祭りの後(ドキプリ・イラりつ)


「はぁー…」

無事に、とは言い難いが、なんとか大貝第一中学校の文化祭は終了した。
後夜祭も終わり、今は最後の後片付けの時間だった。
学校の違う亜久里やありすも手伝ってくれていたので仕事的には楽だった。
しかし六花の心は重かった。

「どうしたんですの?」
「!、ありす…」

真琴と一緒にキャンプファイアーの残骸を片付けていたありすだったが、仕事が終わったのか、今度は六花の所まで手伝いにきた。
皆と少し離れた所で座りながらゴミの分別をしていた六花は急に現れた人影に少し驚いた。

「いやー、ちょっと疲れちゃってさ。ゴメン、心配させた?」

六花が苦笑いしながら手をヒラヒラと振るとありすは少し笑い、六花の側に座り込み、手伝いをした。

「そうですわね。まさかジコチューが出てくるとは思いませんでしたし最近現れなかったイーラまで出てきたのですもの。私も少し疲れましたわ」
「!」

ありすは瞳を閉じながら小さく笑みを浮かべている。
しかし六花の心情は穏やかではなかった。

そう、イーラが来たのだ。

あの時、記憶喪失になった以来の再会だった。
その時、自分はいい加減馬鹿な事は止めたら、と言った。プリキュアとして当然の言葉を。
だけど同時に思ってしまったのだ。

良かった、また会えた、と。

けれどすぐにジコチューが襲ってきたのでそんな気持ちも何処かへ行ってしまった。
それでも『そう』思ってしまった事に戸惑いは隠せなかった。

「六花ちゃん」
「へ、あ、何!?」

呼ばれてありすの方を振り向くとありすは少し苦い表情をしていた。
そしてありすが口を開こうとした時だった。

「六花!」
「へ!?」

後ろから声をかけられて振り向くとそこには仁王立ちしている亜久里の姿があった。

「あ、亜久里ちゃん…」
「何やら、先程のジコチューを倒してから元気がないようですがどうかしましたの?」
「いや、これはちょっと疲れて…」
「まさか、ジコチューであるイーラに情が移ったのではありませんね?」
「!」

キッ!、を六花を睨み付けるように見つめる亜久里の視線に意図せず六花の肩がビクリと震えた。
それを肯定と受け取ったのか、亜久里は大きなため息を吐いた。

「何をやっているのですかあなたは。敵であるイーラに情を移すだなんて…。私、言いましたよね。次に会う時は敵同士になると。そしてあなたは『分かってる』と言った。…本当に分かっているのですか?彼らは倒すべき相手です。敵に肩入れするようではプリキュア失格ですわよ」
「!」
「その事、よく肝に銘じておいて下さい」

亜久里は言いたい事は全て言ったのか、くるりと踵を返すと中心部にいるマナの方へ歩いて言った。

「…私、何やってるんだろ…」
「六花ちゃん…」

そう、イーラは倒すべき相手なのだ。

イーラ達がしてきた事を忘れた訳じゃない。
なのにまた会えて嬉しいだなんて…
これじゃ本当にプリキュア失格だ。

六花は知らず知らずのうちに浮かんできた涙を強く拭った。
すると宥めるように優しく六花の頭を撫でてくれる暖かい手を感じた。

「ありす…」

手を辿ると、言わずもがな、それはありすの手だった。

「六花ちゃんは、本当にイーラさんの事が好きなのですね」
「え…」

それは私がずっと考える事を避けていた感情だった。

何故ならそれは認めたくない、認めてはならない感情だったから。
認めたら最後、今まで培ってきたもの全てが壊れてしまう気がしたのだ。

なのにありすはいとも簡単に指摘してしまった。

「何言って…それに私はプリキュアなのよ?そんな感情許される訳…」
「六花ちゃんを見ていたら気付きますわ。それにプリキュアだからなんだと言うのです?…確かに六花ちゃんの思いは見る人によっては誉められる感情ではないかもしれません。だけど私達、プリキュアである以前に女の子ですもの。自分でも止められない位誰かを好きになっても可笑しくはありませんわ。寧ろ素敵な事です」

そう言うありすの瞳には大好きな友達に好きな人が出来て嬉しいという感情はあっても、責める気持ちは1つも見当たらなかった。
六花は再び浮かんでくる涙を隠すように俯いた。

「いいのかな。…好きでいても、認めても」

もう、自分でもどうしようもない位アイツに惹かれている事を。

「勿論。寧ろ、認めてあげない事の方がその気持ちも、六花ちゃんも辛いと思いますわ」
「………」
「それに、いつだったか亜久里ちゃんも言っておりましたわ。常に自分に正直であれ、と」
「!」

バッ!と顔をあげると尚ありすは微笑んでいるだけ。
六花はその優しさがひどく心に染みた。

「だから、ね、全て1人で抱え込まないで下さい。抱えきれない分は私も一緒に受け止めてさしあげますわ」
「…――うぇ、」

ありすのこの言葉で六花は涙腺が崩壊したかのように大きな涙を流し始め、ありすに抱き着いた。
六花は人目も憚らずに大声をあげて泣いたがありすは優しくその小さな背中を撫でた。。

――…ありがとう、ありす。

私、イーラの事がこんなにも好きなんだ。

ありすは六花の声にならない嗚咽を、全て分かっているというように六花が泣き止むまでずっと側にいた。

イーラ、大好き。




「全く…せっかくリングをもらってパワーアップしたっていうのにまた負けたんじゃ今までと変わらないじゃない」
「うっせー!今日は只の様子見だ!」
「はいはい」

マーモは呆れたようにため息を吐くとイーラを後にした。
恐らく今度は彼女がプリキュア達の所に行くのだろう。
薄暗いボウリング場にイーラは1人残された。

「あーっ!ったく、気に食わねぇ」
イーラは側にあったソファーにふんぞり返った。

『いい加減、馬鹿な事止めたら!?』

「……ッチ」

思い出したくないのに、思い出してしまう、青くて、ふわふわして、キラキラしてるアイツの責めるような顔。

――…アイツ、バッカじゃねーの

何会った途端俺に話しかけてくんだよ。
分かってんのか?あの時とは違う。
今のアイツと俺は完璧に敵同士だ。
なのになんで――…

違う。馬鹿なのは俺の方だ。

イーラはソファーの背に寄りかかると瞼を閉じた。

アイツを見た途端、良かった、また会えたって思ってしまった。
アイツは敵なのに。
なんで――…

ここからは、詮索するなって声が頭の奥から響いてる。
知りたいなら自分の気がすむまでジコチューらしく考えればいいと思う。
だけど考えたらきっともう後戻りは出来ない。
だから俺は考えるのを止めた。

「…俺はジコチューだ。プリキュアの敵だ。それ以下でも、それ以上でもない」

イーラが1人呟くその声はまるで自分に言い聞かせるようだった。


(もし…)

(もし…)

(俺達が、)

(私達が、)

(違う出会い方をしていたのならば、)

(違う結末があったのだろうか)


その思いに答える者は誰もいない。


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