見合い(木春・10年後)


―午後8時頃、木枯らし荘にて―

トントン…
「はーい、どちら様…」
ガチャ
「こっぐれく〜ん!!宅飲みしーましょっ!!」
「…お断りします」
バタンッ
「ちょっと!!」

ドアを開けると缶ビールを何本かビニール袋にいれて持っている春奈がにこにこと満面の笑みを浮かべながら立っていた。
木暮はそんな春奈を見ると眉をしかめてドアをすぐさま閉めた。

「いきなりドア閉めるって何!?ひどくない!?」
「うっせー!!お前がわざわざ酒持ってくるなんてぜってーなんか企んでるだろ!!」
「失礼ね!!ちょっと愚痴に付き合ってもらおうとしただけじゃない!!」
「お前酒癖悪いから嫌だ!!俺は疲れてんだよ!!てか秋さんに付き合ってもらえばいーだろ!!」
「秋さんにそんな迷惑かけられる訳ないでしょ!!」
「俺はいいのかよ!?」
「私と木暮くんの仲じゃない!!いーかげんにしないと兄さんに言いつけるわよ!!」
「どんな仲だよ!?てかお前それ汚ねぇ!!つーかそれ以前にこの場合被害者俺!!」

そんな子供の様な言い争いをドアを隔てて春奈はドアを開けようと、木暮はドアを閉めようとお互いに目一杯押し合いながら暫く続けていた。
しかし如何せん、ここはアパート。意外と壁は薄い。最終的に隣人からうるさい!!、という苦情を頂き木暮は仕方なく春奈を部屋にあげたのだった。

「えへへ〜」
「たくっ…で?あそこまでして言おうとしてた愚痴ってなんだよ?」
「え?あー…あはは〜まぁいいじゃない。とりあえず飲みましょ飲みましょ」
「怒るぞ」
入れてしまったのならば仕方ない、とりあえず春奈の愚痴を聞こうとした木暮だったが肝心の春奈は誤魔化してしまい木暮に缶ビールを渡した。
若干苛ついた木暮だったが仕事帰りで疲れていた為誘惑には勝てずビールに手を出した。

「ん〜っ!!やっぱ仕事した後にはこれよね〜」
春奈がぐ〜っと一気に飲んでそう言ったのを木暮は若干冷めた目で見ていた。
「…なんかお前オッサン臭いぞ」
「失礼ね!!」
「うししっ!!…つーかいーかげんお前の用済ませろよ。んで悪酔いする前に帰れ」
「人がせっかく買ってきたのにその言い種はなによ!!…それに、たまにはいーじゃない。こーやって宅飲みするのも」
さっきまでの勢いはどこへやら、春奈はもう既に軽く酔っているのか仄かに頬を赤く染め、少し微笑みながら言った。
そんな春奈の様子に面食らいながらも木暮はまたビールに口をつけた。
「お前の酒癖が悪くなかったらまだいーんだよ、ったく…」
「えへへ〜」


―10分後―
「ほ…っんとに!!何なのよあのオヤジ!!」
「はいはい。わかったからいーかげんその辺で止めとけ」
愚痴があったのは本当だったらしく、最初の方はテンションがいつもより高めだっただけだったが、だんだんとペースをあげていき、たった10分でべろんべろんに酔ってしまい校長などに対しての愚痴をつらつらと述べていた。
「な〜にが革命などと馬鹿な事をやってないでいい加減身を固めたらどうですか、よ!!余計なお世話だっての!!木暮くんもそー思うでしょ!?」
「あーはいはい、ソーデスネ」
「真面目に聞いてよね!!もうっ…そりゃ私だって夏未さんみたいに結婚したいとは考えてるのよ?けど肝心の相手が…ねぇ木暮くん!!私のどこが駄目なんだと思う!?」
「どこって言うか…」
ドンッ!!とビールを机に叩きつけて春奈は睨みつけるが木暮は言葉を濁した。
正直、春奈はモテる。が、春奈の後ろにはあの鬼道がいるのだ。鬼道を敵に回してまで春奈に近付こうとする輩はいない。というか近付けない。それでも…

(好きになっちまったもんは仕方ないよなー)

正直俺も鬼道さんは怖い。怖すぎる。が、それでもこれだけは譲れないのだ。
最も行動には移せていないし、それどころか自分に好きなヤツがいるという事を誰にもバラしてない。
だからあんな面倒事を押し付けられてしまったのかもしれないが…

「ん?何これ?」
木暮が物思いに耽っていると春奈が床に無造作に放ってられている薄い白い冊子を見つけた。
「げっ!!ちょ、待て、それは…っ」
木暮の制止する声も聞かずに春奈はその表紙をめくった。
中身を見た途端、春奈は目を大きく開いた。

