ドレスアップ(綱塔)


ある日の練習中。
「皆さーん!休憩ですよー」
「ドリンクも持ってきました」
マネージャー達が選手達に声をかけた。
「やっと休憩か〜」
「皆さん確実にだんだん上手くなってきてますよね!!」
わいわいと皆が騒いでいる時だった。

ブブブ…
誰かの携帯のバイブ音が鳴った。
「ん?誰の携帯だ?」
「あ、ごめんあたしだ。…はい、もしもし…あ、パパ?どーしたの?…うん、…うん、…えっ!?…ちょっウソでしょ!?しかも今日!?…も〜わかったよ…うん…うん…じゃ後でね。うん、バイバイ…」
塔子は電話で何やら一人で大騒ぎをし、切った後長いため息を吐いた。
「どーしたんだ塔子?」
皆の疑問を代表して円堂が聞いた。
「あーうん、なんかパパの公務に今日急について行くことになって…」
少し困惑した顔で塔子が答えた。
「別に普通じゃないのか?前だって親父さんの仕事について行ってたんだろ?」
鬼道がそういうと塔子がキャラバンに参加する前にしてた仕事を知っている人達はそうだそうだという顔で頷いていた。
「あー、うん。SPとしてならね。でも今回は総理の娘としてでなきゃなんだって」
「それが嫌なのか?」
「まぁそれもいやっちゃいやなんだけど…」
「?」
塔子達が話していると急に見覚えのある黒いスーツを着た人達が塔子の背後に現れた。
「お嬢様」
「げっ、スミス」
「あちらでは着替える時間がありませんのですぐにお着替えを」
「わかったから引っ張んなって!!」
「掴んでおかないとお嬢様お逃げになるでしょう?毎回この手の仕事ではいつも逃げてばっかり…」
「ちょ、監督にまだ許可取ってないって!!」
「着替えるの方が先です」
そのままスミスは塔子をずるずると引きずってどこかへ消えていった。
「まるで嵐が去ったかのようだな」
鬼道がポツリと呟いた。

「なぁなぁ円堂。塔子って総理の娘なのか?」
「ん?そうだよ。知らなかったのか?」
塔子より後にキャラバンに参加した綱海達はそろって頷いた。
「しっかしあの塔子が実はお嬢様だったとはな〜人は見かけによらないな〜」
木暮の一言に皆が頷いた。
「男子と一緒に寝ようとするし」
「俺らが着替えてるとこにヘーキで入ってきたこともあったよな。普通照れたりするもんだろ」
「あいつお嬢様どころか自分が女だっていう自覚ないんじゃないのか?」
「「「ないだろ」」」
誰かが言った言葉に皆一斉に答えた。

皆が塔子について色々言っている間にいつの間にか休憩は終わったらしく、さっきまで姿が見えなかった監督が来て皆に声をかけた。
「皆何してるの。もう休憩は終わったわよ」
「「「は、はい!!」」」
「よーし!!練習始めるぞ!!」
「「「おー!!」」」
こうして練習が再開した。
「音無さん、財前さんの姿が見えないけど彼女どうしたの?」
「あ、塔子さんなら「監督〜」
春奈が答えようとした時茂みの方から塔子の声が小さく聞こえてきた。
「あ、塔子さん!戻ってきたんですね!」
「うん、まぁね…で、監督、実はパパの仕事について行くことになって…今日の練習休んでもいいですか?」
「そういうことなら仕方ないわね。わかったわ。でも何故隠れてるの?」
「そーですよ!!出てきてくださいよ!!ほらっ!!」
「えっちょ、待て春奈!!」
春奈は茂みに隠れている塔子の腕をぐいっと引っ張った。
「と、塔子さん、かっわいー!!」
「うぅ…」
大きな声で感嘆をあげる春奈とは対照的に少しむくれた顔の塔子が茂みから出てきた。
塔子はおそらく仕事のためなのだろう。塔子のトレードマークである帽子は外している。さらに男勝りの塔子にしては珍しく淡い桃色のワンピースを着ている。肩にはそれに合わせた少し濃いめの色のショールをかけている。足元も少し高めのヒールを履き、薄くメイクもしているようで何時もの塔子とは別人のようだった。
春奈の声に驚いて練習している円堂達も手を止めてしまっている。
「な、なんだ!?どうしたんだ!?」
いち早く硬直からとけた綱海が春奈に尋ねた。
「見てくださいよ綱海さん!!塔子さんめちゃくちゃ可愛くないですか!?」
「ちょ、春奈!?」
そう言いながら春奈は塔子を綱海の前に押し出した。
「……」
「な、なんだよ。どーせ似合わないとか思ってるんだろ!!…だからこの手の仕事は嫌なんだよ!!せっかく皆に見つからないようにこっそり行くつもりだったのに…って綱海?」
塔子が話している間もずっと動かない綱海を不審に思った塔子は綱海の頬を軽くペチペチと叩いた。
「おーい、綱海ー?」
「へっ!?あ、いやあのお前塔子…だよな?」
「そーだよっ。どーせ似合いませんよーだ!!」
べーと塔子がヤケクソ気味で言い放った。
「いやそうじゃなくてお前いつもとなんかすげー違「あれ!?お前塔子か!?めちゃくちゃ別人じゃねーか!!」
円堂が綱海の言葉を遮って言った。
それにつられて他の皆も塔子達のそばに寄って来て各々が塔子の格好について述べた。
「お前、本当にお嬢様だったんだな…」
「随分雰囲気が変わるもんだな」
「塔子さん綺麗です!!」
皆が色々言うにつれてだんだん塔子の顔は赤くなっていった。
「う〜皆にこの格好を見せたくなかったからコソコソしてたのに…」
「その格好をするのが嫌だったのか?」
「だって恥ずかしいじゃん!!」
「えーやんえーやん!!似合ってるで!!なぁ?せやろ綱海!!」
円堂に言葉を遮られた時のまま硬直していた綱海は急にリカに話かけられてびっくりした様子だった。
「へっ!?いやそのえっと…に、似合ってるぜ。か、可愛いーんじゃねーか?」
綱海は赤くなりながら指でポリポリと頬をかき、あさってを向きながらしどろもどろに答えた。
「うぇ!?あ、ありがと…」
綱海にそう言われた塔子はさっき以上に顔を赤くしながら綱海と同じようにしどろもどろに答えた。
(な、なんだ!?なんでこんなに顔が熱くなってるんだ!?他の奴にも言われたのになんで綱海の時だけこんなんになるんだ!?)
(何なん何なん!?この二人めっちゃえー感じやん!?)
沸騰でもしそうな程赤くなっている二人を見ながらリカはほくそ笑んでいた。
するとまた急に背後に人が現れた。
「お嬢様お時間です」
「あ、うんわかった。んじゃな。…綱海!!…その、えっと、ありがとな!!」
塔子ははにかみながら綱海にお礼を言って校門の方へと駆けていった。
「おぅ…」
綱海は少し冷めていた熱がまた上がっていくのを感じた。

「綱海〜」
「わっ!!なんだよ!!」
綱海の背後からリカが声をかけた。
「塔子可愛いかったな〜はよせんと誰かにとられてしまうで〜」
「んなっ!?なんのことだよ!?」
「またまた惚けて〜」
「〜っほっとけ!!」
新たなリカのからかいに綱海の熱は暫く冷めることはなかった。


一方塔子はと言うと
(なんで綱海の言葉ばっか頭に残ってんだ!?あたし何か病気なのか!?)
自分の気持ちに気付くのはまだまだ先のようである。

- 76 -
[prev] | [next]


back
TOP

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -