狙いを定めて(段戦・タダノゾ)


「あのー…、タダシ?」
「何?」
「いや何じゃなくてこの体制は…」
「ノゾミを押し倒してる」
「だからそういう事を聞いているんじゃなくてね!?」

最初はただ単に談話室で雑談をしているだけだった。
つい数時間前のウォータイムで長い間、ノゾミの兄であるハヤトをロストしてしまった事で抱えていたトラウマを乗り越え、再びタダシはスナイパーに復帰する事が出来た。
同じ小隊の仲間であり、兄の事を気にし過ぎていたタダシを心配していたノゾミは素直にタダシが復活した事が嬉しかった。
目が醒めてしまい、皆が寝静まった頃、アラタ達を交えて昼間もしたが、改めて二人でひっそりと祝賀会を開いていたのだ。

それなのに、だ。

「私が聞きたいのはどうしてタダシが私を押し倒してるのかって事よ!」
「そんな赤い顔して怒っても効果ないよ」
「う…」

会話が少し途切れたかと思った時、いつの間にかタダシはノゾミの肩を押して二人でソファーに倒れ込んだ。
その為二人は足は床に着いたまま上半身だけ倒れ、タダシはノゾミの両手首をソファーに縫い付けているという少々辛い体勢だった。
しかしそんな事よりも息のかかりそうな位近いタダシの顔と、普段では考えられない程積極的なタダシの行動にノゾミはパニック状態だった。

「ノゾミ、ありがとう」
「へ!?」

しかしタダシから発された言葉は意外なものだった。

「俺、前にハヤトをロストしてからずっとライフルを使う事が怖かった。また誰かロストさせてしまうんじゃないかって。だけど今日、アラタやカイト、そしてノゾミのお掛けでまたスナイパーに戻る事が出来た。だからありがとう」

タダシはいつものように淡々と語った。
いつもとは少し違う気がしたがそれはノゾミの気のせいだったようだ。
ノゾミはホッとして強張っていた全身の力を抜いた。

…押し倒されている理由は結局分からないけれど。

「そ、そうね。ホントに良かったわ。だからタダシ早く退いて…」
「それで俺思ったんだ。何事も弱腰じゃ成せるものも成せないって。だからこれからはもっと強気に行動しようと思う」
「そ、そう。分かったからタダシ、ホントに早く退い…」
「だからノゾミ。俺ノゾミが好きだ」
「――な、」

タダシは淡々と告げた。
いや、耳が少し赤くなっている。
長々と話していたのは緊張のせいだったのかもしれない。
しかしノゾミにはそんな事を気にしている余裕はなかった。
何故ならノゾミは今、初めて男性に告白されたのだから。

「な、な……!」

押し倒された時から少しは予想してたとはいえ、やはり実際に言われるのとは全然違う。
言葉をまともに発する事が出来ずに顔を赤くしているノゾミを見るとタダシは少し思案した後、ノゾミの額にちゅ、と口付けた。

「っ―――!」

あまりの出来事に今度こそ悲鳴を上げそうになったノゾミだったがすんでのところでタダシの手に口を塞がれた。

「静かに。人来ちゃうだろ。こんなノゾミ、他のヤツに見せたくないから静かにして。」
「無理に決まってるでしょ!?」

手で口を塞がれている為多少は音量は下がるものの、ノゾミの声はタダシの鼓膜をビリビリと震わすのには十分な音量だった。
若干顔をしかめたタダシだったが構わずちゅ、ちゅ、と目尻、頬、とノゾミの至るところにキスをした。
ノゾミはくすぐったさに身悶えながらもタダシの胸元を両手で押すがびくともしなかった。

「ちょ、タダシ、ホントに止め…」
「言っただろ。遠慮はもうしない。それにハヤトからのお墨付きもらったしね」
「え、」
「だからさ、ノゾミ、」

早く、俺のモノになって。

「っ―――!」

優しく、とろける程甘いタダシの囁きはノゾミの心臓を正確に撃ち抜いた。


「………ノゾミ?」

タダシがノゾミに囁いた後、ノゾミはビクンと体が動いた後身動き1つしなくなってしまった。
不審に思い顔をあげるとどうやらノゾミは気を失っているようだった。

「…やり過ぎた…」

タダシは上半身を起こしながら親友からの伝言を思い出していた。

『お前なら兄ちゃん認めてやるから安心しろよ!けどああ見えてノゾミはウブだからな、あんまりがっつき過ぎんなよ!』

タダシにとってはこれでもだいぶ抑えていた方なのだがノゾミには刺激が強すぎたらしい。

「…ゴメンな」

タダシはノゾミの額にかかる髪をそっと払った。

だけどもう止められないのだ。

お姉さんぶってるくせに本当は甘えたがりの所とか、自分よりも相手の事を心配する優しい所とか、凛とした姿勢でいつも前を見据えている気丈さとか。

ノゾミの全てが愛しいのだ。

「だから早く、ノゾミも俺に夢中になって」

タダシは最後に唇のギリギリ端の所にキスをした。

「ちゃんとしたキスはノゾミが俺の事好きになってくれた時に、な」

狙った獲物は外さない。
それがタダシのポリシーだ。

だけどまずは、

(どうやって女子寮に連れていこう…)


早くもタダシは壁にぶつかっていた。

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