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自分たち二人を乗せてもびくともしない車両と、安定の走りを見せる車夫に次第にメレオロンの緊張もほぐれていく。
なにより、この車夫という運転手が見事だった。さすがプロだけあって、知識と腕力だけでなく、観光客を夢中にさせる話術も素晴らしい。
加えて元来ノリのいい性格らしく、目に入るもの全てに興味を示すメレオロンの相手もしっかりこなす。おかげで笑いの絶えない道中になった。
ちなみになまえはというと、時折話に混じることはあったものの、基本的には盛り上がる二人を嬉しそうに見つめて微笑んでいた。

そうこうしているうちに、市街を横断するように進んでいた「車」はついに目的地へと辿り着く。
山へと続く長い階段の下で二人を降ろした車夫の遠ざかる後ろ姿を見送って、さてととなまえは階段の先を指差した。
「さあ、あとはここを登れば宿だから」
「……こんな町外れにある宿って、いったいどんなボロ宿なんだよ?」
「ふふーん。まあ、それはついてのお楽しみだねー」


  ***


赤と緑に染まった葉の間からは、黄金色の光が差し込んでいる。
その中にひっそりと建っていたのは、屋根や柱にまで細工が凝らされた見事な建築物だった。

現実離れした光景にメレオロンがただただ圧倒されるのを横目に、なまえは慣れた様子で足を踏み出す。
その背を追うように門をくぐれば、待っていたのは静かだが盛大な出迎えで。従業員が並ぶ姿に、メレオロンはまた目を見開く。
「おい、本当にここであってんのか……?」
答えがわかっていても、尋ねずにはいられない。
この国の平均的なレベルなど勿論知らないが、それでもここが相当にハイレベルなところなのだろう、ということくらいは想像がつく。
そもそも、メレオロンのような異形相手にも取り乱す様を見せないのだから、相当なプロ意識の持ち主たちだ。
加えて、靴を脱ごうとするなまえにはスリッパが、靴という概念を必要としないメレオロンにはスリッパの手前に椅子と湯が、何も言わなくても用意される。
更には、おみ足お拭きしますと跪かれもしたのだが、さすがにそこまでされることには抵抗がありタオルを受け取り自分で拭いた。
本当ならスリッパも歩き辛くなるだけで好ましくはないのだが、この場でわざわざ断る程のことでもない。郷に入っては郷に従えとばかりに、黙って足を突っ込む。

こちらですと案内されるまま進むと、やがて渡り廊下が現れた。
見事な紅葉に目を奪われたのは、しかし一瞬だった。この先にある別棟を丸々指して「お部屋です」と紹介され、メレオロンは驚愕する。
いったい、この女は何を考えているんだ。そう思って傍のなまえを見るものの、案の定「いいからいいから」と笑うばかりで肝心の答えは得られない。

この場は彼女たちに付いて行くしかないと諦めたものの、混乱のあまり案内人の解説は半分も頭に入ってこなかった。



(2014.10.25)



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