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「手前……」
「せ、んせ」
 聞いたこともない情けない声で呼ばれて背筋が震えた。この声はもっと自信に満ち溢れてハキハキとしたものであったはずだ。
 どうして、臨也が。確かにこいつはなにか裏がありそうな雰囲気を醸し出してはいたが、このようなことをする生徒だとは思っていなかった。もう逃げる気力もないのか、可哀想なくらいに項垂れている。
「なにしてんだよ、こんな時間に」
「……忘れ物取りに、きました」
 切羽詰まった状況で、誰にでもわかるような嘘をつくくらいに追い詰められている臨也と、そして追い詰めているのが自分だという事実に得体の知れない感情が湧き上がる。まただ。あのもやもやとした感情が静雄の胸に渦巻く。
「じゃあなんで逃げんだよ」
 静雄の強い視線から逃れようと目をふらふらと泳がせる。逸らした視線の先を追うと、リコーダーが三つ転がっていた。そのうちの一つに手を伸ばして、窓から差す僅かな光を頼りに彫られた名前を読みあげる。六年生の間でも最も有名な悪童の一人だった。
 静雄が漠然と犯人は学校内にいるのではと考えていた理由が、今はっきりとわかった。そうだ、被害者は限りなくランダムに見えてそうではなかった。なにかしら問題を起こしたことのある生徒ばかりではなかっただろうか。
「これ、手前のじゃねえよな」
 足元を見つめて黙りこくる臨也に痺れを切らし、目線を同じ高さに揃えるために臨也の脇に手を挟んで上半身を持ち上げた。みよんと伸びた影が黒猫を連想させる。くすぐったさに身をよじった臨也を見て悪戯心が頭をもたげた。
「言わねえと帰れねえぞ」
 軽く持ち上げたままの状態で問い質すと、俯いていた顔がゆっくりとこちらに向けられる。それまで打ちひしがれたような表情をしていた臨也の顔が、一変した。
 大人を馬鹿にしたような大胆不敵な面持ちで鼻を鳴らす。あまりの豹変ぶりに思わず目を疑った。そして静雄の顔にぐんと近づいて、目の下の皮を引っ張って舌をありったけに突き出した。俗に言うあっかんべーというものだ。元の顔が綺麗なだけあって、余計に腹が立つ。
 もうどこをくまなく探しても普段の優等生、折原臨也は見つけられない。あれは臨也が作り出した精巧な仮面だったのだ。いま静雄の膝の上にいるのは、ただの生意気なガキに過ぎなかった。手のひらを返したような反抗的な態度に、今にもこめかみの血管が音を立てて切れそうだ。
「臨也くんよお、お利口さんな手前ならわかると思うけどよ、その態度はよくねえよなあ」
「なに、それ。俺、別にお利口ってわけでもないし。騙されてたそっちが鈍いんだよ」
 学校で向けられていた尊敬の眼差しや、丁寧な言葉遣いは跡形もなく消え去っていた。クラスメイト相手にさえ、臨也がこのような言葉で話すところを見たことがない。子どもにしては随分と刺々しい喋り方をするものだと、普段の穏やかなイメージとのギャップに意外性を突かれた。
 中性的なその顔立ちには、乱暴な口調は似合わない。もう帰るとなんの説明や謝罪もなしに静雄の手の中から抜け出そうとする臨也に、一瞬奥に隠れた凶悪な悪戯心が再び姿を現す。
「ひゃあ!」
 どうやらパーカーの中は他になにも着込んでいないようで、抱えていた脇腹部分の服をまくって手を突っ込むと、滑らかな肌が静雄の手に吸いついた。触れた皮膚から伝わる体温が、子どものものにしてはやや低い。
「やっなにすんだよ! 離せ!」
 素肌を触られたことに驚いてバタバタと手足を振り回して暴れるも、この年齢の子どもの抵抗など静雄にとっては痛くもかゆくもない。
「お利口じゃねえ臨也くんには躾が必要だろ」
 もがく臨也を腕の中に閉じ込め、背骨に沿って下から上に指をなぞらせるとそれを追いかけてしなやかに背を反りあげた。
「やめろ! 変態! ショタコン教師!」
 どこでそんな言葉を覚えたのかと驚くような罵詈雑言が、次々と臨也の小さな口から飛び出す。昼間の臨也と同じ口から出されている言葉だとは到底思えない。それが余計に静雄の心を刺激した。
