どうして僕らは、(ドキプリ・イラりつ)


「イ、イーラ?」
「久しぶりだな」

先日、記憶を無くした時に六花に看病してもらって以来、イーラはその事を思い出しては胸の奥が疼くのを感じていた。
だが何故そうなるのかはわからない。
かといってそのままにしておくのは後味が悪い。
イーラはその胸の疼きの正体を知るべく六花の部屋の窓へと降り立った。

「な、何してんのよアナタ!」
「うっせーなー、大声出すなよ」
「これが出さずにいられる訳ないでしょう!?」

現在イーラは六花の上に馬乗りになっている状態だった。
勿論抵抗されないように六花の両手は強くベッドの上に強く縫い付けられている。
六花からしてみれば今日の分の予習復習も終わりさぁ寝ようとベッドに潜りこんだ矢先にイーラが部屋に侵入されてたまったもんじゃなかった。

「別に今日は何かする為に来た訳じゃねーよ」
「嘘!」
「嘘じゃねーよ。だから大人しくしてろ」
「…何なのよ、それ…」

イーラは確かに六花を押さえつけているがそれ以外の事は言葉通り何もしなかった。
六花は完全に心を許した訳ではなかったが他にどうする術もなかったので大人しく力を抜いた。
イーラは何もしない。
ただ六花に会えば胸の疼きの正体がわかると思ってやって来たのだ。
しかしその正体はわからず、逆に胸の疼きは増すばかりだった。

なんだよ、これ。

胸が疼く、といってもそれは心の奥底で微かに感じる程度だった。
だが今は違う。
六花のシャンプーの匂いだとか、少し赤みを増した頬とか、手の小ささとか、澄んだ青い瞳とか。
六花の1つ1つの事柄がイーラの心を強く掻き乱し、もっと六花の事を知りたい、感じたい、そう思わせた。

「本当に何なのよ…」
「お前が何なんだよ」

イーラに黙って見られ続けられる事に戸惑いよりも羞恥が勝ったのか六花は更に頬を赤く染めながらイーラから目線を外した。
しかしイーラはそれを許さないかというように更に顔を近づけさせた。
六花とイーラの距離はもうお互いの吐息がかかる位近かった。

「え、ちょ、イーラ!?」
「こうなったのはお前のせいなんだからな」
「はぁ?」
「お前が青くてフワフワして、キラキラしてるのが悪い。お前が優しくするのが悪い。お前が僕に笑いかけるのが悪い。」
「えぇっ!?」

イーラは獲物を狙う獣のように金色の瞳をギラつかせながら言葉をつらつらと並べたてた。
しかし内容は決して悪意が込められたものではなかった。

「お前がそんな風だから…っ、クソッ!」
「ひゃあ!?」

イーラは辛そうに顔をしかめると六花の元へ倒れこんだ。

「何なんだよこの気持ち…熱くて、苦しくて、切なくて、胸が締め付けられて…」

嘘。

本当は知っている。
この気持ちの、この胸の疼きの正体を。

だけどそれは敵であるプリキュアに対して絶対に持ってはならない感情。
ジコチューである僕には必要のない感情。
決してこの気持ちが実る事はないとわかっている。
それでもそうなってしまった。
最初は小さな蕾だったのに、今では手に負えない程大きな花を咲かせてしまっている。

あぁ、本当に、

「どうしてこんなヤツ好きになっちまったんだよ…」
「え…」

イーラは苦しそうに言葉を絞りだした。

「イーラ?」

幸か不幸か六花の耳には届いてはいなかったようで六花は戸惑いの表情を浮かべた。
イーラはそんな六花を一瞥すると顔を少しだけあげた。
そしてもう一度イーラは顔を少し斜めに傾げてお互いの吐息がかかる程近づいた。

「イ、」

しかし後数pという所でイーラはグッと口を引き締めると再び六花の元へと倒れこんだ。
「イーラ!?」
「うるさい。ちょっと黙ってろ」

そう言うとイーラは六花から手を離し、六花の頭を抱えこんだ。

「何なのよ…」

六花は頬を赤く染めながらも抵抗はしなかった。
それどころか六花はあろうことにかおずおずと自由になった両腕でイーラの背中に手を回したのだった。
イーラはその事がどうしようもなく嬉しくて、とてつもなく悲しかった。

――…あぁ、どうして僕とコイツは敵同士なんだろう。

答えの出ない疑問が浮いては――沈んでいった。


暫くすると六花の口から小さな寝息が聞こえてきた。
イーラは静かに体を起こすと優しく六花の髪を撫でた。

「六花……好きだ」

その呟きは今までに聞いた事がない程優しくて、甘く、切ない響きを持っていた。
イーラは六花の額にかかっている髪を少しどかすと軽いリップ音を立ててキスをした。
イーラは再び六花の髪を壊れ物を扱うかのように撫でるとベッドから降り、六花に布団をかけてやると再び夜の世界へと消え去った。
六花を思うあの気持ちには蓋をする事に決めて。




「私だって好きよ……馬鹿」

六花の呟きに答える者はもう誰もいなかった。


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