小説 | ナノ
「「「え〜!?2人とも洗脳されてたの!?」」」
驚く耳郎、葉隠、麗日に美鳥と尾白はコクリと頷いた。
「話しかけられて答えた後、頭に靄がかかったみたいで真っ白になってね、気づいたら騎馬戦中!みたいな」
「俺も。ただ、俺の場合は終盤ギリギリにしか洗脳が解けなかったよ。だれかと肩がぶつかった衝撃で頭がクリアになったんだよね」
「そうそう、私も制限時間半分くらいで、かっちゃんに背中蹴られて元に戻った。そっからは、心操くんの話聞いて、話し合って、作戦立てたよ〜」
「あんた凄いね、普通怒って騎馬崩しかねないけど」
「でもそしたら負けちゃうじゃん?勝ちたかったし。無視したみたいになってごめんね。」
「いいって、しょうがなかったんだから。本戦頑張って!応援してる」
「その事なんだけど…滑空さん、俺、本戦辞退しようと思う」
苦笑気味にそう言った尾白に葉隠はもったいない!と声を上げる。
「…そうだねえ、尾白くんからしたら、何もしてないのに本戦に行くなんてできないって思うよね。私も途中解けたけど、自分の力というより心操くんの力で上がった感があるもんね」
「…滑空さんは本戦に行くべきだよ。たしかに洗脳から早くに解けたのは爆豪のおかげだけど、後半は君の力も入ってる。」
「…うん」
「俺のことは気にせず、俺の分まで、頑張ってくれ」
「…わかった。尾白くんがそういってくれるなら、尾白くんの分まで本戦で勝ち上がる!」
「滑空さん、反射神経化け物だから戦闘やる気出したら、超強いだろうね」
冗談めかして笑う尾白につられて周りにいた耳郎や葉隠も笑い、他のクラスメートとともに食堂に向かった。
その道すがら、美鳥はピタッと足を止めた。
「あっ、今日焦凍くんとごはん食べようって言ってたんだった」
「うわ!イケメンとごはん…、よくご飯が喉通るね。うらやま…」
「葉隠さん心の声出てる…」
「ごめん探してくるから先いってて!」
食堂で席とっとくねー!と手を振る耳郎に振り返し、美鳥は来た道を引き返した。
ー
「いないな〜、どこまで行ったんだろ…連絡だけして食べちゃおうかな…
んおわっ!?!」
一通り回ったものの、見当たらずもう食べちゃおうかと考え携帯を開いたとき、突然伸びてきた手に羽交い絞めにされ、なんとか動いて確認すると、最近けんか続きのかっちゃんであった。
「(なんでこんなこと!?)」
「(黙れ)」
「ん!?(は!?)」
「個性婚、知ってるよな」
「…!(焦凍くん?)」
何でこんなことするんだといわんばかりの目を向けたとき、聞こえてきた会話に美鳥は思わず息を止めた。
「超常が起きてから、第二〜第三世代間で問題になったやつ…自身の個性をより強化して継がせるためだけに配偶者を選び、結婚を強いる。倫理観の欠落した前時代的発想。実績と金だけはある男だ…、親父は母の親族を丸め込み、母の個性を手に入れた」
曲がり角の向こうから聞こえてくる不穏な会話。ああ、きっとあの話だ、と小さいころ焦凍くんに聞いた話を思い出した。
かっちゃんと目を合わせると壁に背を預ける。見慣れたモジャ毛が見えた、いずくんだ。
(焦凍くん、いずくんに何を話して、)
「俺をオールマイト以上のヒーローに育て上げることで自身の欲求を満たそうってこった。うっとうしい…!そんな屑の道具にはならねぇ」
苦虫を噛み潰したように轟は続ける。
「記憶の中の母はいつも泣いている…。お前の左側が醜いと、母は俺に煮え湯を浴びせた。ざっと話したが、俺がお前につっかかんのは、見返すためだ。クソ親父の個性なんざなくたって…いや、使わず一番になることで、奴を完全否定する」
あまりに違う世界の話で爆豪はポケットに手を突っ込んだまま黙りこくる。
美鳥は緑谷がどんな反応をするのか気になっていた。
「言わねえなら別にいい。おまえがオールマイトの何であろうと、俺は右だけでおまえの上に行く。時間取らせたな」
「僕は…ずっと、助けられてきた。美鳥ちゃんや、みんなに、さっきだってそうだ…僕は、誰かに救けられてここにいる」
ぽつりぽつりと、緑谷はいなくなる轟を追いかけるように言葉を紡ぎ始めた。
「オールマイト…彼のようになりたい…、その為には一番になるくらい強くなきゃいけない。君に比べたら些細な動機かもしれない…。でも僕だって負けらんない。僕を救けてくれた人たち応えるためにも、そして、美鳥ちゃんを守るためにも!」
(えっ、いずくん、なんで私?)
轟の宣戦布告に応える緑谷の理由の中に自分が入っていたことに驚く。
緑谷と轟が戻ってくる前にその場からそそくさと移動したあと、なぜ2人を探していたのかを思い出した美鳥であった。
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