小説 | ナノ
次の競技は騎馬戦。
前の障害物競争の順位に基づいてポイントが配布された。
1位のいずくんは1000万ポイントだという。
「それじゃこれより15分!チーム決めの交渉タイムスタートよ!」
「どうするか…」
「「「美鳥/ちゃん!!」」」
自分2位でポイント高いし狙われるだろうから、チーム決め難しいなどうしようと思っていたが、一斉に声かけられた。
「美鳥!一緒に組も!ウチ、そんなにポイント高くないけど、一緒に組みたくてどうかな!?」
「あ、耳郎ちゃん」
「ちょちょちょっと待った!美鳥ちゃん僕と!僕と組んで!」
「うおっ、いずくん!」
「美鳥!俺と、組むよな?」
「焦凍くん…」
一気に三人に畳み掛けられ、びっくりしたが美鳥は冷静に答えていく。
「焦凍くんはいつも一緒にいるからやめとこ?」
「一緒にいるからこそ連携取りやすいだろうが」
「いずくんもだけど焦凍くんもそもそもポイント高いから狙われるし、やだ。」
「「なっ、!/ええ!?」」
「っじゃあ!」
耳郎に決まると思いかけたその瞬間、現れたのは4人目の人物。
「滑空〜、一緒にやらねーか?」
「切島くんまで…?」
切島の誘いに一瞬?が浮かんだまわりだったが、視線を感じて振り返ると、遠くから爆豪が凄い顔で睨んでいる。
「なるほど…かっちゃんの仕業かぁ…」
「爆豪なんであんなにこっち睨んでんの?」
「たぶんだけど…、自分から宣戦布告した手前、美鳥ちゃんのこと誘えないけど、他のチームに入れたくないから、切島くん使って誘ったって感じかな。」
「うっわ、独占欲つよ」
で、どうすんだ?と轟が急かすように##を見る。
切島くんには悪いけど、迷いなく耳郎の手を取ろうとしたその時、
「滑空さんだよね?」
「え?あ、うん」
「俺のチームにはいってくれないかな」
いきなり後ろから現れた隈が印象的な普通科の男の子に、肩を叩かれ返事をした瞬間頭が真っ白になった。
ピタリ。と動きが止まった美鳥は取ろうとしていた耳郎の手をとらず、焦点の合っていない目で轟達から離れると
「いいよ」
「「「え!?/美鳥ちゃん!?/」」」
と、その普通科の男の子、心操人使についていった。
(え、なんで!?…え!?美鳥ちゃん!?なんかそっけなさすぎない!?そんなに障害物競争で1位とったの恨まれてるのかな…!?僕のこと嫌いになっちゃった!?嘘!やだ!)
(え!?なんかおかしくなかった…?手取ってくれそうだったのになぁ…。っていうか、あの普通科の子と知り合いだったっけ?)
(最近美鳥が冷たいな…なんでだ?つーか、あの男誰だ…?)
ー
普通科の少年、心操人使に声をかけられて以来、美鳥は意識がなかった。
それは彼の個性、洗脳によるものだった。
騎馬戦は開始し、緑谷や爆豪、轟を始め、クラスメートたちが火花を散らせる中、美鳥は心操の騎馬となっていた。
と、その時、
ードンッ!
