思い出が散りばめられている校舎を後にして(木春)


今日は春奈達雷門中の卒業式。
それを聞きつけた円堂が卒業試合だ!、と言って再び既に高校生になった人達も含め、かつての仲間達を雷門中に呼び出した。

「もー、繋がらないなぁ〜…」
「木暮くん?」

他の皆は既に集まって準備している。
遠い吹雪や綱海などは前日から円堂の家に泊まっているのだから恐れいる。
後は木暮だけだった。
何回鳴らしてもコールばかりで出ない木暮に春奈はため息を吐きながら携帯を切ると秋が話しかけてきた。

「はい〜…来るとは言ってたんですけど…」
「そう…でも確か木暮くんの所も今日卒業式だったんでしょう?なら少し遅れても不思議じゃないわ。」
「そうですけど〜」

頭ではわかっていても春奈は落ち着かないようだった。
秋はそんな春奈を見ると微笑んだ。

「待ち遠しいのね。木暮くんに会えるのが。」
「えぇっ!?」

そう言った途端春奈は顔を真っ赤にして危うく携帯を落としそうになった。

「あわわ…と、って、秋さん何言ってるんですか!私は別に…っ!!」
「ふふっ。音無さん、顔真っ赤よ?」
「〜〜〜っ、」

二人が話しているとピー、と試合開始の合図が鳴った。
春奈はその合図を聞くと明らかに表情が曇った。

「木暮来てないけどもう時間だし始めるか」
「あぁ、そうだ…」
「ちょーっと待ったーっ!!」
「!」

さぁ始めようと円堂が言い出した時だった。
普通より少し小柄な人影が慌てて校門に滑りこんだ。

「ひどいよ円堂さん!!俺抜きで先に始めるなんて!!」
「木暮!!木暮じゃないか!!」

大きな声でそう喚く人物の正体は木暮だった。
春奈は木暮が来たのに気付くと嬉しいのと腹立つので身を乗り出しながら大きな声で叫んだ。

「っ、遅いわよ木暮くん!!」
「はぁー?お前こっちも卒業式だったの知ってるだろー?むしろ褒めて欲しいくらいだっつーの!!大変だったんだからなあいつら撒いて直行で新幹線乗るの!!」

なるほど、そう言えば木暮の姿はジャージどころかあの制服というには独特すぎる修行服のようなものだった。
何故そこまでボロボロなのかは分からないが。

「だったら連絡ぐらいよこしなさいよー!!」
「充電切れだったんだよ!!」
「ばか!!」
「まぁまぁ、とりあえず間に合って良かったじゃないか」

木暮と春奈が言い合いしてると円堂が木暮の肩をポンと叩いた。

(あれ、なんか違和感が…)
「円堂さん…俺抜きでさっさと始めようとした人がよく言う…」
「あははー、まぁいいじゃないか。っよし、皆…サッカーやろうぜ!!」
「「「おー!!」」」

円堂十八番の言葉を聞くと皆それぞれのポジションに着き、木暮も慌ててユニフォームに着替えていった。

「良かったわね、木暮くん間に合って。」
「だから私は別に…っ」

春奈が慌てて弁解しようにも秋は微笑むばかりだった。
何故だろう。たった1つしか違わないのにこんなにも見透かされている気がするのは。
秋の前ではどんな言葉を連ねてを無駄な気がし、春奈は大人しく、…はい、と俯きながら答えた。


試合は接戦の末、引き分けとなって終わった。
どの選手もこの1年で更に力をつけたらしく、激しい攻防の連続だった。

「はぁーっ、つっかれたー…」
「お疲れ様。」
「あ、サンキュ」

木暮がどたっと地面に腰を下ろすと春奈がタオルとドリンクを渡した。
秋や夏未達も皆にタオルなどを渡しにいってた。

「木暮くん、また強くなったんじゃない?」

春奈は仕事が終わったのか木暮の隣に腰かけた。

「まーね。これでもキャプテンだったんだ。強くなきゃ皆に示しがつかないだろっ」

うししっ、と相変わらず変わらない笑い方でいたずらっ子のように笑った。

「示しねぇ…木暮くんも大人になったねぇ」

よしよしと春奈はからかい半分に木暮の頭を撫でた。

「ガキ扱いすんな!!」
「…そう言えば木暮くん、背、伸びた?」
「話反らすなよ!!…まぁね。俺今成長期だし。多分お前と最後にあってからまた10センチ位伸びたよ」
「じゅっ…!!」

木暮と最後にあったのは春奈達にとって最後の試合、夏の全国大会だった。
あの時もまだ伸びてると言っていたが…
通りでさっさ円堂と並んだ時に違和感があったはずだ。
成長期、恐るべし。

「…そう言えばなんで木暮くん、あんなに制服ボロボロだったの?ダメだよ、制服大事にしなきゃ」
「違うわいっ!!あれは女子が…」
「へ、女子?」

木暮は思わず溢してしまった言葉にしまったという顔をして慌てて口を手で覆ったが言ってしまったもんはしょうがないと思ったのか目線を外しながらボソボソと話始めた。

「…円堂さん達だってあっただろ?卒業式の時のボタン争奪戦。」
「あー…そう言えば…」

去年の卒業式、円堂や鬼道、こう言っては失礼だが染岡までが女子に群がれていた。
豪炎寺や風丸なんかは特に凄かった。むしろ女子が怖かった。
その二人はボタンがなくなると今度は学ランを、ジャージを、と身ぐるみを剥がされまくっていた。

「…って、まさか木暮くんも!?」
「随分失礼な言い種だな。まぁアレだよ、一応世界一になったしキャプテンだったしな。ま、一種のブランド品と同じだろ」

木暮はぐーんと背伸びをするとボスンと後ろに倒れこんだ。

「…でも木暮くん達の制服ってボタンないじゃない。一体何が取られそうになったの?」
「帯。」
「帯!?」
「そ。もー大変だったぜ。これから用があるっつってんのに帯奪おうと女子が群がってくんだもん。帯なんかとられたら制服着れなくなるし、かといって着替える時間もないから適当にあしらって駅に向かったって事。」
「それはなんというか…お疲れ様」
「全くだぜ」

そう話がまとまると二人の間には何故か変な緊張感がうまれた。

「…お前は?」
「え?」
「お前も今年はそーゆーの、ちょっとはいたんじゃないの?」
「今年は…ってどういう意味よ」
「だって去年はなかっただろ?」
「そうだけど…って、なんで木暮くんが知ってんのよ!!」
「勘。」
「はぁ!?」

というか去年、あの鬼道がいたのに告白する奴がいたら見てみたいものだ。
去年の卒業試合で雷門に来た時も始終鬼道が目を光らせていたのを覚えてる。
自分も睨まれたのは言うまでもない。

「…なんで木暮くんに言わなきゃいけないのよ」
「って事はあったんだ。お疲れ。」
「だからなんで分かるのよ!?」
「分かるよ」
「え…」
「お前単純だからな」
「な…っ!!」

一瞬春奈は動きを止めたが最後に一言付け足すとすぐに怒りだした。
そんな春奈が可笑しくてうししっと木暮が笑うと納得がいかないのか春奈はフン、と頬を少し赤めながらそっぽを向いた。
木暮はそんな春奈が微笑ましく一人知れず頬を緩めた。

「で、何、お前誰かと付き合うの?」
「…付き合わないわよ。告白してきた人皆知らない人ばかりだったし」
「ふーん…」

音無は今のとこフリー、と木暮が心に留めたのは秘密だ。

「じゃあお前にこれやるよ」
「え、って、わっ!!」

木暮はガサゴソとポケットを漁り何かを取り出したかと思うと春奈に投げ渡した。
それは綺麗に畳まれた木暮の制服の帯だった。

「これ…」
「もう使わないしな。漫遊寺だと異性の帯は第2ボタンの意味もあるけど御守りみたいな意味もあるんだよ。だから有り難く貰っとけ」
「え、そうなの?でもなんで…」
「…まぁお前には感謝してなくもないからな」
「…素直じゃないなぁ、木暮くんは」
「うっせ」
「でも…ありがと」
「…おぅ」

でも帯が御守りなんて変わってるねー、とにこやかに笑ってる春奈を横目に木暮は目を反らした。

帯が御守りだなんて、嘘。

帯はあの着物のような制服を着るのに欠かせないもの。
それにあやかって卒業式に限り漫遊寺では帯は告白する時に相手に渡す。

自分にとって貴女はかけがえのない人だという意味を込めて。

そんな意味も知らない相手に渡すなんて卑怯な事かもしれない。
それでも今の関係を壊すのが怖い俺は。

「…一方的に影で告白するとか監督にバレたらどやされそうだなぁ」
「ん?なんか言った?」
「なんでもねーよ。それよりほら、この後打ち上げなんだろ。着替えてこよーぜ」
「あ、うん…って、帯ないのに服どうするの?」
「バーカ。着替える暇がなかっただけでちゃんと着替えは持ってきてるっつーの」
「あ、そうなんだ」
「ほら、行こーぜ」

木暮は立ち上がるとん、と春奈に手を差し出した。

「…うん!!」

春奈は今までよりも少し大きくなった手に少しドキドキしながらも素直に木暮の手をとった。

「音無」
「木暮くん」

「「卒業おめでとう」」―――――――――――
思い出が散りばめられている校舎を後にして
title by 『秋桜』

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