小説 | ナノ
オールマイトが来た、その事実だけ途方もない安心感に襲われる、が、気を抜いてはいけないと思いなおそうとした瞬間、腕を掴まれ気づけばいずくんと一緒に移動させられていた。
「滑空少女、皆を守ってくれてありがとう。あの一瞬があったから間に合った。」
「美鳥ちゃん、ほんとありがとう。でも、無茶しすぎだからね!?間に入ってくるなんて!」
「オールマイト…いずくん」
一瞬で移動してきたオールマイトにそう言われ、張りなおした気がまた緩みかける。
緑谷は美鳥にお礼を言いつつ叱咤し、オールマイトを見上げる。
「オールマイトだめです!!あの脳ミソ敵!ワン…っ、僕の腕が折れないくらいの力だけど、ビクともしなかった!!きっとあいつ…」
「緑谷少年、大丈夫!それよりも他の生徒と、相澤くんを頼むよ。」
「わかりました。美鳥ちゃん、行こう。相澤先生運ばなきゃ」
オールマイトから相澤先生を受け取ったいずくんに、そうだね、と答えて梅雨ちゃんや峰田くんと一緒に出口に向かう。
「なんでバックドロップが爆発みてーになるんだろうな!やっぱ、ダンチだせ、オールマイト!」
「授業はカンペ見ながらの新米さんなのにね。」
蛙吹や峰田の会話を聞きつつも、美鳥はオールマイトと敵から目を離せなかった。
オールマイトを殺そうとする、脳無、黒霧そして主犯格の男。
オールマイトの強さを一番知っているはずなのに、一番心配そうに見ている幼馴染のいずくん。
もしかして、彼らはオールマイトの弱点的なものを知っているのではないだろうか。
殺す算段が整っているから、未だ強気なのではないだろうか。
そんなことが頭をちらついていた時、隣にいたいずくんが飛び出した。
「オールマイトォ!!!」
「いずくん…!?ごめん、二人とも!先生任せた!!」
驚く蛙吹と峰田をよそに、##も咄嗟に緑谷を追いかける。
緑谷に黒霧が迫る。咄嗟にスピードをあげると彼の前に躍り出ようとするが、
ードォンッ!!
「どけ!邪魔だ!!美鳥!!!」
「おわァ!?かっちゃん!?」
爆発とともに現れた爆豪が黒霧を掴まえた。
爆豪だけじゃない。
「てめェらが、オールマイト殺しを実行する役とだけ聞いた」
「焦凍くん!」
パキリ、と脳無の半身が凍る。
「だぁーー!!」
切島が死柄木を攻撃するが寸での所で避けられる。
「くっそ!!いいとこねー!」
「切島くんまで!」
「スカしてんじゃねえぞ、モヤモブが!」
「平和の象徴は、てめェらごときに殺れねえよ」
助太刀に現れたのは、爆豪、切島、轟だった。
「遅くなってわりぃ、大丈夫か」
「焦凍くん、うん、大丈夫」
爆豪がワープゲートの黒霧を拘束している以上、出入口は抑えている。
爆豪の怪しい動きをしたと俺が判断したらすぐ爆破する、というヒーローらしからぬ言動に死柄木は特に焦りを見せなかった。
「攻略された上に全員ほぼ無傷。すごいなぁ、最近の子どもは…。恥ずかしくなってくるぜ、敵連合…!脳無、爆発小僧をやっつけろ、出入口の奪還だ」
死柄木の声に反応したように、焦凍くんに凍らされたはずの脳無は、みるみるうちに再生していく。
「みんな下がれ!なんだ!?ショック吸収の個性じゃないのか!?」
「別にそれだけとは言ってないだろう。これは超再生だな。脳無はおまえの100パーセントにも耐えられるよう改造された超高性能サンドバック人間さ」
脳無がロックオンしたように爆豪を視界にいれる。
ぞわりと悪感が体を走った美鳥は咄嗟に爆豪の元へ駆けた。
( かっちゃんがヤバい )
頭がそれだけを占め、しかしただただ冷静に危機を感じ取って個性を使っていた。
一瞬で爆豪の腕を掴むとグイッと引っ張って場外へ投げ飛ばす。直後、衝撃波が襲う。
それは一瞬だった。
ードォオンッ!!!!!
「滑空少女!?」
その衝撃波からも遮るようにオールマイトが目を前に現れたが若干遅れた。
「かっちゃ…!?よっ、避けたの!?すごい…!」
「違えよ黙れカス!!…っ美鳥!!」
「え…美鳥ちゃん!!?」
凄まじい速さで自分の隣に現れた爆豪をみて緑谷が驚くが、青ざめた表情の爆豪を見て状況を悟る。
衝撃波の半分はオールマイトが受けたが、遅れた分の衝撃はもれなく美鳥が受け、吹き飛んでいた。
「加減を…知らんのか…!滑空少女…無事か!?」
「仲間を助けるためさ、しかたないだろ?他が為に振るう暴力は美談になるんだ、そうだろ?ヒーロー?」
もしかして殺っちゃったか?ハハと笑う死柄木をオールマイトに任せ、返事にも答えず、吹き飛んでピクリとも動かない少女に、青ざめた爆豪たちが走り寄る。
「おい!!美鳥!!」
「へ、返事して!美鳥ちゃん!!!」
「うそだろ…こんなの、嘘だろ!?…っなあ!?」
「っ美鳥…!!!」
瓦礫に突っ込んだ体を傷つけないように、どかして声をかけるがやはり反応はない。
最悪の事態を想像した面々がパニックになりそうになった時、
何やら会話していたはずのオールマイトが凄まじい音を立てて、脳無との本気の戦闘が始まった。
「殴り合いしてるだけなのに風圧がやべえっ…!!」
「##ちゃんが…!」
「黙れクソが!!美鳥は俺が担ぐ!!」
真正面からの殴り合い。
とんでもない衝撃波の連続に、美鳥が危ないと爆豪が横抱きにしその周りをみんなで固める。
「ヒーローとは、常にピンチをぶち壊していくもの!!敵よ!こんな言葉を知ってるか!?Puls ultra!!(更に向こうへ!!)」
ドガァ…ン!!!
最後の一撃で、脳無は施設の屋根を突き破り、場外に飛んでいった。
「…漫画かよ。ショック吸収をないことにしちまった。究極の脳筋だぜ」
「デタラメな力だ…再生も間に合わねえほどのラッシュってことか…」
「やはり衰えた。全盛期なら五発も打てば十分だったろうに、三百発以上も撃ってしまった。さてと、敵、お互い早めに決着つけたいね」
「チートが…!衰えた?嘘だろ…完全に気圧されたよ。よくも俺の脳無を…。全然弱ってないじゃないか!あいつ…俺に嘘教えたのか!?」
「どうした?来ないのかな!?クリアとかなんとか言ってたが…出来るのものならしてみろよ!!」
オールマイトと死柄木の会話を聞きながら、切島は爆豪が美鳥を抱きながら震えているのに気づき声をかける。
「爆豪、緑谷、ここは退いたほうがいいぜもう。滑空も早くつれてかねえと…」
「…ああ」
その時だった。
オールマイトと攻撃を仕掛ける敵の間に緑谷が飛び出した。
「オールマイトから離れろ」
瞬間だった。
緑谷に攻撃をしようとした死柄木の手に銃弾が撃ち込まれた。
「ごめんよ、皆。遅くなったね。すぐ動けるものをかき集めてきた」
「1-Aクラス委員長、飯田天哉!!ただいま戻りました!!」
入り口に、教師陣がずらりと並んでいた。
死柄木からすれば、それはゲームオーバーの合図だった。
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