小説 | ナノ
レクレーション後、本戦が始まった。
「ぅおいっ!!!なんでお前だけチア着替えてねーんだよ滑空!!」
「いや伝達回ってこなかったし…(出歩いててよかった〜!!)」
どうやら私が2人を探している間、峰田と上鳴が企てた罠に女子一同が引っ掛かったらしくチアの恰好で舞台に立っていた。
第一回戦は緑谷対心操
美鳥は緑谷の試合を見届けると、騎馬戦の時にチームメイトだった心操へ「ヒーロー科で待っているよ」とエールを送った。
轟対瀬呂は轟の圧勝、上鳴対塩崎は上鳴が瞬殺され、
飯田対発目は、発目が翻弄したあと自ら場外に出て飯田が勝利、そして、一回戦五番目の組、
芦戸三奈対滑空美鳥
いよいよ、私の番である。
《一回戦五番目の組…来たぜェ…今大会唯一の女子対決!接近戦上等!手から出す酸は強力だ!ヒーロー科、芦戸三奈!!対して、予選で目立った割に実力が見えねェ!個性は炎か!?滑空美鳥!!》
フィールドに上がりながら、美鳥はふぅ、と息をついて緊張を落ち着かせる。
「滑空ー!あんたには悪いけど、手は抜かないからね!」
「うん、お互い全力で行こ」
そして、「START!!」というミッドナイトの合図で、芦戸は美鳥に向かって走り出す。
「いっくよー!!」
手から噴射されてた酸が美鳥に襲い掛かる。
それを避け下がると、芦戸はその間に距離を詰め攻撃を仕掛ける、
が、美鳥は背中から翼を出すとくるんと一回転して避けた。
「ははっ、さすがに速いね〜」
「冗談、めっちゃ軽々避けるじゃん!」
芦戸の運動神経はさすがである。
だが飛べる美鳥には関係ないのだ。
「うりゃりゃりゃ〜!!」
「…」
その後もバシュバシュと酸をまき散らす芦戸。
それを軽々と避けながら、美鳥はケガさせたくないんだよなあ…と無傷で場外に出す方法を考えていた。
“お互い全力で行こう”と言ったくせにこれである。
「美鳥!!!何をやっている!?さっさと決着をつけんか!!」
「!!え、ええ〜…!エンデヴァーさん…!来るとは思ってたけどもういるの…っあ〜だから焦凍くんが機嫌悪いのかぁ」
《いたの!?エンデヴァー!2、の突然の応援!滑空との関係って一体!?》
「ええい!!やかましいぞプレゼントマイク!!」
《シヴィーーー!!!》
エンデヴァーさんに怒鳴られても、パパ活かァ!!?と実況を続けるプレゼントマイク、さすがである。
外野がやかましくなってきたのでそろそろ終わらせないとめんどくさくなる、と
酸の隙間を縫うようにトンッと地面に降りる。
「っ逃げるのは終わり?!」
「うん、終わりにしよう」
息切れする芦戸をよそに、地面に降り立った美鳥はユラリ、と燃え上がる炎を宿す。
―ゴオッ!!!
「っさせない!!」
「ごめんね、三奈」
何かを感じ取った芦戸が酸を飛ばすが、ぶわりと舞い上がった炎は勢いよく美鳥の周りを回り始め、炎を帯びた熱風となり、酸を弾くだけで止まらず、芦戸もろとも場外へ吹っ飛ばした。騎馬戦で見せた熱風である。
―ドオンッ!!!
「芦戸さん気絶!滑空さん2回戦進出!!」
土埃が晴れると壁に打ち付けられた芦戸がいた。
ミッドナイトのコールに、美鳥はふう、と一息つく。
ー
「エンデヴァーさん来てたね」
選手控え室に帰ると、焦凍くんが険しい顔をして立っていた。
その姿を見てそういえば次は焦凍くんといずくんだったなと思い出す。
「いずくんにも話してるとこ聞いちゃった、昔聞いた話だったから懐かしかったよ。いずくんに対してなにか思うところがあったんだね。」
「…昔お前に言われたことを思い出してた。あの言葉を聞いてから俺も何か変われるんじゃないかって。」
「え、なんか言ったっけ…?」
「忘れてんのかよ…」
ちょっと呆れたような顔で返す焦凍くん。
「“強くなるため使えるものは使う”“二人でエンデヴァーをぎゃふんと言わせよう”ってな。」
「…ぎゃふんって死語じゃない…?」
「俺も同じこと言ったぞ」
昔の言葉を聞いて、いいねえと言うと、その意思に変わりはねえのかよと聞かれる。
「?ないよ」
「ふはっ、ほんと変わらないよな」
ちょっと気が軽くなったといって、次の試合のため出口に向かう焦凍くんの背中に向かって伝える。
「私は焦凍くんだから、エンデヴァーを越せると思ってる。最高傑作だからじゃない。きみだから。」
「!…ああ、ありがとな。いってくる」
「うん、いってらっしゃい」
出ていく焦凍くんを見届けてから、自席へと戻った。
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