夏由紀


「さっ……み〜」
「大丈夫?」

瞳子から買い出しを頼まれた為二人は寒い中スーパーへと歩いていた。

「由紀さんはよくそんな格好で平気だね」
「夏彦くんが着込み過ぎなんだよ…」

由紀はマフラーに薄めのオーバーだけ。
対する夏彦は厚めのジャケットの下には何枚もの服を着込み、マフラーをぐるぐるに巻いているにも関わらず鼻先は真っ赤だった。

「俺なんかマシな方だって。晴矢さんなんか中にいて俺以上に着込んでるのにそれでも寒いって言って炬燵から出ねーんだから」
「それを言うなら風介様なんてこの時期でさえ外へ出る時は長袖一枚だよ」
「…極端な人達だよな」
「…うん」

会話が途切れると冷たい風が肌に突き刺さる。

「はぁ…早く春になんねーかな…」
「そうだね…でも私は冬も好きだよ」
「なんで」
「だって寒いと理由が無くても好きな人と手繋げるでしょ?」
「…俺と手繋ぐのに理由なんかいるの」
「え」
「え」

由紀がえへ、と照れ臭そうに笑うと夏彦は無意識のうちに口を滑らせていた。
慌てて口を覆うが一度口から出た言葉は消せないもので。
寒さ以外の理由で二人の顔が真っ赤になった。

「い、今の忘れて…」
「む、無理…」

気まずくなって二人共目を反らすが再び目を合わすと夏彦が躊躇いがちに言った。

「さ、寒いし早く行こーぜ」
「う、うん」

夏彦は早口にそう言うと由紀の手を掴み、自分のポケットの中に入れた。
一瞬驚いた由紀だったか嬉しそうに笑うときゅ、と握り返した。

スーパーはまだまだ先だ。

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