手を繋いで、ゆっくり歩こう(ルーン一家)


*黄名子生存。捏造注意。


「うるさいなぁ余計なお世話だよ!」
「フェイ!私はお前の事を心配して…」
「それが余計なお世話だって言ってるんだ!…っ父さんなんか…」

大っ嫌い!!

「だっ…!?」
「あれ?フェイ何処か行くの?」

フェイが今にも家を飛び出そうとした時だった。
玄関の所で親子が言い合いをしているというのに黄名子は洗い物が終わったのか、手をタオルで拭きながらフェイ達の所へ来るとのほほんと聞いてきた。

「アルノ博士のとこ!!じゃあね!!」

フェイは黄名子に目もくれずにそう返事すると勢いよく扉を閉めた。

「いってらっしゃーい」
「黄名子…何故君はそんな呑気なんだ…」

微笑みながら手を振る黄名子とは対照的にアスレイはガックリと項垂れて膝をついていた。

「行き先ちゃんと言ってったんだから大丈夫やんね。それよりアスレイ、なんでそんなに落ち込んでるやんね?」

黄名子はしゃがみこんでアスレイの目線に合わせた。
項垂れていた為目線が合う事はなかったが。

「フェイが…大嫌い、と…」
「えー?」

意味がわからず黄名子は首を傾げたがアスレイはあまりの大ダメージでそんな余裕はなかった。
アスレイの耳には愛する我が子の『大嫌い』という言葉がエコーしているようだった。
黄名子はそんなアスレイに軽くため息を吐いた。

「まぁ過保護で、真面目で、親バカで、不器用なアスレイの事だから多分フェイを心配するあまり何かフェイを傷つけるような事を言ったんだろうけど…」
「う…っ!!」

黄名子は確信犯なのか何気にキツイ言葉でグサグサとアスレイを攻撃する。

「黄名子…もう少し穏便に…」
「でも…アスレイがそうなっちゃったのはフェイが心配だからなんでしょう?」
黄名子はあからさまにダメージを受けるアスレイが可笑しくて、少し言い過ぎたかな、と思いながらアスレイに笑いかけた。
するとアスレイはぐっ、と息をつめると大きく息を吐いた。

「…フェイは…私にとって唯一の子供で黄名子と同じ位愛しくて、大切な子だ。心配ない訳ないだろう」

アスレイは相変わらず膝をついたままだったが、そう力強く言い切るアスレイの目には強い意思があった。

今度こそ、フェイに寂しい思いをさせない。今度こそ、父親としてずっと守ってみせると。

黄名子はアスレイがフェイへの思いを語ると同時に自分への思いもちゃっかり語ってくれたのが恥ずかしいやら嬉しいやらでこそばゆかったが、不器用なせいか、なかなか本音を話してくれないアスレイがこんなにも自分達を思ってくれている言葉が聞けて嬉しかった。

「じゃ、お詫びも兼ねて、一緒に晩御飯作るやんね!フェイ、きっとお腹空かせて帰ってくるだろうから!」
「…ちゃんとフェイは帰ってくるだろうか」

黄名子が明るくそう言うがよほどフェイの言葉に傷付いたのだろう。
アスレイは不安そうに小さく黄名子に問いかけた。

「当たり前やんね!フェイの帰る場所はここだもん!」
「…あぁ、そうだな」

アスレイは何を当たり前の事を言っているのかというように可笑しそうに笑う黄名子のセリフに漸く安心したのか黄名子の手を借りながら立ち上がった。

「ところで何を作るんだ?」
「フェイとアスレイが好きなオムライス!」


―十数年前

ピンポーン…

昼下がりの午後、菜花家のインターホンが鳴った。

「黄名子ー、お母さん今手が離せないのー。悪いけど出てくれなーい?」
「はーい」

母親にそう言われた黄名子は素直にインターホンに出た。
黄名子は相手が誰かを確かめるべくボタンを押して相手の顔の映像を見た。

「はーい、どちらさま…っ!!」

黄名子は相手の顔を見るなり血相を変えてバタバタと走りながら勢いよく玄関のドアを開けた。

「…っフェイ!!」

そこにはほんの数ヶ月前、人類の命運をかけ、一緒に沢山の時代を旅をした未来で自分が生むであろう、愛しい子供であるフェイの姿があった。
フェイは背中にリュックを背負っていて少しだけ目元が赤かった。
しかし黄名子はもう二度と会えないと思っていた相手に再び会う事が出来た嬉しさで思わずフェイに思い切り抱きついた。

「〜〜っフェイ!!久しぶりやんね!!でも一体どうし――」
「黄名子…悪いけどしばらく家に泊めてくれない?」
「へ?」


「――で、どうしたやんね?」

黄名子の母親には友達だと誤魔化し、二人は黄名子の部屋に入った。
二人は並んでソファに座り黄名子がフェイの顔を覗きこむようにしながら聞いた。

「…父さんと喧嘩した」
「へ?」

しばらくは話してくれなかったが漸くフェイはポツリと言葉を溢した。

「父さんって…アスレイさんと?」
「ん…」
「何があったやんね?」
「………」
「フェイ〜、黙ってちゃわかんないやんね」

何も話さないフェイに黄名子は焦りはしなかったがいささか困った。
しかしフェイも母親には弱いのか苦笑いする黄名子を見ると漸く口を割った。

「…黄名子も知っての通り、僕達はSSCの能力を手放した。確かにそのせいで超能力は使えなくなったし身体能力が少し落ちたけど言うまでもなく、日常生活は普通に送れるし、主に精神に関係している化身やデュプリだって普通に出せる。なのに…」

