐもぐしているとお父さんが玄関から声をかけた。


「よう。はよ行くぞ」


「えっ、いやなんで?」


お父さんの前だからかいつものイラッチャンはなりを潜めている。
今まで一緒に登校なんてしていなかったし、実家から遠いだろうに突然なぜ、と問いかけた。


「昨日、“俺のそばから離れんな”って約束したろ?」


「エ゛ッ!!??」


「ああ〜!そうだったね、わかったちょっとまってて!」


爆豪のセリフに驚いてフリーズし、どういうこと!?!と問いかける父をよそに、用意を済ませた美鳥はいってきま〜すと元気に家を出た。


「でもさかっちゃん、家遠いのに毎日一緒に行くのは無理じゃない?」


「まあな、だからとりあえず今日だけだわ。」


そう呟く爆豪に、特に疑問も抱かずにふーんわかったと返す。
ケンカしていたのでギクシャクするかと思っていたが美鳥が普段通り接してくるので、爆豪はホッとして電車に乗り込んだ。
瞬間、自分たちに集まった視線に爆豪は眉間を寄せる。


(やっぱりな…)

雄英の体育祭は全国放送。
自分はもちろん、この幼馴染も数時間テレビに映り続けたのだ。
一般市民に認識されないはずがない。
案の定、近くにいたスーツを着たサラリーマンが数名目を輝かせて近づいてくる。
何を隠そう、自分はこのために今日美鳥を迎えに来たのだから。


「ねぇ君!雄英高校1年A組の滑空美鳥ちゃん!」


「え?」


「体育祭見たよ!とっても可愛かったね!」

「俺も見た!強くて可愛くて俺ファンになっちゃったよ!!」

「うお、本物の滑空美鳥ちゃんだ!この路線使ってんだ…!」

「握手握手!!」


「えっ、え、ええ……!?」


混雑している電車内で早速囲まれ始めた美鳥に、爆豪はチッと舌打ちを鳴らし割り込むと手をつかみ引っ張る。


「美鳥、こっち行くぞ!」


「あ、ありがとう…!かっちゃん」

「俺のそばを離れなくて正解だな、小鳥ちゃん」


これ見よがしに小言を言うかっちゃんに、小鳥ちゃん言うなと言ってついて進む。


「あれ、あの金髪の子、この前体育祭の、」

「あ、1位の子!?爆破の!」

「ホントだ〜!イケメンだけど、ちょっと怖そう」



「金髪のやつで見えねえけど、後ろの子、3位の女の子じゃね!?」

「ああ、ネットで話題だよな!可愛いのに超強くて!特にあの神々しい炎とか!」

「うわぁ…!!俺あの子タイプなんだよね、制服姿可愛いな。写真撮っとこ」


こそこそと電車内で囁かれる噂話と、時折聞こえるシャッター音。


(撮りやがった…!誰だ!?)


ぐるん、と威嚇するように周りを見るが、全員に目をそらされ爆豪のイライラは募る。
対して美鳥は、気づいていないのか、興味がないのか、狭い空間で携帯をいじっている。


「オイ美鳥!テメー少しは危機感持てやクソが!!」


「えッ!?急に何!?」


「テメーが馬鹿で危機感ねーから俺が苦労すンだよ!!」


「うっわ酷くない!?突然のディスり!?」




「金髪の子と仲いいな、付き合ってたりするのかな〜」

「うわ、そうだったら辛いな〜俺ガチ恋勢なんだけど!!」


(やかましいわ!!こちとら幼少期からガチ恋勢だっつの!!!)


後ろから聞こえるそれに、思わず心の中で返す爆豪。
古参ナメんな、にわか新参がァ!!と追加で睨んでおく。


「さっさと行くぞ!!」


「おわ!?ちょ、かっちゃん引っ張んないで…!コケるコケる……!」


駅に到着してようやくあの空気から抜け出せたが、油断はできないと美鳥を引っ張って足早に歩く爆豪について歩き、学校までの距離を歩いた二人だった。


―――



「超声かけられたよ来る途中!!」


はしゃぐ芦戸に葉隠も「私もじろじろ見られてなんか恥ずかしかった!」と同意する。


「俺も!」

「俺なんか小学生にいきなりドンマイコールされたぜ」

「ドンマイ」


教室のあちこちで体育祭の効果を実感する声が上がっていた。



「たった1日で一気に注目の的になっちまったよ」

「やっぱ雄英すげえな…」

「轟〜、美鳥来てないんだけどなんか知らない?」

「お、………いや知らねえな」

「家近いんだよね?」


風邪かな?と首をかしげる耳郎に轟も不思議そうに首をかしげた。
そこで切島も気づいた。


「そういや爆豪も来てねぇ」

「なんだよ、体育祭1位と3位がそろって風邪ひいたかァ?」

「てかさてかさ!バクゴーこれは一歩進んじゃったんじゃない!?」



「間に合ったー!」

「歩くン遅いんだわ!飛べや!!」

珍しい2人の遅い登校に教室がざわつき始めた時、勢いよく扉が開いて話題の二人が入ってくる。


「遅かったじゃ〜ん!何してたんだいお二人さん!」


「あ?こいつが声かけられまくって、終いにゃ盗撮され始めたからよ」

「ぅえ!?盗撮!?」

「「「盗撮ゥ!!?」」」


芦戸が意気揚々と話しかけるも、大変だったわと答えた爆豪の予想外すぎる返答にクラスの視線が一気に集まる。


「え、なんで美鳥が驚いてんの」


「えっ盗撮?かっちゃんが!?気づかなくてごめん!」


「お前だよバカ!!」


「嘘でしょ、美鳥なんで気づいてないの…」


「つーか声掛けはともかく流石に盗撮はやばくない?」


「あー、美鳥ちゃん目立ってたからなぁ。かわいいし、ネットでも話題になってたみてーだし、」


「バクゴーが守ってあげたんだぁ、優しい〜」


「るせぇな、…守ってやらねえと弱っちぃからな」


「弱っちくない!」


ガラッ!


「なに騒いでる、静かにしろ」



予鈴が鳴ったのも気づかず喋り続けていたようで、相澤が入ってきたことでざわついていた教室内が静まり、全員が席に着く。


「相澤先生、包帯取れたのね。良かったわ」


「婆さんの処置が大げさなんだよ。で?なに騒いでたんだ」


教壇に立った相澤がざわついていた理由を聞き、今日あった盗撮の件を爆豪が相澤へ報告する。


「はぁ…そうか。いいか、今日の経験は、ヒーローになったらずっと付き合わなきゃならん問題だ。滑空、お前は周りをもう少し警戒しろ。爆豪、お前は家が遠いだろう他のクラスメイトに頼むこともできたはずだぞ。轟、例の件もある、悪いが気にかけてやってくれ。」


「チッ」


「はあい、」


「わかりました」


(例の件…?)


(例の件ってなんだろう……)





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