「おい美鳥!てめェなにぼやっとしてやがる!早々に勝つの諦めたんか!?」
騎馬と騎馬のすれ違いざまに爆豪に背中を足で蹴られ、
ぱちり。と目を覚ましたように視界が晴れる。
「は!!?」
バッと振り向けば、緑谷達に向かっていく爆豪の騎馬があって、きょろきょろと辺りを見渡したら、みんなが騎馬戦をしていて、
「え!?なにこれ!?どうなってんの!?」
爆豪の蹴りによる衝撃で##の洗脳が解けた瞬間だった。
驚きながら上を見上げれば、やはりそこには思った通りの人物がにやりと笑っていて、
「ああ、洗脳解けちゃったか。また洗脳するよ」
「ええ…なにこれ、君の個性?記憶があやふやなんだけど…!?」
けろりと言った彼は、先ほど声をかけてきた紫色の髪と濃い隈の男子生徒だった。
「ちょっ!まって、」
「何だよ」
「どういう個性なの!?記憶あやふやなんだけど、私どうなってたの!?」
「俺の個性で従わせてた、洗脳だからね。意識が混濁してても倒れたりしないよ」
「なるほど…いや、従わせたりしなくても言ってくれたら組むよ。この個性騎馬戦有利だし」
「…」
てっきり怒られ軽蔑されると思っていたのに。
誘うにも他にやり方があるでしょーよ、強引だなあと言う美鳥に心操は面食らう。
「私の個性が必要だったの?誰でも良かったの?これ尾白くんとB組の人も洗脳中?」
「…そうだね、君の個性、何かで使えそうだなって思って。2人も洗脳中、君はたまたま解けたけどね」
「洗脳解除の条件ってなんなの?」
「…俺が教えると思う?」
「教えたくないなら、教えなくてもいいけど」
「は?…いいのかよ同じクラス、同じヒーロー科だろ?」
「まあそうだけど、私は洗脳かかったままより普通に意識あったほうが協力してくれるし、有利だなって思っただけだから。君が解きたくないならいいよ」
前を向いてきっぱり言い放った彼女に心操は変わってるなと思った。
"洗脳"という個性は異質だ。異質で、危険で、信用されにくく、敵向けと称される。
なのに、一方的に洗脳された被害者のはずなのに、あまり抵抗のなさそうな彼女に心操は心の中で動揺した。
「薄情なのか戦闘思考なのかわかんねえな。…洗脳を解くためには衝撃が必要だ。でも2人は解かないでくれ。2人も君と同じ思考とは思えない。」
「そうかな…あ、教えてくれるんだ?」
「まあな。協力してくれるんだろ?滑空さん」
「美鳥でいいよ。あ、そういえば君、誰?」
「普通科、心操人使」
「おっけ、心操くん。作戦は?」
「残り10秒で話しかけまくって洗脳してポイント奪う」
「あっはは!作戦雑だなあ、わりと大雑把?」
ぷはっと思わず笑っている美鳥に心操はつくづくこの子変だ、と微妙な顔をした。
さっきまで洗脳されていたのに。怒ることもなく、あまつさえ協力してくれるなんて。
洗脳され自分を悪用されたかもしれないのに、不審な目などこちらに向けない。
いまだって、洗脳などなかったのようにけらけら笑っている。
“君の個性、何かで使えそうだなって思って”なんて答えたが、実はヒーロー科の中で太陽みたいに笑う君が気になったって言ったらどう反応するんだろうか。
「作戦はまあわかった。洗脳するにはどうしたらいいの?肩叩くこと?」
「俺の問いかけに答えること」
「え、じゃあ最後の数秒に話しかけまくるの?逆に変な動きになって怪しまれないかな?」
「いや、1人でいい。時間ギリギリで、3位か4位の逃げに走った騎馬を洗脳する」
「は〜なるほど、じゃあ私のポイントもあるしそこまでの防御は必要だねぇ」
そう、いかに騎手がポイントの少ない心操でも、前種目2位の滑空がいることでチームのポイントは跳ね上がるのだ。
##がそういうと、心操チームの騎馬の周りに熱風が吹き始める。それは徐々に勢いが強くなり、やがてそれは炎を帯びた熱風となった。
「これがあれば、そうそうみんな近寄ってこないでしょ」
「…ははっ、マジかよ。やっぱ強個性いいな、」
「何言ってんの、心操くんも十分、強個性でしょ」
「…ふっ、そうだな」
否定せず肯定してくれる美鳥の隣は心地いいと感じた心操。
勢いがすごすぎてマイクに「キョーレツ!!」と実況されたが、言葉通り、熱風を危惧して近寄ってこない敵チーム。
そして、作戦通りに制限時間ギリギリに三位の鉄哲チームを洗脳しハチマキを奪うと、
心操チームは持ち前のポイントもあり4位に繰り上がるのだった。
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