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 Soleil



口先から零れ落ちた言葉に、自分でも驚いてしまった。天族となって、心の存在がしかと分かるようになって。あまりに自分が抱えている想いの大きさに、ついに耐え切れなくなったようで、口だけ動かしたつもりが声も出てしまっていたようだ。

「好き、です」

好きというその二文字が、ここまで静寂を生むなんて。真一文字に口を閉じたままのスレイはきっと意味を咀嚼しているのだろうか。ああ、驚きに見開いた灰碧柘榴石のような瞳の、なんと美しいことか。

「寝る前にすみませんでした。どうか年寄りの戯言と思って、忘れてください。……おやすみなさい、スレイ」

自分で言っていて酷く胸が痛むのを感じた。が、どうにでもなれ。僕が彼に抱いている感情は本物だし、断られたら断られたでまた長い片思いをするだけだ。もとより人間と人間じゃない存在、天族。感覚もセンスも違うらしいのだから、結果など知れているようなものだ。それにしても、呼び出しておいて自分から立ち去る。まるで逃げているみたいだった。僕の無機質で赤い瞳は揺れているのだろうか。ぼんやりと、視野が滲んで堪らない。こつ、と石畳に踵が当たる音を立てながらくるりと身体を反転させ、宿屋へと足を運ぼうとする。

「おなまえ」

名を呼ばれたことにどきりとしてしまい、つい足が止まる。振り返りたくはなかった。その優しい声音だけで、今にも零れ落ちそうだというのに。

「ありがとう」

その先に続く言葉が怖かった。固まったままの両足に動けと命じても、動かない。どうか動いてくれ、ここから走り去る力を出して。大の男が泣いてしまうだろうから。こつりと背後で音がして、真剣な、トーンの低い声。

「その言葉、本気と受け取っていいんだよな」

刹那、背中にのしかかるような重さ。そして暖かさ。全く、理解が及んでいない。どうしたらいい。今はどうなっている。視線を落とせば、スレイの腕。これは、一体?

「俺も好きだよ、おなまえのこと」
「それは、ライクの方、ですか」

いまだ震える声でそう返せば、耳元で笑い声が聞こえた。

「そっちじゃない方」

いつもの、太陽のような、さわやかで温かくて、優しい声音。つい、瞼を強く閉じてしまった。その拍子に零れ落ちる涙。彼の手の甲にぽたりと落ちて、伝って、地面へと落ちる。泣いてるのか?と抱き込むようにして覗き込まれるが、逆方向に顔を逸らす。見られてなるものか、という意地だけだが。何とかして話題を逸らしたい。ふっと浮かんだのは、古い言語。

「綴りは違えど、昔学んだ言語にあなたの名に似た発音の言葉があったんです」
「へえ……どんな?」
「ソレイユって言うんですけどね。太陽、って意味です」

この大地に必要不可欠な輝きと恵みをもたらす、唯一無二の光源。僕にとってもそれは同じ。天族として命尽きるまで、彼を守り抜きたい。大切な太陽を、陰らせはしない。けれど、今は。今だけは、この背に滲む暖かさに、そっと目を閉じて甘えていたい。

「好きです、スレイ」






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お題:診断メーカー(あなたの力でハッピーエンドにしてあげてったー)より「どうしようもなくあふれる感情をやり過ごせずに“好き”と口だけ動かす」
昔の言語の太陽=フランス語のソレイユ。デフォネームのファミリーネームがブランシュ=フランス語で白、フランス語つながりで。似てないとかはナシ×100で。でも照らすって意味では似てるんじゃないかとか言い訳



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