小説 | ナノ
今日のヒーロー基礎学は3人体制の人命救助訓練だった。
相澤先生から軽く説明を受けたあとコスチュームに着替え、目的地までバスとなる。
そこで、緑谷の個性の話から始まり、“派手な個性”について話していた前の席に座る組から「派手で強えっつったらやっぱ轟と爆豪だな」と2人にみんなの視線が集まり、思わず美鳥もつられて隣に座る轟を見るが、
「…そんでなンで半分野郎はお昼寝だァ!?」
「かっちゃん、シー。焦凍くん起きちゃう」
「起こせや!!!!」
私の肩に埋もれて眠る焦凍君を見て、かっちゃんがキレ、轟や滑空は顔がいいから人気出そうだなと声が上がる。
「二人はともかく、爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそ」
「んだとコラ!出すわ!!」
蛙吹の指摘にギャンと吠えた爆豪に周りは怯むどころが「ホラ」「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ」と煽っていて、ますます爆豪の目が吊りがっていくものだから思わず美鳥は笑ってしまう。
小さい頃はそばにいたが、彼がここまでイジられているのは初めて見たのだ。
「あっははっ!!」
「テメーも笑ってんじゃねえ!!!」
不毛な言い争いは相澤が「もう着くぞ、いい加減にしとけよ」とギロリと睨むまで続いた。
「水難事故、土砂災害、火事…etc、あらゆる事故や災害を想定し僕が作った演習場です。その名も、USJ(ウソの事故や災害ルーム)!」
一行は、演習場についた。
「スペースヒーロー“13号”だ!災害救助でめざましい活躍をしている紳士的なヒーロー!」
「わー!私好きなの13号!」
待っていたスペースヒーロー13号は1言2言相澤と交わすと、相澤の「仕方ない。始めるか」という合図で生徒たちに向き直った。
「えー始める前にお小言をひとつふたつ…みっつ、よっつ、」
少しずつ増えていくお小言にげんなりとする生徒たちだったが、まず始まったのは自分の個性の説明。
「皆さんご存知だと思いますが、僕の個性はブラックホール。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」
「その個性でどんな災害からも人を救い上げるんですよね」
「ええ…しかし、簡単に人を殺せる力です」
自分の個性の説明とともに言われたそのお小言に、シンと、空気が静まり返った。
13号の登場にはしゃぎ、浮き足立っていた面々も、「みんなの中にもそういう個性がいるでしょう」と言われ、分かっていたはずだがちゃんと理解できていなかったその事実を突きつけられ、浮ついていた顔が引き締まる。
「超人社会は個性の使用を資格制にし、厳しく規制することで一見成り立っているように見えます。しかし一歩間違えれば容易に人を殺せる行き過ぎた個性を個々が持っていることを忘れないでください」
行き過ぎた個性。
確かにそうだ、個性は遺伝しより強固なものへなっていく。最近では両親から継いだ個性が強すぎるがゆえに扱えない子も多いと聞く。鳥と火の力を両方継いだ私もそうだと、思わず手を見つめながら改めて理解する。
「相澤さんの体力テストで自身の秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘でそれを人に向ける危うさを体験したかと思います。この授業では…心機一転!人命のために個性をどう活用するかを学んでいきましょう。君たちの力は人を傷つけるためにあるのではない。救けるためにあるのだと、心得て帰ってくださいな」
ご静聴、ありがとうございました!という13号の挨拶にパチパチと拍手をしつつも、うまくできるかな思わずため息が出る。
なんせエンデヴァーとしている訓練はすべて戦闘訓練だ。救助なんてやったことがない。
うまくできないかもしれないが頑張ろうと広場に目を向けた時だった。
「そんじゃ、まずは、」
いよいよ授業が始まる。
相澤が喋る言葉を聞きながらも美鳥は広場から目が離せなかった。
ぼーっと見ていたそこに、黒いもやが広がり始めていて、
(え…?なに、あれ?)
