幸せ(晴杏)


「「ただいまー」」
「あれ、晴矢さんと杏さんじゃないですか、どうしたんですか?」
晴矢と杏が久々にお日さま園を訪ねるとマサキが玄関から顔をひょっこり出した。
「お、マサキ久しぶりー。また大きくなった?」
「ちょ、止めて下さいって」
杏が出会い頭笑いながらわしゃわしゃとマサキの頭を撫で回すとマサキは困った様に杏の手を掴んだ。
「その辺にしとけよ杏。それよりマサキ、瞳子さんいる?」
晴矢は手土産のお菓子が入った袋をマサキに押し付けると靴を脱ぎながら聞いた。
「あ、瞳子さんなら…」
「瞳子さんなら今出掛けてるよ」
「マジかよ、ちゃんと来ること言っといたのに……って、え?」
頭を上げるとそこには見慣れた顔があった。
「や。晴矢、杏久しぶり」
「…………なんでここに茂人が居やがる」
訝しげに眉をひそめる晴矢に対して茂人がのほほんと呑気に笑っていた。
「俺だけじゃないよ?」
「は…」
「あー!!杏ちゃん晴くん久しぶりー!!」
「へ、あ、華!?」
茂人が言った途端リビングのドアが勢いよく開いたかと思うと誰かが杏に抱きついてきた。
それは昔のチームメイトでもある華だった。
「晴矢さんお久しぶりです!!」
「意外と遅かったわね、道混んでたの?」
そうしている間にもわらわらと元プロミネンスの皆が玄関に集まってきた。
「いやいやだからなんで今日に限ってお前らがここに集まってんだよ!!」
晴矢はそう怒鳴るが皆はへ?、といかにも不思議そうな顔をした。
「えー?だって茂くんが今日面白いものが見れるから暇だったらおいでってー。晴くん達もそうじゃないの?」
「オイコラ茂人てめぇどーゆーつもりだ」
皆を代表して杏に抱きつきながら答える華の言葉を聞いた晴矢は茂人に掴みかかった。
「だって二人には皆色々苦労させられたんだよ?少しぐらい見返り求めたっていいじゃないか?」
「俺はそんなつもりでお前に今日の事話したんじゃねぇよ!!」
晴矢はそう怒鳴るが茂人は少しも気にせずにヤレヤレという風に肩をすくめるだけだった。
するとガチャッとドアが開いた。
「ちょっとうるさいわよ。玄関で何騒いで…って、あら。」
「…どうも」
「お姉ちゃん!!」
玄関を開けたのは瞳子だった。
瞳子の姿を見ると晴矢は少し照れ臭そうに会釈し、杏はパァッと顔を輝かせた。
瞳子も晴矢と杏の顔を見ると頬を緩ませた。
「お帰りなさい。晴矢、杏」「今日は確か何か大事な話があるんだったわね?」
瞳子がコポコポと紅茶を注ぎながら聞いた。
「そうだけどよ……ここじゃちょっと」
後ろでは園の子供達が騒いでいる。
ドタドタと走り回っている子もいればオモチャの取り合いをしている子もいる。
相変わらずお日さま園は騒がしい所だった。
さすがにこんな所では話せることも話せない。
「晴矢の意気地なし!!」
「うるせーよ!!こんな所で言えるか!!」
唯一事情を知っている茂人がそう茶化すが晴矢は耳まで真っ赤にして怒鳴るだけだった。
そんな様子に瞳子はクスリと笑うと言った。
「じゃ、私の部屋に行きましょうか」


瞳子の自室に案内されたのはいいが瞳子の部屋に入ったのは久々だし和室だしで落ち着かないのとこれから話す話題も話題なので二人は緊張しまくりだった。
「そんなに固くならないで。それで?大事な話って何かしら」
瞳子がお茶をすすりながら聞いた。
「えー…と、その、さ、」
暫くもごもごと口を動かしていたが意を決したのか一回深呼吸するとキッ!!、と瞳子を見て晴矢は言った。
「瞳子さん!!」
「何?」
「俺――、」

