嘘(木春)


じー
「ん?なんだ、どうしたんだ木暮」
「鬼道さん!!…いえ、お義兄さん!!」
「!?お、おおおおい木暮…い、いいいい今何て…」
「お義兄さん!!俺、木暮夕弥は音無春奈さんと結婚を前提にお付き合いさせて頂いてます!!」
「!?!?」
事の発端は木暮の爆弾発言だった。


「…鬼道さん?」
木暮の発言から少しも動かない鬼道を不審に思って木暮が鬼道に声をかけた。
傍にいた豪炎寺がツンツンと鬼道をつつくが、
「駄目だ木暮。立ったまま気絶してる」
「え…」
「皆さーん!!もうすぐ休憩終わりますよー?」
「春奈ァァァ!!」
「うわっ!!な、何!?」
しかし春奈が休憩の終了時間を伝えにこちらに走って来た途端、気絶していた鬼道が急に目をカッ!!と開いて春奈の肩を勢いよく掴んだ。

「ど、どうしたのお兄ちゃん」
「は、春奈…嘘だと言ってくれ…」
「え?な、何が?」
「こ、ここここ木暮と結婚を前提に付き合っているというのはほ、ほほほほ本当なのか!?」
「………えぇっ!?何それ!?」
「ち、違うのか?」
そろり、そろり…
「あ、当たり前でしょ!!…って、待ちなさい木暮くん!!」
ギクゥッ
「な、何?」
忍び足で逃げ出そうとしていた木暮は急に話の矛先が自分に向かい、気まずそうな表情を浮かべた。
「何じゃないわよ!!一体どーゆー事!?」
「い、いやだから今日エイプリルフールだろ?だからたまには鬼道さんに…」
「嘘ついたっていうの?全く…なら早くそう言えばいーじゃない」
木暮の言い分を聞いた春奈は額に手を当てた。
「いや言おうとしたけど鬼道さん気ィ失っちゃって…」
「え…」
「木暮ェ…ついていい嘘と悪い嘘があるぞ!!来い!!その曲がった性根鍛え直してやる!!」
からかわれたという事に気がついた鬼道は鬼のような形相で木暮の耳を掴み逃げられないようにして、コートの中へズルズルと引っ張ってって行った。
「な!?かわいー嘘じゃないですか!!えっ、ちょ、ギャァァ!!」
「自業自得だな…」
豪炎寺も妹がいる為鬼道の気持ちが分かるのだろう。
呆れたようにポツリと呟いていた。
こうして木暮は鬼道によって長時間の恐怖の特訓に付き合わされたのだった。


「ダァーッ!!つっかれたー!!」
「しょーもない嘘つくからでしょ」
そう言いつつも春奈は木暮にハイ、とドリンクを渡した。
「あ、サンキュ。…だってたまには違うヤツにもいたずらしたいじゃん。それに鬼道さん、お前が絡むと人変わるから一度こーゆーのやってみたかったんだよね」
木暮はウッシッシ!!と笑いながら答えた。「全く…」
「いーじゃん、エイプリルフールはどんな嘘ついてもいーんだよ」
木暮はむしろ開き直ったように言った。
「ふーん…」
「な、何だよ」
「木暮くん、私木暮くんの事結構嫌いなんだ。木暮くんは?」
「は、はぁ!?な、何だよ急に!?つーか嫌いって「木暮くん、今日はエイプリルフールなんだよ」…えっ?」
春奈の『嫌い』という言葉に一瞬傷付いた顔をした木暮だったがすぐに『エイプリルフール』という言葉に訝しげな表情に変わった。
「だからさ、今日はエイプリルフールだから嘘ついていいんだよ」
「いやそりゃ知ってるけど…」
「木暮くん、いつもあまのじゃくだから今日は木暮くんにとって都合がいーんじゃないのかと思って。私は結構木暮くんの事嫌いだよ。木暮くんは?私の事どう思ってる?」
(えーっと、つまり俺の事が結構嫌いってのは嘘だから音無は俺の事が結構好き…?)
春奈の言葉をようやく理解した木暮はボッと赤くなった。が、春奈がニコニコと笑っているのに気がつくと途端に不機嫌になった。
「お前…俺で遊んでるだろ!!」
「えぇー?なんのことぉー?」
そう、木暮は春奈の問いに答える為にはどちらにせよ『好き』と言う意味合いを持つ言葉を言わなければいけないのだ。
つまり『嫌い』と言えば『好き』になるし、『好き』と言えば『嫌い』になる。
ならば『好き』と言えば良いのであろうが、いかんせん、木暮も中学生。
『好き』と言うだけでかなりの労力を使うのだ。
つまりどちらにせよ、木暮は春奈に『好き』と伝えてしまうのだ。
「〜〜〜っ!!」
「ねぇねぇ木暮くんてば〜」
いつもからかわれている為この逆の状態が嬉しいのだろう。
既に春奈はニコニコからニヤニヤという表情に変えて完全に木暮をからかっている状態だった。
「〜〜あぁもうっ!!お前なんか嫌いだよ!!じゃあな!!」
春奈の視線に耐えかねて早口に言うと木暮はピュウッと走って行った。


「……えーっと…つまり木暮くんは私の事が…?」
一人残された春奈は木暮の木暮を理解するとボンッとさっきの木暮以上に顔を赤くした。
「あ、あれ?からかうつもりがなんでこんな事に…ってか」

    ー顔熱いー


ー木暮が鬼道に対して言った嘘が本当になる日もそう遠くないかもしれないー

- 80 -
[prev] | [next]


back
TOP

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -