さよなら(一→秋→円(夏))


「あれ、秋?」
「!、円堂くん」

親善試合が終わり、皆雷門中から去っていった。
この後は打ち上げだそうだ。
私も誘われたけど先に行っててと言っておいた。

最後にどうしてもこの部室を見たかったのだ。

けど驚いた。

てっきり先に行ったと思っていた円堂くんが目の前に現れたのだから。

「秋も部室を見に来たのか?」
「うん。やっぱり最後だからね」
「だよなー」

円堂くんは軽く微笑みながら優しく看板を撫でた。

「…長いようで短い3年間だったけど色んな事があったよな」
「……うん」

――そう、本当に色々な事があった。

3年前なんて雷門中にサッカー部なんかなくて、円堂くんが1人で1から立ち上げた。
弱小チームと言われ、部員も満足に揃わなかったのに今じゃ何十人もいる。

――ちょっと前までは皆ろくに練習しなかったのになぁ…

けれど帝国学園が乗り込んで来て、豪炎寺くんがチームメイトになって、FFに参加して優勝して、けど喜ぶ間もなくエイリア学園が攻めてきて。沢山の仲間が出来たと同時に沢山の人が傷付いた。けれど傷付いていたのは基山くん達もおんなじで。全てが終わると今後はFFIが始まった。強敵ばかりとの試合の連続で、最後は大介さんが率いるチームと対戦した。互いに苦戦したけど私達は世界一になった。

――全てはここから始まったんだ。

「なぁ、秋」
「へ!?な、何?」

物思いに耽っていた所に急に声をかけられて驚いた私は少し声が裏返ったけど円堂くんは気にせず私の好きなあの笑顔を浮かべて言った。

「今まで本当にありがとうな!!秋が居たからサッカー部を立ち上げられたしここまで来れた。本当にありがとう」

そう言うと円堂くんはへへっ、とニカリと歯を見せながら笑った。

――あぁ、今なら言えそうな気がする

本当は言うつもりなんかなかった。
今の関係を壊すのが怖かったし、何より結果が既に見えていたから。
でもやっぱり伝えられないのも悲しいから、

「……円堂くん、」
「ん?」

「好きだよ」

「え……」
「ずっと、円堂くんの事が好きだったの」
「え……えぇ!?」

最初に言った時、円堂くんはよく理解出来なかったのか無意識のうちに言葉を漏らしたようだった。
けど次第に何を言われたのか解ったのか耳まで赤くしながら叫んだ。

――あぁ、やっぱり好きだなぁ。

サッカーに関する事に関しては勘が良いのにそれ以外の事となると途端に鈍くなる所も。

だからこそ、サッカー仲間としてでなくただの『木野秋』を気にかけてくれる時は凄く嬉しかった。

円堂くんの『特別』になれた気がして。

――なんてね。

結果が見えているのなら言わない方が良かったのかもしれない。
でも全てはここから始まった。
だったらせめて終わりもここにしたかった。
思いをちゃんと断ち切る為にも。

円堂くんは暫くうんうん唸った後まだ顔の熱が冷めないまま私の事を真っ直ぐ見た。

「秋の気持ちは嬉しいよ。けど俺……好きな奴がいるんだ」

あぁ、やっぱりね。

わかっていたけどやっぱり直接円堂くんの口から聞くと結構くる。
泣かないと決めていたのに私の目から涙が零れた。

「あ…」
「ご、ごめんね泣いちゃって!!」

円堂くんが辛そうな顔をしたので慌てて涙を拭った。
円堂くんにそんな顔をさせたくて言った訳じゃないから。
私は涙を拭い終わるとにっこり笑って見せた。

「円堂くんの好きな人、夏未さんでしょう?」
「え、…えぇぇぇ!?!?な、なんで……」
「内緒」

図星だったらしく、そう私が言った途端円堂くんの少し冷めていた顔の熱がまた戻った。
私はそんな円堂くんの様子が可笑しくて少し笑ってしまった。

――わかるよ、だってずっと見てきたんだから。

ずっと、円堂くんを見てきた。だからこそ気付いた。気付いて、しまった。

円堂くんの目線の先にはいつの間にかいつも夏未さんがいる事に。

円堂くんは未だになんでバレたんだろう、俺って分かりやすいのかなー、と1人ぶつぶつ言っていた。

「……円堂くん、」
「ん?」
「円堂くんは夏未さんのどんな所が好きなの?」
「えぇぇぇ!?」

そう聞いた途端円堂くんがだらだらと冷や汗をかきはじめた。

「…それ、言わなきゃダメ?」
「ダメ。フラれたんだもの。その位聞かせてもらってもいいでしょう?」

そう言うと円堂くんはう、とたじろいだ。
暫く躊躇っていたけど円堂くんは照れ臭そうに頬を掻くと口を開いた。

「…一度決めたら絶対に信念を貫くとこ。意地張ってる癖に見えない所でこっそり頑張ってるとこ。本当は泣き虫なのにいつも凛としているとこ。それから…っあーっもう!!改めて言われるとよくわかんねー!!」

円堂くんは一杯一杯だったのか顔をこれでもかってくらい顔を赤くすると髪をぐしゃぐしゃっと掻きむしった。
少し酷な質問だったかな、と思ってると円堂くんはまた口を開いた。

「…やっぱり、あいつのどこが好きとかよく分からない…って言うか言葉じゃ言い表せない。…けど、あいつじゃなきゃ、夏未じゃなきゃダメなんだ」

――うん、そうだよね。

理由なんかなくて、それでも君じゃなきゃダメで。
だからこれを恋と呼ぶのだろう。

そう言う円堂くんの目は私の好きな、試合前にするあの真剣な目に似ていた。

そんなにまで想われている夏未さんが羨ましいと思ったのは秘密で。

「――円堂くん」
「ん?」
「また…こうやって皆でサッカーする時は私も呼んでくれる?」
「――っ当たり前だろ!!秋だって大事な仲間なんだから!!」

――仲間、かぁ。

でもそれだけでも十分だよ。

「私っ!!いつか円堂くんがびっくりする位素敵な女性になるからね!!夏未さんに負けない位!!」
「あ…っ!!」
「それじゃ私先行くね!!また後で!!」

私はそう宣言した後軽く手を振ると校門へと走った。

「――もう、十分だよ」

ありがとう、秋。

円堂くんが最後に何か言ったけど私の耳には届かなかった。


「あーあ、終わっちゃったなぁ……」

中学校生活も、私の恋も。

やっぱりちょっと、淋しいな。

今時珍しく、卒業式の日に桜が満開だった。
ヒラヒラと舞う花びらを見ながら私はポツリと溢した。

「秋、」
「!、一之瀬くん」

すると急に声をかけられた。
顔を上げると何故かつらそうな顔をした一之瀬くんがいた。

「なんで一之瀬くんが…先に皆と一緒に行ったんじゃ…」
「秋、」
「!」

小走りで駆け寄りながら聞くと言葉を遮られた。

「秋は…秋は円堂に…」

やだなぁ、なんでわかるんだろ。

「うん…告白したよ…フラれちゃったけど」
「!…そう…」
「でもね、後悔はしてないよ。円堂くんが夏未を好きなのは知っていたけど言わないままの方が絶対後悔すると思ったから。だから全然…」

心配かけない様に笑いながら話している途中でグイッと急に腕を引っ張られた。

私はそのまま一之瀬くんに抱きしめられた。

「一之瀬…く…」
「我慢しなくていい」
「え…」
「辛いなら、悲しいなら、俺が全部受け止めるから。だから秋――」

そんな泣きそうになりながら笑わないで。

それは暗に泣いてもいいと言っているのだろうか。

「ズルいなぁ一之瀬くんは。」
「あ…」

私は一之瀬くんの胸に顔をうずめると一之瀬くんの服をきゅ、と握った。

「!」
「ごめん、ちょっとだけ…」
「…いいよ。秋の気が済むまでずっとこうしてる。だから、」

我慢しないで。

「……う、……っわぁぁぁ……っ」

ずっとずっと好きだったの。
太陽みたいに周りを照らすあなたの事が。
どんな時でも決して諦めないあなたの事が。

本当に、大好きだったの。

さよなら、円堂くん。
さよなら、私の恋心。

――いつか、この痛みを愛しく思える日が来ますように。

(あなたの事が大好きでした)

一之瀬くんは私が泣き止むまでただずっと抱きしめてくれた。


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