小説 | ナノ
「…遅いな…」
「んぁ?何が?」
研究書を片手にお昼ご飯をもぐもぐと食べていると、前に座るペンギンがポツリと漏らした。
「キャプテンだ、いつもならこの時間にはさすがに起きてくるんだが…さすがに2食抜きだと体調にも関わってくるんだがな…」
「起こしに行けばいいじゃん」
「おま、それが出来たら苦労しねーよ!」
ズズズッとコーヒーを飲みながら言えば、後ろからドスン!とキャスがぶつかってきた。
「なんで」
「すっごく…、ものすごーーーく…
寝起きが悪いんだ…」
最初に起こしに行った時なんて殺されかけた…と半ば放心気味に言うキャスを見て、ふぅんと興味無さげに答える。
「よし、トリシー。お前キャプテンを起こしに行ってこい」
「えっいや何が、よし。なのかわかんないし。めんどくさいイヤ。」
「最悪キャプテンが寝ぼけていても、殺される確率が一番低いからだ。」
「そうだな!お前強いし!よし行ってこい!」
お前ら…この男所帯で女性が一番強いって、それでいいのか…
「やだー!子供じゃないんだからー、可愛い可愛い弟達ならともかく、あのクソ可愛くない隈男とか…!」
「もし、うまく起こしてくれたなら…
今度の島で研究のための費用、出してやってもいい。」
ギャーギャーと騒ぎ嫌がっていたが、ペンギンのその一言に、ピタッと止まった。
「それ、ほんと?嘘は無しよ?」
「あぁ、本当だ。」
「行ってきます!!!」
手に持っていたコーヒーを飲み込んで、勢いよく船長室に駆け込む。
「キャプテーーーン、朝ですよーっていうか昼ですよー!」
「…」
部屋が暗かったので光を遮っていたカーテンを開け、キャプテンに近寄る。
布団を捲ればいつもの眉間のシワもなく、意外と幼い顔が姿を見せた。
「あら…へぇこうして見るとエドやアルとそんなに変わらないわね…」
そう呟いて、サラッと頭を撫でた瞬間。
「!熱い…結構高いじゃない、これ…」
まさに医者の不養生だなと思いながら、練丹術を施す。
「キャプテン、キャプテン、ちょっと辛いかもしれないけど、起きて」
「ん…?」
たぶん熱が出てるのわかってないんだろうなと思いながら、水の入ったコップを差し出すと、うまく飲めない様でダラダラと零しまくる。
「はぁ、まぁこんだけ高い熱だから仕方ないか。ほら、貸して。」
「ん」
素直にコップを渡してくるキャプテンを見て、ほんとに熱でわけわかんなくなってるなーと思い、水を口に含んでキャプテンの口を塞ぐ。
別にやましい気持ち何ぞ無いけど、よくエドも飲めなかったりして、こうして飲ませてあげていたから特に抵抗はない。
ごくん、と喉が鳴ったのを確認して口を離すと後ろからゴトン!と音が聞こえて振り返る。
「あら、ペンギンにキャス」
「おま、おおおおおま…!!!
キャプテンに何をーーーー!!!」
とりあえず病人の前で大声出すな!とその辺に落ちていた本を投げつける。
「病人って?風邪をひいているのかキャプテンは。」
「そうなの、起こしても意識は虚ろだし、結構熱も高い。とりあえず練丹術を施して水分は取らせたわ。」
練丹術は錬金術の応用で治療法に当たるわとペンギンに説明すれば、キャスがお前は本当に何でもできるな…と感心された。
「にしてもいいのか?女ってのはそんなに軽々しくキスはするもんじゃないだろう?」
「あ!そうだよ!お前実はキャプテンが好きとか…ゴブフッ!」
「それはない」
キャスの顔面に一撃入れると、ううぅ、と崩れ落ちた。
「あのね、もう24よ?そんなの恥ずかしがる歳じゃないし、大体人命優先でしょ」
「ううん、ごもっともなんだけど納得できん」
うーんと唸るシャチにもう黙ってろとペンギンが言った瞬間だった。
「てっ……!敵襲だ…!敵襲ーーーー!!!」
「随分と空気の読めない敵さんね…」
「全くだ…!シャチ、先に行ってあいつらを援護しろ!俺たちもすぐに行く!」
「お、おう!!」
ガツンと揺れを感じた途端、響く船員の声。
そんなに気配と声援が聞こえない為、少数だろうと思い込んだのがいけなかった。
とりあえずキャプテンの事をペンギンに任せ、私も外に出る。
「っ!?なに、これ…!?」
「あら?女の子?…ああ君がサカヅキが言ってた鋼の足の女の子か」
外に出ると冬島でもないのに雪景色が広がり、皆死んではいないものの各所を凍らされ動けない者が殆どであった。
「!トリシー!!コイツはやべえ!
