小説 | ナノ
「はーっはーっ…」
「いやぁ、びっくりしたねぇ」
「「「それは俺たちのセリフだっ!!!」」」
赤犬から命からがら逃げ延びた私達は、無事島を出航し海の上で息を荒げていた。
暢気な事を呟くと一斉に突っ込まれた。
「いやー驚いたぜ…キャプテンとベポが走ってきたかと思えば後ろには赤犬だもんな…
生きた心地がしなかった…」
「で?そのキャプテンは?」
「今治療中だ。で、その…足は突っ込んでいいのか…?」
言いづらそうにペンギンがそう言うと、そういえばお前も怪我してるだろ!とキャスが思い出したように言うので、そんな重症じゃ無いし、キャプテン終わってからでいいよと言った。
「で、これの事だけどどうせだからキャプテンが来てからでいい?」
「治療なら終わったからな、お前を治療しながら聞いてやる。」
振り向けば軽く包帯をしたキャプテンがいた。
「そっか。うんじゃあ、長くなるけど聞いてもらおうかな」
そう言って、元の世界に弟が二人いる事、その弟と母親を生き返らせようとして、失敗して罪を背負った事、その為幼馴染に足を作ってもらい、まだ幼い弟達を護るため国家錬金術師になった事、様々な事を話した。
「だからまぁ、この足とももう9年の付き合いになるし、もう慣れちゃったからね。」
「ううー!!くそー!!泣かせやがってー!!!」
「随分辛い人生送ってきたんだな…」
話し終えるとほぼ全員涙目だった。
そんな中、キャプテンが話しかける。
「その足、どうすんだ?俺は医者だし、義足の知識もあるが、オートメイルってのは初めてだ。制作方法も知らない。」
「ああ、大丈夫。向こうでも壊れるのはしょっちゅうだったから、幼馴染の子に色々教えて貰ったんで、直せるから平気だよ。」
そういって、足りなかった材料と一緒に置き錬成すると足が出来上がる。
「ほら」
「ああ。だがこれを繋げなきゃ意味がねぇだろ?」
そう言うキャプテンに、あー…と吃りながら神経を繋げなきゃいけないから、激痛なんだよね…と苦い顔をする。
「まぁでも、もう少し休憩して、覚悟きめたらやるーーー」
「へぇ、俺がやってやるよ」
「は?」
ニヤリと愉しそうに笑うキャプテンに、イヤイヤイヤ!!!と止める。
「なんだよ、」
「いやだから、痛いんだって…!自分でやるからいいよ!!」
「大丈夫だ、俺は医者だから。任せろ」
そういって私の足を持ち近付いてくるキャプテンに、サッと青くなりながらキャスとペンギンに助けを求めるが、無視された(薄情者!!)
「やっ、ヤダヤダヤダ!!!こ、来ないで!!医者関係ないし!!」
「うるせぇな、いいから黙って大人しくしてろ」
片足のみで逃げ切れるはずも無く、キャプテンにマウントポジションを取られてしまう。
クルーはもはやヒヤヒヤしながら行く末を見守る。
「俺の肩を掴んでていい」
「…どうなっても知らないからね…!!」
そう言って肩を掴むと、行くぞ。と言われガコン!と接続される。
「っぁああああ!!!!」
「っ!!」
私の叫びと共に、ギリッと力の込めた手はキャプテンの肩に傷をつけた。
「っはっ、はっ…」
「大丈夫か?」
「ん、へいき…」
「少し横になってろ、運んでやる。」
「(いやらしい風に見えるのは気のせいだ)」←キャス
そう言って私を担ごうとする手を離す。
「いや、神経繋いだばっかりだし、手合わせしたいから、キャス付き合って」
「えっいや、はァ!?!おま、今あんなに痛がってたんだぞ!?そんなの相手に手合わせなんて、出来るか!(大体キャプテンに何て言われるか…!)」
「えー、軽く組手するだけだよ」
「いい、俺がしてやる」
キャスにお願いしているとキャプテンが珍しく俺がすると言い始めた。
「えっ、いや、でも、キャプテン一応怪我人だし、」
「なんだ?俺が負けるとでも?」
「いいえ、なんでもないです」
安心しろタコ殴りにしてやると、言われ始まった組手。
バシッ、ガンッ!
ガッ、ゴッ!
「すげー…トリシーの奴、キャプテン相手に一撃も食らってねえ」
「まぁキャプテンも当たり前だけど食らってないな。」
感心するクルーを他所に、キャプテンが組手を止め話し出す。
「随分とやり手だな、他にも扱える武器あんだろ」
「まぁ一応軍人だったしねぇ、銃、剣、体術…まぁそんな感じ?」
俺トリシーに勝てる気がしねぇ…と落ち込んでるキャスを端目に、キャプテンが銃を投げてきた。
「撃ってみろ」
そう言われて指差されたのは結構遠い的。
「ええ!?キャプテン!あれは無理ですって!!あんなの撃てるのウチの狙撃手くらいしか−−−」
パァン!!
キャスが言い終わらない内に流れる様な動作で的を撃つ。
的の近くにいたクルーが呟く
「ど、ど真ん中、です…」
「嘘だろなんだよあの流れる様な動作…!
俺撃ったのかよくわかんなかったぞ!?」
アホな事を言うクルーに、撃つってわかるような撃ち方するわけないでしょ?避けられるじゃない。といえば、な、なるほどー!と言う。
「前々から思ってたんだけどもしかして、みんなアホなの?」
「それは言ってくれるな…、ところで、お前ちょっとこっちこい」
グイッと手を引かれて連れてこられたのは船長室だった。
そこに座れと言われて、椅子に大人しく座る。
「キャプテン…?」
「こっちを見ろ」
スッと左を指差され、そちらに目を泳がせる。すると、今度はこっち。と右を指され、今度はそちらを見る。
なんなんだろうと、伺っているといきなり視力検査の時に使う黒い棒を手渡され、右目を隠せと言われる。
「…右、目?」
「あぁ、そうだ。早くしろ」
もしかして、左目の視力が無いことがばれたのだろうか…。どうやって誤魔化すか考えたかったがそんな時間を許してくれる程甘くはなかった。
「…わかった、はい。」
「こっちをみろ」
右目に装着すれば、そう言い放たれるが私の視界は真っ暗であり、キャプテンの指がどちらを向いているのか知る由も無い。
「……」
「…はぁ、やっぱりな
お前、左目見えてねぇだろう。」
どうやら間違った方向を見てしまったらしく、見えてない事がバレてしまった。
「…えへ☆」
「えへ、じゃねーよ。えへ、じゃ。
いつからだ」
「ええーっと、右足と一緒に、もってかれました…」
正直にそう答えれば、溜息を吐き、よくそれであれだけ戦えるもんだと言われた。
まぁ軍人ですしね。
「まぁ上手く隠せているようだし、あいつらに話す気はねぇんだろう?
仕方ねーから、黙っておいてやる。」
その言葉に、やったー!と喜び
その日はキャプテンの部屋で療養した。
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