タイムジャンプ(綱塔・前編)


「ねぇ母ちゃん」
「ん?」
「これ何?随分汚れるけど…」

ここ、沖縄では家族3人が仲睦まじく暮らしていた。
しかし両親の大雑把な性格が災いにしてか、色々と家には物が散乱している。
そこでたまには大掃除をしようという事で押し入れの中を整理している所だった。

「あーっ!!こんなとこにあったのか〜、懐かしいなぁ〜」
子供が差し出したものを手に取ると彼女は顔を輝かせた。
「母ちゃんってば!!なんなんだよそれ!!」
「ん?あぁごめんごめん。これはな、ミサンガっていうんだ」
急かす子供に目線を合わせると懐かしむように話し始めた。
「ミサンガ?」
「そ。20年くらい前に父ちゃんがくれたんだ」
「へー、父ちゃんって器用なんだね。…で、母ちゃんはせっかく父ちゃんからもらった物無くしてたの?」
「う…まぁ見つかったんだからいいじゃん!!海の大きさに比べたらちっぽけな事ってね!!」
「母ちゃん。」
「う…」
彼女の言い訳に子供は呆れたようだった。
これじゃどっちが親かわかったもんじゃない。
子供はミサンガにまた目を移すとまじまじと見つめた。
(これがミサンガ…)
「欲しいのか?」
「えっ!?」
「いや随分と真剣に見てたからさ」
「え、でもこれは母ちゃんと父ちゃんの思い出の品じゃ…」

欲しい事は欲しい。
確かに少し古いけどデザインが好みで見た瞬間ビビっときて…
所謂一目惚れだったのだ。
だからといって両親の大切な物を簡単にもらう事は出来ない。

「海にならいいよ。あたしはもう願い事なんてないくらい幸せだしさ。大好きな人と、その人との子供と一緒に居られるんだ。これ以上の幸せなんかないよ」
彼女は子供と自分の額をくっつけ、にひっと笑った。
「でも…」
「いーからいーから。ほら、手ぇ出して」
そう言って彼女は半ば強引に子供の手を引っ張るとミサンガを着けた。
「よし、おっけ。」
「…っありがとう母ちゃん!!」
「うん!!あ、あたしとりあえずこのゴミ捨ててくるからしばらくよろしくね」
「わかった!!」
彼女はゴミ袋を持つと部屋を出てった。
彼女がいなくなると子供はまたミサンガを見てへへっと笑った。
「さて…と、母ちゃんがいなくてもちゃんと整理はしなくちゃな。」
子供は気持ちを入れ替えると再び押し入れの中を物色し始めた。

しばらくすると奥の方に埃かぶった分厚い冊子を見つけた。
「これ…アルバム?」
開いて見るとそこには両親以外にも見知った顔が並んでいた。
日付を見ると二人共中学生、しかもちょうどFFIの真っ最中のようだ。
「うわ…父ちゃんも母ちゃんもちっちゃい…」
子供は夢中になってページを捲った。

「あれ…このページ隣に張り付いてる…」
接着剤でもついてるのか、あるページだけ思う様に捲れなかった。
それでも見れないという物程見たいというのが人情というもの。
好奇心も手伝って思い切りビリリとやるとページを剥がす事が出来た。
「やっと開けた…って、うわ!?」
開けたのはいいがそのページを見た途端辺りが眩い光に包まれた。

「おーい海ー、ゴミ袋破けちゃってさー、悪いけど一枚取ってくれな……海?」
彼女が苦笑いしながら子供の下へ行くとそこには子供の姿はなかった。
あるのは強引に開かれたアルバムだけだった。


子供が目を開けるとそこは沖縄ではない、どこかの浜辺だった。
「あ…れ?ここどこ…」
「危ない!!」
辺りをキョロキョロと見回していると後ろの方から声がした。
振り返ると目の前にはボールが迫っていた。
「う…わっ!!」
驚きはしたものの、両親譲りの持ち前の運動神経で難なくボールを蹴り返した。
「おっ…と…ナイスキック!!」
「ナイスじゃないだろ!!…大丈夫か?」
「あ、は…い?」
とっさの為コントロールが若干狂ってしまったがバンダナを着けた少年がボールをキャッチした。
しかしその少年を見た途端子供は自分の目を疑った。
「どうかしたのか?」
「え…いや、だってあなた…」
「おーい、わりぃわりぃ、大丈夫か?」
子供が戸惑っていると更に聞き覚えのある声がした。
「綱海…もう少しで子供に当たる所だったんだぞ。ちゃんと謝れ。」
「げっ、マジで?ボウズ悪かったな、ビックリしただろ?」
「あたしも悪かったよ。足下狂っちゃってさ…」
「塔子…」
どうやらこの二人が原因らしい。
話を聞くと塔子の足下が狂い、変な所にいったボールを綱海が無理やり蹴り返した所こっちまで飛んできてしまったようだ。
「ホントごめんな。大丈夫だったか?」
塔子が子供の目線に合わせて少ししゃがみながら再度謝った。
しかし子供にとってはそれどころじゃなかった。

「……母…ちゃん?」

「…え?」
「父…ちゃん?」
「は?」
子供は塔子と綱海を順番に指差しながら言った。
「それに円堂さんに…鬼道さん?なんでこんなちっちゃ…てゆうか…え…」
「母ちゃん?」
「父ちゃん?」
綱海と塔子がお互いに向かい合って指差しあった。
そして再度子供の顔を見た。

「「はぁぁぁ!?」」

浜辺には二人の大きな驚愕の声が響き渡った。

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