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 Lailah



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宿屋の廊下を歩いていると、おなまえさん、と後ろから呼び止められる。声の主はライラだ。朝一番に彼女に会えるなんて幸せだなぁとかみ締めながら振り返ると、相変わらず綺麗な姿で立っていた。やはり綺麗だ。なんて少し見とれてしまっていると、こつこつとライラはこちらに近寄ってきた。
そして、目の前に立つと、僕の頭をそっと撫でる。意味を理解できずに小首を傾げると、彼女は微笑んで「寝癖が付いていますわ」と言った。

「術で扱う事はできませんが、多少なら私だって水の霊力を扱えるんですよ?」

何の事かと思えば、手の平の周囲に水の霊力で僅かな水を生み出し、同時に熱する事で寝癖を直してくれているらしい。じんわりと温かい手の平の感触が心地よくて、つい目が細まる。この様子、形容するならまさに「よく懐いた猫と飼い主」であろう。寝癖はとうに直っただろうに、ゆっくりとなでてくるその手が、好きだ。

「ありがとうございます」

お礼を言えば、ライラは花が綻ぶように笑う。やはり彼女は、綺麗だ。


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ライラ、と普段より幾分か気の抜けた声でその名を呼ぶは、おなまえ。二人とも普段一つに纏めた髪を解いて、寝台に腰掛けている。「ライラ」、と彼はもう一度名前を呼び、彼女のその腕に一つ、キスを落とした。

「どう……されたのですか?」
「いいえ、ただ何となく」

その微笑の裏に、尽きることのない恋慕を込めて。


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お題:診断メーカー(ふたりにお題ったー2)より『腕にキスをする』




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彼は私の名を短く呼ぶと、私の顔を伺うようにおずおずと見上げてくる。カーネリアンのような瞳が、昼下がりの太陽にきらめいた。

「お昼寝、しませんか」

彼はそう言うやいなや、私の左手に指を絡ませて、合わせていた目線を外すように顔を勢いよく逸らした。私は一言

「もちろんですわ」

とだけ返事をし、慌てる彼のその手を引きながら、少し早足で庭園へと向かった。


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お題:診断メーカー(○○を使わない140字小説お題)より「赤」を使わずに
加筆修正版。



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「癒やしの風よ、ヒールウインド!」

今日はやけにこの詠唱文を聞いている気がする。ライラがきゃあ、と悲鳴を上げる度にヒールウインドが発動する始末。完全に過保護である。理由を聞けば「ライラが大切ですから」だそうで。はいはいそうですかと僕は言い、彼にスプラッシュをお見舞いしておいた。


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お題:診断メーカー(お題ひねり出してみた)より『あまりにも君が大切だから』





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ライラの口に運ばれる、パウンドケーキの最後の一片。僕は日課である武器の融合が終わってから食べようと思っていたのだが、女性陣の別腹は凄まじいということを失念していた。彼女は幸せそうにパウンドケーキを銜えて僕を見、そこでようやくはっとしたようで、ぱちりと目を瞬かせた。
彼女の焼いたパウンドケーキは、僕も食べたかったのだから許されるはず。小さな口元に銜えられたままのパウンドケーキを、唇を重ねるように奪い去った。


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お題:診断メーカー(新・140字で書くお題ったー)より「それ、半分ちょうだい」




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Attention↓





















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「ライラ。僕、ひとりは寂しいです」

彼はいつものように、困ったような表情を浮かべて微笑んだ。今にも子供のように泣いてしまいそうに揺らぐ紅玉髄の瞳が、部屋の灯火を受けて煌いている。彼を撫でてから、二人で一緒に、同じ料理を食べた。

「大丈夫ですわ、おなまえさん。私も、一緒ですから」

今晩は、最期の晩餐。


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「ごめんなさい、あなたにそんな顔をさせるつもりでは……」

すっかりと落ち込んでしまったライラにかける言葉が見つからなかった。一番大本が人間であった自分にとって、子供というものは遙かに身近なものだった。だが彼女はそうではない。天族はどこからか産まれてくる存在。ミクリオのように出生を知れるのは、ほんの一握りだという。わかっている。けれど街中を歩く人間のその腕に抱えられた命を、胎内に宿る小さな命を見る度に、彼女とならきっと素敵な子を育てられるだろうと夢見てしまう。残酷なことを言ってしまった。そんな顔を、させたいわけではなかった。

「気にしないでください。おなまえさんは元々天族ではなかったのです、あなたが悪いわけではありませんわ」

そしてこんなことを言わせてしまった。僕は本当にどうしようもない奴だと思う。

「でも謝らせてください。ごめんなさい、ライラ。軽率でした」

腰掛けたままの彼女に、頭を下げる。頭を下げたままの僕に、しばし間をおいて彼女は声をかけてきた。「私を抱きしめてくれませんか?」と。顔を上げれば、彼女は微笑みながら僕の答えを待っている。

「そんなことでよければ、いくらでも」

一つ瞬きをして、僕は彼女を抱き締めた。暖かくて、柔らかくて。

「もしおなまえさんとの赤ちゃんができるなら」

ライラは僕の耳元でそう囁いた。

「おなまえさんによく似た、可愛らしい子が良いですわね」

僕が可愛い?むっとして体を離し彼女の目を見ると、悪戯っぽく笑っていた。

「ライラ似の美人で可愛い女の子に決まっています」
「まぁ。では双子ですね?」

この未来図がどれだけ無意味なものか知っていて、叶わないと分かっていて笑い合うこの一時が冷たく僕らを刺し貫きながらも、その冷たさは決して僕らを殺しはしない。それが生きている限り心を抉り続けるのだと、知っている。






――子供は愛の形だと
  誰が言ったか
  嗚呼憎らしきかな



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ある日に彼女は光となって消えた。その翌日からおなまえはおかしく、いや、おかしいというのはきっとあたしたちの感覚。おなまえから見た赤く流れるそれは、彼女の色。彼女が見えているんだろう、愛しそうに赤鉄にキスをする。唇が、紅をさしたように赤く、白い彼と相まって儚く世界に残されている。
日に日に彼は細くなっていった。食事を取らなくても良いしそれによって体重の減衰が起こる訳ではない。恐らく精神的なものだろう。それでいいのかもしれない。きっと彼も望んでいるのだ、光の粒となって天上で待つ彼女に逢いに逝けることを。
だが、なんて可哀想な。蕩ける様な瞳で血潮を眺める彼が永遠に知ることはないだろうが、彼女は自ら命を絶ったというのに。

「ねえライラ、ぼくのこえが、きこえる?」



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