海軍大将の、青雉…クザンだ!!」
「ちょっと君うるさいね」
「キャス!!!」
ギリギリ立っていたキャスでさえも、犬の様に吹っ飛ばされ凍った。
まずい、海の上でこんなやつ相手にキャプテンを護りながら戦えるか…!?
「…誰を捕まえに来たの?大将さん」
「んー…あーなんだっけな、忘れた
ところでクザンって呼んでよ可愛子ちゃん」
「ハァ?」
あの赤犬って人と違ってものすごくヤル気が無いんだけどそれでいいのか?
とりあえず警戒は解かずに話し続け、その間に船医目配せをしてみんなを溶かしに行ってもらった。
「それで?姉ちゃんは?」
「トリシー・エルリック。トリシーが名前よ。クザン、悪いんだけどここは引いてくれないかしら」
「んートリシーちゃんかぁ可愛いなぁ
でもそれはさすがに聞けねーなぁ」
そう言って歩き出すクザンの前に立ちはだかり、発火手袋を構えパチン!と鳴らす。
バコンッ!
「っ!?炎!?」
「悪いけどここを通すわけには行かないわ。見たところロギア?の能力者みたいだし、これくらいじゃ死なないわよね?」
だから、私がとっておきを出す前に帰って。と伝えれば、わかったわかった。と手を挙げ降参するスタイルを取るクザン。
「じゃ、俺は帰るからーーーー
なんて言うと思った?
"氷河時代(アイスエイジ)"」
「しまっ…!!!」
瞬間凍らされる私だったが完璧に氷漬けにされる前に持ち前の錬金術で分解したものの、下半身は凍ってしまった。
私の能力を炎だと思っているのか、特に警戒も無く近づいてくる。
「悪いねトリシーちゃん」
「っ待て!!!」
凍った私の横をすり抜け、キャプテンの部屋へと入ったクザン。
「!!?青雉ッ!?!」
「へぇ、トラファルガー・ローはお熱かい?」
「ぐあっ!?」
「ッペンギン!!」
キャプテンを護ろうと青雉の前に躍り出たペンギンは氷の刃を喰らい倒れる。
「案外2億の首も呆気ないねえ」
「ッッ!やめろォ!!!」
キャプテンにトドメを刺そうとしたクザンに、禁じられていた錬金術をフルに使って攻撃し、動けない様に拘束した。
「おまえ…一体、なんの実の能力だ?」
「教える義理はないね」
「…まぁ最もな回答だが、現状でそれを言うか?」
確かにここで私の秘密と交換に帰ってもらうのが一番いい手だろう。
だが…
「教えて、本当に帰るかどうかなんてわからないでしょ?」
「まぁ…そうだな」
さっき嘘ついたもの。と付け加えれば、あーわかったよ。と何かを決心したクザン。
「どうすれば信用してくれる?」
「貴方海軍でしょう?海賊にそれ言う?
まぁ、いいけど。そうね…みんなの氷を溶かして。」
そう言えば、はいはい。と言いながら溶かし、解放されていく船員。
「っトリシー!無事か?!」
「ええ、みんなよりは無事よ。」
「おい青雉!トリシーの氷も溶かせよ!」
みんなのブーイングに、それじゃフェアじゃないでしょーよ。と言うクザン。
「で?君は一体何者なの?トリシーちゃん」
「あらやだ知りたかったのは、なんの実か、でしょう?」
「まぁそうだけど、トリシーちゃんのケチー」
「なんの実かって言うと、何も食べてないわ」
「は?」
私の言葉にわけのわからないと言った様な顔をするクザン。
「敢えて言うなら、科学者…
錬金術士よ」
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