ガタッ

「「「・・・・」」」
まさに晴矢がいいかけた途端、ドアの向こうで何かが音をたてた。
晴矢は黙って立ち上がるとドアの方へ行き、ガラッとドアを開けると聞き耳をたてていたのか冷や汗を垂らしている元プロミネンスの皆がいた。
「……お前らそこで何してやがる」
晴矢が頬をひきつらせながら静かに聞いた。
「えー…と、なんだろね?」
「あっち行きやがれ!!」
茂人がえへっ、とかわいこぶるが晴矢が吠えるとキャー、と言って皆散っていった。
「ったく…」
「皆ってば…」
茂人達のおかげで二人共緊張がとれたのかさっきの顔の硬さはなくたっていた。
晴矢がどかっ、と再び座ると瞳子は少し笑って先を促した。
「それで?何だったかしら?」
晴矢も今度は落ち着いて話し始めた。
「あの、よ、ホントはこーゆーのは親に言うんだろうけど俺達にはもういねーし、かといって言わねーのもなんかヤだし。こーゆーのは形式も大事だと思うからさ。…瞳子さんにとって俺達は妹や弟みてーなもんだろ?だから、」
晴矢はそこで言葉を切ると姿勢を正して頭を下げた。

「妹さんを、杏さんを俺に下さい。一生、大事にしますから。」

「晴矢…」
杏は隣で頬を染めている。
瞳子は晴矢の言動に驚いたのか目を一瞬見張ったがすぐにフッと笑うと目を伏せながら穏やかに言った。
「二人の間に隠し事はしない事。」
「「は?」」
「仲がいいのはいいけれど喧嘩もほどほどにする事。杏はもう少し料理を上達させて、晴矢はその短気癖を少しは直しなさい。それから―」
「ちょ、ちょ、瞳子さん?」
急に二人に対して色々説教じみた事を言い重ねる瞳子の意図が分からず晴矢達は戸惑いを隠せなかった。
瞳子は晴矢の制止する言葉も聞かずにつらつらと言葉を連ねるが一旦言葉を切ると晴矢を真っ直ぐに見つめて言った。

「晴矢は杏を世界一幸せな女性にする事。いいわね?」

そう言う瞳子にはかつて雷門イレブンを率いた時の威厳さもありながら我が子を見るような優しさが満ちていた。
「お姉ちゃん…」
杏は感動したのか目を潤ませていた。
しかし対する晴矢はというと、
「ハッ……世界一?」
グイッと杏の肩を抱き寄せると勝ち気な目をしながら言った。

「宇宙一、の間違いだろ?」

そう言う晴矢には揺るぎない自信て溢れていた。
杏は普段照れ屋で肝心な事はあまり口にしない晴矢が強く言いきったことにより一瞬で茹でたこのようになってしまった。
瞳子は一瞬虚を突かれたようだったがすぐにプッと吹き出した。
「そうだったわね」
だがすぐに真面目な顔になった。
晴矢と杏も背筋を伸ばした。
「晴矢。」
「はい。」
「大事な妹よ。…大事にしてね」
「…当たり前だろ。」
「「「おめでとー!!」」」
晴矢がそう言った途端ドアがバンッ!!と開いて人がなだれこんできた。
「なっ……お前ら性懲りもなく聞いてたのかよ!?」
「甘いよ晴矢。こんな面白……いやめでたいこと聞き逃す訳ないじゃないか」
「オイ今面白いっつったぞ」
「杏ちゃんおめでとー!!」
「宇宙一ですって。随分晴矢も大きく出たわよね〜」
「お、俺の晴矢さんが…」
「いやいやお前のじゃねぇよ」
ドヤ顔している人もいれば泣き顔の人もいる。
さっきまでの厳かな雰囲気はどこへやら、あっという間にいつもの雰囲気になっている。
「ホント…皆相変わらずね…」
式は6ヶ月後。
これから忙しくなりそうだ。


