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 Zaveid



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夜、外は少しばかり冷えていた。ザビーダは一人屋根に腰掛けて、街を流れる風を感じながら一息をつく。雲の流れをぼんやりと目で追ったり、そうした雲間を縫って降り注ぐ月の光を浴びたり、秋空の星を眺めるのは嫌いではない。しばらくそうしていると、ふと背後に気配を感じた。気配の主は、おなまえ。そのままザビーダに向け歩み寄ると、ぴとりと背中にくっつき、胸元に腕を回した。

「夜は寒いですよ、ザビーダ」
「着てねえしな」

そう返して笑うも、確かにそろそろ室内に戻ろうか迷っている頃合いだった。朝に近づくにつれ放射冷却で冷え込む街は、冗談抜きで肌寒い。くっついているおなまえの方へ軽く顔を向けると、図ったように頬をぴったりと合わせ、頬ずりをしてくる。やわやわとした感触が気持ち良い。

「まあ……着ていても寒い、ですけれどね」
「ククッ、くっつきたいお年頃かい?お坊ちゃん」

悪いですか、なんてむくれながらツンと顔を背ける。ま、こんな夜も悪くない。背中に伝わる温もりを甘受しながら、もう少しだけ星空を眺めることにする。

夜更けの空に流れ星が一つ、空を滑り降りていった。



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title:(flip様)より


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「……あなたにこれを」

突然差し出される髪留め。俗に言うバレッタだろう。赤瑪瑙だろうか、深みに誘うような透明感が綺麗だ。特に凝った装飾があるわけでもなく、なるほど男性が留めていても違和感がないチョイスだ。

「あなたはいつも、適当なもので髪を結っていますから」

照れたような顔、手の平一枚分低い場所から見上げてくる視線は上目遣いで、惚れた腫れたの弱みなのだろう、おずおずと見上げるその表情が堪らない。ありがとよ、と受け取りつつ右手で頭をわしわしと撫でると、おなまえは少し視線を逸らしながらぶつぶつと文句を言っている。さしずめ自分より背が低いからってすぐ撫でるなとか、子供扱いするなとか(現に年下である)、そういうことだろうと思っていた。だがどうやら違うらしい。
ついでにからかってやろうと顔をのぞき込み、鼻が触れ合う距離まで近づくと情けない悲鳴を上げておなまえは飛び退こうとした。が、屋根の上だったため仰け反らせるまでにとどまってしまう。真っ赤な顔で狼狽えるのをみる限りは嫌がられてはいないようだ。ニヤリと笑い、おなまえの後頭部をかき抱くように引き寄せ、間抜けに開いたままの唇に食らいつけば、呼気を求めるようにカウンターテノールの柔らかな声が漏れる。存分に堪能した後に解放してやれば、ぜえぜえと色気のない喘ぎ方をした。

「ざ、ザビーダ……!」
「お望みじゃなかったかい?それとももっと大人扱いがよかったか……」

耳元で囁けば、言葉を遮るように、馬鹿だの葱だのタラシだの、子供じみた罵倒をしながら屋根から駆け下りていった。転ばないといいんだが、と思ったのも一瞬、後方から再び情けない悲鳴と、どさっというこれはまた痛そうな効果音が聞こえた。

「ま、ありがたく髪留めは使わせてもらおうか」


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