こてんと首を傾げ、相澤に視線を送れば、彼も広場を見ていて、
「一ッかたまりになって動くな!!13号!生徒を守れ!!」
一気に空気が張り詰めた。
広場の黒いもやが広がり現れたのは、多数のヴィランだった。
「13号にイレイザーヘッドですか…。先日いただいた教師側のカリキュラムでは、オールマイトがここにいるはずなのですが…、」
「やはり先日のはクソどもの仕業だったか」
「どこだよ…、せっかくこんなに大衆引き連れて来たのにさ…オールマイト…平和の象徴…いないなんて」
ヴィランと相澤のやりとりを聞いて、徐々に状況を理解し始めた生徒たちは警戒心と恐怖で身を竦め顔をしかめる。
「子供を殺せば来るのかな」
それは途方も無い悪意と殺気。
美鳥は全身の毛が逆立つような感覚を覚えた。
「ヴィランン!?バカだろ!?ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!」
「先生、侵入者用センサーは!」
「もちろんありますが…!」
相澤の張り詰めた声、13号の動揺を感じ取り、ああ“訓練”ではないのだ、と生徒たちにザワザワと動揺が走る。
全員が顔を引き攣らせ、呆然と広場に現れた敵を見る中、「現れたのはここだけか、学校全体か…」と思案する轟に、「ここだけ、だね」と妙に冷静に断言したのは、先ほどまで救助が不安だと顔を青くしていた少女だった。
敵の数を数えながら、「微かだけど、さっきオールマイトがここにいるはず、とか言ってた」と轟と二人考察し始めるそれが恐ろしく冷静で、異様で、自然と、周りの視線が轟と滑空に集まる。
「やつらはオールマイト先生と戦うために準備してピンポイントでここを責めてきたってことだ」
「「「なるほど…」」」
「何にせよ、センサーが反応しねーなら向こうにそういうこと出来る個性がいるってことだな」
焦凍くんと二人で考察してると訓練思い出すねという滑空に、頷きつつそう言った轟は、この状況を見るに、用意周到に画策された奇襲だと結論づけた。
「13号避難開始!学校に連絡試せ!センサーの対策も頭にあるヴィランだ、電波系の個性が妨害している可能性もある。上鳴、お前も個性で連絡試せ!!」
「ッス!」
「先生は!?1人で戦うんですか!?」
「あの数じゃ、いくら個性を消すって言っても!」
「イレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の個性を消してからの捕縛だ!正面戦闘は…」
「一芸だけじゃヒーローは務まらん」
「ちょっ、先生ェ!!」
そして、相澤は13号に任せたぞ、と一言残すと、敵の中に飛び出していった。
「すごい…」
相澤がヴィランを一掃する姿を目の当たりにして思わず声が出る。
対面戦闘向きの個性ではないのに、対等どころか有利にさえ見える。
「さっさと避難すんぞ!!」
「わあ!わかったよかっちゃん…!」
相澤先生の戦闘にくぎ付けになっているとかっちゃんに腕を引っ張られた。
「させませんよ」
目の前に黒い靄が広がり、避難していた生徒たちの行方を阻んだ。
「はじめまして、我々は敵(ヴィラン)連合。せんえつながら、この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせていただいたのは、平和の象徴オールマイトに息絶えていただきたいと思ってのことでして…」
そう言った黒い靄に、本当に彼らはオールマイトに勝つつもりなのだと、生徒たちは愕然とした。
まさか本当にその算段が整っているのだろうか、と不安になったところで、
「本来ならばここにオールマイトがいらっしゃるはず。…ですが、何か変更があったのでしょうか?まぁ、それとは関係なく、私の役目はこれ」
靄がぶわりと全体に広がる。
やらなきゃやられる!!そう思って背中の羽をチリッ、と出しかけた瞬間
「「下がってろ!」」
「うわっ!?」
ぐいっと後ろに引っ張り、戦線から下げた爆豪と切島はその勢いのまま、ヴィランに攻撃を仕掛けた。
ドォンッ!
「その前に俺たちにやられることは考えてなかったか!?」
「危ない危ない…そう、生徒といえど優秀な金の卵」
「ダメだ、どきなさい2人とも!」
13号が守るように前に立つが、すでに靄は生徒たちを包んでいた。
ー散らして、嬲り、殺す。
靄の声は、暗闇の中で不気味に響いた。
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