小説 | ナノ




「…えっ?なに?れん、きんじゅつ?」



「はい、教えたでしょ。帰って帰って」


「イヤイヤイヤ。何の実でもないってわかって帰れないでしょ、結局なにもわかってないし」


「はー?それこそフェアじゃないでしょ」


あーだこーだ言いあっていると、漸く覚醒したローがいつの間にか目の前にいた。



「何をうだうだ言いあってる、さっさと退けろ」


「ちょ、ちょっとキャプテン!まだ熱あるんだから下がってて!」


「うるせえ、俺に命令すんな」


真っ赤な顔でフラフラしてるのに納得出来るわけがない。
ローが出てきた事で更にカオスと化したこの場で、船員はアワアワしていた。



「てことで、青雉屋…悪いがさっさと帰ってもらうぜ」



「あー…ほんとに熱に浮かされてるみたいね」



結局退かそうとしても全く退いてくれないキャプテンは愛刀を抜いて戦闘態勢なのだが、クザンがまだ一体どんな手を残しているかわからない状態でこれはまずい。
何故ならここでキャプテンが運悪く撃たれてしまえばハート海賊団の冒険は潰えてしまうからだ。
やっぱり無理矢理でも部屋に戻ってもらおうとした時だった。





「あー…熱に浮かされてるとこ悪いけど、トリシーちゃんの素性がわからないまま、帰れないのよね…!」



「ちょ…!ほんとに約束破る気…!?」



「おい…!退けトリシー…!」


「いやほんと、キャプテン部屋に戻って…!!」


このままではまずいと、思った矢先
私の拘束を易々と解いたクザンが容赦なく攻撃してきた。



「危ない!!!」


「!?トリシーっ…」


「おい!?」



広範囲に広がるそれに、間に合わないと思った私はキャプテンに覆いかぶさり、錬金術で上に壁を作った。



「おいっ…トリシー!」


「キャプテン、無事…?ごめ、ちょっと…塞ぎきれなかった…」


グサリと、塞ぎきれなかった氷柱が右腹を貫通していた、なんとかキャプテンに刺さる前に、手で押し留めたが、支えきれずにそのまま横に倒れる。



「あらら…ごめんね、トリシーちゃん」



「あや、まるくらいなら…最初から、約束、守れ…ばーか…」


本当に申し訳なく思っているのか定かではない、クザンの声と、みんなの切羽詰まった声を聞いたまま、私の意識はブラックアウトした。




あったかい…
すごく懐かしい夢を見ている気がする。


『…ッグス…、うぅ、姉ちゃん…』


『また、泣いてるの?エド…』


『だって、姉ちゃんが…』



懐かしい、そうだったエドは幼い頃アルに劣らず泣き虫で、呼び方も"姉貴"じゃなくて、"姉ちゃん"だった。
私が軍人になって、あの家に2人を置き去りにしてからエドは変わってしまった。
アルを守る為にお兄ちゃんになった。
あの頃を悔やまなかった事はない、ごめんねエド。


『姉さんが強いの、知ってるでしょう?大丈夫、大丈夫よ、エド』



『うん、うん…』



今ではもうさせてくれないであろう、抱き締めて頭を撫でた。
だがおかしい、何故か徐々に抵抗されている気がする。



『…エド…?』



「…い、おい!いい加減に離せ!」



「あ、れ?…キャプテン?」


私がエドだと勘違いして撫でていたのはキャプテンの頭だった。
ん?キャプテン?




「…あ!!熱!熱は下がったの!?」



「あ?まだ微熱だが正気だぞ」



「はっ!?微熱!?寝てなきゃダメでしょ、ほら寝て!」


「あ?!お前大怪我したのわかってんのか!?俺よりお前が寝ろ!」


大怪我…
キャプテンの言葉にポンポン物事を思い出していく。



「体は!?怪我はない!?っわぁ!?」


「お前は…!ちったあ自分の心配しやがれ!!」


ぼすん!と押されてそのままベッドに逆戻りし、キャプテンの形相が凄かったのでそのまま寝る事にした。



「悪かったな、あの時の俺は正気じゃなかった」


「キャプテンが…謝った…!?」


「てめぇ…」



どうやらクザンとの戦闘が相当きているらしく、申し訳なさそうに謝るキャプテンにエド達と同じように頭をポンポンと撫でてあげる。



「大丈夫、キャプテン。私は仲間とキャプテンを護っただけよ。当たり前の事でしょう?」



「お前…子供扱いすんのやめろ…大体同い年だろうが。」



「何言ってんの男なんていつまで経ってもお子ちゃまよ。で?こういう時はなんて言うの?」



「………よくやった、トリシー。」



「アイアイ、キャプテン







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