そこには綺麗な女の人が着物を着ている写真が貼ってあった。

「これって…」
所謂お見合い写真というヤツだった。
木暮はしまった…っ、という表情で右手を額に当てた。
春奈には気づかれたくなかったのだ。

「木暮くん…お見合い、するの?」
春奈の声は若干震えていたが木暮はそれどころではなかった。
「…別に見合いって訳じゃねーよ。ただ今の世の中いい意味でも悪い意味でもサッカーって注目されてるだろ?俺が今の会社に入れたのも俺が元イナズマジャパンの選手だったっつーのも結構大きいんだよ。んで会社の上司に結構気に入られてて今いい人誰も居ないなら娘と会ってみないかって言われて…って音無!?」

バツが悪そうに木暮はそう言うとなんと春奈は目から大粒の涙を流した。

「な、なんでお前が泣いてるんだよ!?」
春奈の泣き顔を見たことがなかった木暮はオロオロと狼狽えてしまった。
「あ、あれ?な、なんで私泣いて…ご、ごめんね!!困らせちゃって…というかこれからお見合いしようとしている人の部屋に一人で来ちゃ駄目よね!!ホントにごめん!!私帰るね!!」
「え…って、ちょ、待てよ!!」
無意識だった様で自分でも泣いている事に驚きながらもいきなり立ち上がって部屋から出ようとする春奈に一瞬呆気にとられたがすぐに木暮も立ち上がって春奈の腕を掴んだ。
「は、離してよぉ…なんだかわかんないけど今木暮くんと話したくないのぉ…」
相変わらず春奈は泣いていた。
「それって…俺が見合いするから?」
「だからわかんないって言ってるじゃない…」

これはもしや…

「ヤキモチ?」
「へ〜?」
小さく呟かれた木暮の言葉は幸か不孝か春奈の耳には届かなかった。
それでも木暮には嬉しかった。
本人は無意識かもしれないが自分の片想いにかすかに希望が見えたのだ。
春奈が泣いているにもかかわらず木暮は笑ってしまった。
「何笑ってるのよ〜」
「べっつに〜?てかこんなに酔ってるのに一人で帰るなんてあぶねーだろ。送る。」
「だーいじょーぶよこれくらい〜」
「それと、」
「ん?」
「俺、あの話は断るよ」
「お見合いの事?なんで私に?…でもいいの?あんな綺麗な人なのに…」
「いーんだよ。大体いくら上司の娘だからって胡散臭いのはかわんねーよ」
「でも相手上司なんでしょ?断れるの?」
「…まぁ頑張るよ」
「何それ。でもそっか…そっかぁ…」
そう言うと春奈は花が咲いた様ににこやかに笑った。

気がつくと木暮は春奈を抱きしめていた。

「え、ちょ…こ、木暮くん!?」
「え、あっ!!わ、悪い!!」
春奈に声をかけられてバッ!!と放したが二人の顔は真っ赤だった。

「「………」」

「…か、帰るんだろ?…送る」
「う、うん…」
二人共動き出したがその動きはギクシャクしていた。

「あれ?音無さんもう帰っちゃうの?」
「は、はい!!どうもお邪魔しました!!」
「俺、送ってくるんで。」
「わかったわ。うふふ、二人共ホントに顔真っ赤よ。よほど飲んだのね。余り無茶しちゃ駄目よ?二人共気を付けてね。」
「「は、はい…」」
秋にそう注意された事で更に二人は顔を赤くした為秋は不思議に思ったがあえて触れなかった。
(何があったのかはわからないけど何か進展でもあったのかしら?早くくっつけばいいのに…)
二人を見送りながら秋はそんな事を考えていた。
木暮は隠していたつもりだったが秋にはバレバレだったらしい。


「ここまででいいよ」
「大丈夫なのか?」
「うん、もうすぐそこだし…」
「そっか…じゃ。」
「うん」
カツカツ…
「「なぁ/ねぇ!!」」
お互いに背を向けあって歩きだした二人だったが同時に振り返った。
「「なんだよ/なによ」」
「「………」」
二人共暫く黙っていたが木暮の方から切り出した。
「あー…今度はさ、メシでも一緒に食おうぜ」
「…それはデートのお誘い?」
「さぁね」
「相変わらず素直じゃないなぁ木暮くん。…まぁいいわ、楽しみにしてる。またね」
「…おぅ」
そう言って今度こそ二人は別れた。
その時の二人の表情は穏やかなものだった。

(これは…一歩前進できたのか?)

春奈が自分の思いを自覚し、木暮の思いが通じるのもそう遠くはないかもしれない。

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