Rencontre.deux
「目が覚めた?」
聞きなれない呼びかけに対し、瞼を開ける。建物内にいることから、どうやら意識野が落ちていた上に、ご丁寧に運ばれてきたらしい。寝台に寝かせられた自分を取り囲むように、スレイとその仲間たちがこちらを見ている。
「僕を運んで?」 「ああ。ジルって見た目よりずっと重いんだな……びっくりしたよ」
ジル?と思ったが、そういえば偽名を名乗っていたのを思い出す。身体を起こすと、まだ少しふらついた。だが、落ちる前よりかははるかに体が楽だ。視界も明瞭で、音もはっきり聞こえる。簡易メディカルチェックを行ってみたが、異常点を出したのは術式回路とジャイロセンサーだが、これらも大分よくなっている。
「さて。君は一体何者なのか、改めて聞かせてもらうよ」
自分が落ちる前と変わりのない、ピンと張り詰めたままの気配を漂わせた少年が問いかけてくる。まずは、何者なのか。どこから来たのか。その問いは、どう返していいか自分ですら分からないというのに。まったく厄介だ。
「僕は機械です。ええと、機械。この世界にありますか?」
キカイ?と首を傾げたスレイ。これまた説明が面倒くさそうだが、どう話したものか。そしてこの世界、機械が周知されていないということは、文明レベルとしては元いた場所の約1000年前相当といったところか?
「簡単に言えば人ではない、人工物です。それらが意思を持って動いている……そう、お考えください」 「すごいな、人そっくりなのに!」
スレイに顔を近づけられて、まじまじと見られる。そうだ、目。
「スレイ、僕の目を見ていただけませんか」
スレイの双翠が己の目を覗き込む。わざとオートフォーカスを外し、マニュアルに切り替える。ズーム、そして望遠。
「すっげえ!瞳孔のまわりに線があって、くるくる回ってる!」 「ここを回転させて、視界がぼやけないよう常に調節しているんです」
スレイ達に助けられたころは見事に不調だったが。そう一人ツッコミを脳内で入れていると、スレイが少年の手を引っ張って一緒に覗き込んでくる。二人に再度ピントを合わせると、少年が少しだけ目を見開いた。スレイは相変わらず大興奮だ、こういう類が好きなのだろうか。 ともあれ、自分が人でないこと、"キカイ"であることは信じてもらえたようだ。まあ、元の世界ですらロストテクノロジーの塊で、信じてもらえない人間のほうが多かったのだから、別に信じてもらえなくてもよかったが。
「ええと、それから……。どこから来たのか、でしたね。ここではない世界、かつて"音"の満ち溢れていた世界。これで信じろというのは難しいでしょうか」 「いや、オレは信じるよ」
その即答振りに、正直面食らった。こうあっさり信じる人間がいるのかと。何かの罠ではないか、そう疑っていると、左手の椅子に腰掛けなおしていた少年が口を開いた。
「スレイは嘘をつけない。勘繰っても無駄だよ」
腕を組んで、呆れたように口元を緩ませている少年。なるほど、スレイは思った以上に純粋な子のようだ。そして、彼が信じるなら僕も、と少年は頷いた。少女と女性も同じように頷く。三人揃って仕方なし、といった感じではあったが。
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