―6ヶ月後―
誓いのキスも終わり、二人は腕を組んで多くの人に祝福されながら教会から出てくる所だった。
茂人は急遽バージンロードでの杏の父親役の代理を頼まれて疲労困憊していたためそれを少し離れた所で見ていた。すると、
「しーげとっ」
「わっ、」
いつの間にか横に穂香がきていた。
「なんだ、ほのか、ビックリした〜。どうしたの?」
「なんだとはなによなんだとは。……ね、茂人って杏の事好きだったんじゃないの?」
穂香が上目遣いで何か探る様にして聞いた。
茂人は一瞬動きを止めたがすぐに困った様に笑った。
「え、え〜?ほの何言ってんのさ」
「あら、しらばっくれる気?私の目は誤魔化せないわよ」
穂香はふふん、と笑いながら得意気に言った。
どうやらこの話題から逃げる事は出来ないようである。
「それ、よく言われるけどそんなにそう見える?」
「見えるわよ」
穂香は速答した。
茂人はんー、と困った様に空を仰いだ。
「確かに杏の事は好きだけどそーゆー好きじゃないよ」
「アラ、ホントに?」
穂香はまだ疑いの目を向けている。
「ホントだって。それに…」
茂人は遠くで照れ笑いを浮かべている晴矢と杏の顔を見ると言った。
「例え俺がそーゆー意味で好きだったとしても俺は晴矢の隣で笑っている杏が好きだから奪おうだなんて考えられないよ」
そう言う茂人の顔は穏やかなものだった。
ボソッ「やっぱり好きだったんじゃない」
「ん?何か言った?」
「なーんにも。ただ茂人は苦労性だなーって思っただけよ」
「酷いなぁ、それ」
茂人が苦笑いしていると女性軍がわらわらと前の方に集まっているのが見えた。
「あ、ブーケトスやるみたいだよ。ほの、行かなくていいの?」
「なんですって!?勿論行くに決まってるでしょ!!」
そう言うと穂香は慌てて前の方へ行った。
あの長いドレスでよく走れるものだ。
茂人は半ば感心しながら手を振って見送った。

「杏。」
「わかってるわよ。行くわよーっ!!」
晴矢が杏に何か言うと杏はにやりと笑った。
杏が投げたブーケは計算されたかの様に由紀の下に落ちていった。
が、あと少し所でどこから飛び出したのかヒロトが空中でキャッチした。
「取ったどー!!」
「はぁ!?」
空気が一瞬にして凍った。
ヒロト以外の皆は唖然としている。
その中でも一番先に正気に戻ったのは晴矢だった。
「ちょ、ざけんなヒロト!!せっかく栗尾根に渡して夏彦との仲発展させようとしたのに!!」
「そ、そうよヒロトの馬鹿!!あの二人シャイだからこうでもしなきゃ先に進めないでしょ!!」
「え?え?」
どうやら晴矢と杏は予めブーケは由紀に渡すつもりだったようである。
いきなり話しを振られた由紀は戸惑っているし、夏彦も顔を赤くしている。
しかしヒロトはキラキラと顔を輝かせると玲名に詰め寄った。
「知らない知らない取ったの俺だもん!!さぁ玲名!!今すぐにでも俺と結婚…」
「するか馬鹿者」
「グハッ!!」
ヒロトが言い終わらないうちに玲名の華麗な回し蹴りが決まった。
あれで付き合っているというのだから不思議である。
いくら結婚式という神聖なものでも結局はこうなってしまうんだなぁと茂人は苦笑いしていた。
茂人はギャーギャーとヒロトに文句を言っている晴矢と杏を見ると小さく呟いた。

「晴矢、杏、お幸せに。」


(二人が離れてしまう気がして少し寂しいけれど)

(僕は君らの幸せをずっと祈ってる)

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