『じゃあ僕ちょっと出かけてくるね』
『フェイ、ちょっと待ちなさい』
『?なに、父さん』
『…フェイ、お前は今まで通りサッカーをしているな?』
『?うん。化身も使うし人数が足りない時はデュプリも普通に使ってるよ。…サルってばいつでも本気だから化身使わないとホント大変だよ…』
『その事なんだがフェイ…しばらくデュプリを使うのは控えなさい』
『なっ…んでだよ!!』
『フェイ。化身は試合中ずっと出している訳ではないがデュプリは違う。SSCの力を失った今、デュプリを一試合出しているのはお前の身体に負担がかかり過ぎる。もう少し身体が変化に追い付くまでデュプリの使用は控えなさい。』
『僕は平気だよ!!』
『フェイ!…言う事を聞きなさい』
『…マントもストロウも僕の大切な友達だ。なのに会うのを止めるなんて絶対に嫌だ』
『しかし…!!』
『うるさいなぁ余計なお世話だよ!』
『フェイ!私はお前の事を心配して…』
『それが余計なお世話だって言ってるんだ!…っ父さんなんか…』

大っ嫌い!!


「…という訳デス。」
「それでうちの所に家出してきたやんね?…未来の人は家出先が時代を越えるとか凄いやんね…」

黄名子の時代ではまだそこまでタイムジャンプは主流になっていない。
未来との家出のスケールの違いに苦笑いするしかなかった。

「でも、アスレイさんらしいって言えばアスレイさんらしいやんね」
「え?」

黄名子はふふっ、と可笑しそうに笑う様子にフェイは理解出来ないという顔をした。

「アスレイさんはフェイの事が大好きで大好きで、堪らないやんね」
「………」
「うちもきっとアスレイさんと同じ事言うと思う。大切なたった一人の子供やんね。…元気に育って欲しいって思うのが親心ってものやんね」
「それは…」
「…フェイはアスレイさんの事嫌い?」

黄名子が静かに問いかける。

「…今はそんな事ないよ」
「じゃあ好き?」
「それは…」

フェイの返事は煮え切らないものだった。
黄名子はそんなフェイの答えに怒るでもなく穏やかに微笑んだ。
しかしすぐに顔を曇らせた。

「…いくら自分と子供を守るとはいえ、アスレイさんは親としてしちゃいけない事をしたやんね。だから今は別にアスレイさんの事を好きにならなくてもいいやんね。でも、」
「?」
「アスレイさんが自分の全てを投げ出せる位フェイの事を心の底から思っている事も忘れないであげて」
「!」
「フェイも本当は、わかってるんでしょう?」
「…黄名子は凄いなぁ…」

フェイは黄名子の全てわかってると言うかのような口振りに肩をすくめた。

本当はわかっていた。

父さんが僕の事を心配してああ言ったって事も、父さんが僕の事を大切に思っている事も。

「…確かに、僕も言い過ぎたと思うよ」
「そっか。…じゃ、早く帰ってアスレイさんと話してあげるやんね。きっとアスレイさん、フェイの言葉にすっごく落ち込んでるやんね」

しかしクスクスと笑う黄名子とは対照的にフェイの顔は浮かなかった。

「?どうしたやんね、フェイ」
「…父さん、怒ってないかな」

深刻そうな顔で何を言うかと思えば、そんな事か。
フェイの発した言葉に黄名子は一瞬呆けるとすぐに笑い出した。

「ふ…あははっ…!」
「ちょ、黄名子!!僕は真剣に…!」
「あはは…ごめんごめん。じゃあお詫びにフェイに良い事教えてあげるやんね」
「?」

黄名子は笑い過ぎで目尻に浮かんだ涙を拭うとポケットからスマホらしきものを出してフェイに見せた。

「さて、ここにうちがフェイを守る為に時空を移動した時にアスレイさんと連絡を取るために使っていた連絡機器があります。さっきからコールやらバイブ音が鳴りっぱなしです」
「!」
「アスレイさんはホント、心配性やんね。だから大丈夫。」
「黄名子……という事はずっと父さんからの連絡拒否しているの?」

フェイはあっけらかんと話す黄名子に少々呆れて、苦笑いを浮かべる他なかった。

「まだよくわからない未来の夫より、今目の前にいる大好きな我が子!、やんね!」
「黄名子…」
「早くアスレイさん安心させてあげるやんね」
「…うん…」

フェイは漸く腰をあげた。


「ごめんね黄名子。今日は急に押し掛けちゃって」
「ううん!うちもフェイに会えて嬉しかったやんね!」
「うん、僕もだよ。…じゃ、行くね」
「うん!またね、フェイ!」
「…バイバイっ!」


家に帰ると少し不恰好なオムライスと、妙にソワソワしている父さんがいた。
父さんも同じ気持ちだったのかな、と思うと少しだけ嬉しかった。

「「「いただきます」」」

その日のルーン家の晩御飯では家族三人で仲良く食卓を囲む姿が見られた。

(だから言ったでしょう?)

(大丈夫だって)


――――――――――
手を繋いで、ゆっくり歩こう
title by 『秋桜』

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