 もし仮に素直にか細い声で「先生、やめて?」と言われてもそれはそれで火がついてしまっただろうが。とにかくいい建前ができたことには違いない。後者でなくてよかったと心底感謝した。これなら仕置をされても文句は言えない状況だろう。この作り物のように整った生意気な顔が、これからどのように歪むのだろうかと想像して思わず口元が緩んだ。
 臨也の両脇を悪意をもってさすり上げるとひゅっと息を詰めた。僥倖だ。どうやら敏感な質らしい。
「ひっ! はっや、くすぐった……!」
「さっき手前がしてきたことをきちんと話すっていうなら、これ以上はしねえでやめてやる。でも話さねえっていうならやめねえし、もっとひどくする。いいな?」
 その言葉に一瞬怯えたように形のいい眉を下げた。ゆるゆると脇腹を撫で続ければ、ぴくぴくと臨也の身体が不規則に揺れた。ん、ん、と笑うのを堪えるようなくぐもった息が漏れる。が、この程度なら我慢できると考えたのか、すぐにあの小生意気な表情へと一変した。
「こんなの、別に、怖くないし。いいから離せよ」
 静雄を小馬鹿にしたその態度に、なんて浅はかだろうと腹で笑う。今ここで話しておけばいいものを。結局は自分から話すことになるのだから。
 その白子のような肌を心ゆくまでまさぐって、生意気な臨也を屈服させたくなってしまった静雄としては大歓迎なのだが。話そうとせずにつっぱり続ける臨也に、手加減してやろうという優しさはとっくに失せていた。
 臨也が身を振るたびに静雄をはたくパーカーが非常に目障りだ。これから邪魔になると思い、有無を言わせずに薄黄緑色のパーカーを脱がしにかかった。まさかここまで本気でされると思っていなかったようで、これでもかというくらいにじたばたと暴れたが、ちょんちょんとあちこちを軽くつついてやると、そちらの方に臨也の意識が逸れた。狙い通りだとその瞬間を逃さずに、ガバッと一遍にパーカーを剥ぎ取る。臨也の身体のサイズより幾らか大きめなそれはすぽんと簡単に頭から抜けた。
 慌てて静雄の手に落ちた服を取り戻そうと奮闘するも、見せつけるように遠くの机に放り投げると諦めたように大人しくなったが、相変わらず静雄を鋭い目で睨みつけてくる。
 好きにしてくださいと言わんばかりに膝の上に置かれた芳しい匂いを放つデザートの誘惑に抗う理由などどこにもなかった。剥き出しになったもちもちとした弾力のある肌に遠慮なく指を這わせる。
「ひゃ! あははっはっは、はは!」
 うごめく静雄の手をなんとか防ごうと紅葉のように小さな手が健気に応戦するが、その手よりずっと面積の広い肌を守りきれるわけもない。まだほとんど筋肉のついていない腹をくすぐると飛び跳ねるようにびくんと身体が揺れた。
「随分かわいい声で笑うじゃねえか」
 臨也の羞恥心を煽るためにわざと嫌がりそうなことを言ってのける。目論んだ通りに臨也はそれを聞いてどうにか声を耐えようと躍起になった。
 唇を噛み締めてふーっふーっと威嚇するような息が鼻から漏れる。自由に呼吸ができない苦しさからか、その陶器のように真っ白であった肌が暗がりでもわかるほどに色づいていた。
 自分がそう仕向けたのだが、声を堪えられると聴きたくなるのが人の性というもので、より一層激しくこちょこちょとくすぐり立ててやると、笑い声を溢さぬように真一文字に結ばれた唇が小刻みに震える。その口が狂ったように笑い出すのを早く聞きたかった。
 ふと視界の端でばたついている足が気に留まる。脱ぎ履きのしやすい上履きに手をかけると、あっさりといとも容易く臨也の足からずれ落ちた。
 子どもらしいうさぎのワンポイントマークが施されたロークルーの白い靴下が際立つ。なにをされるか察した臨也は、ぽこぽこと力の抜けた両腕で静雄の胸板を殴りつける。さして気にすることもなく、向かい合わせだった臨也を反転させて臨也の背が自分の胸につくように足の間に座らせた。
「やあああ! はっあはははっはっやっあはっ」
 左腕を臨也の胴に回して固定ながら右の脇腹をくすぐりつつ、投げ出された小さな右足を捕まえて責め立てる。足裏が弱いのだろう、堪え切れなくなった笑い声が夜の図書室に響き渡る。
 指の根元あたりを虐めると、ジャンケンのグーのように指を縮こめた。ではと土踏まずを責め立てると今度は指を最大限に伸ばしてパーの形になる。連続してくすぐるときゅっきゅっと刺激に耐えるように足指が閉じたり開いたりを繰り返すのが愛らしい。
「ははっひっ……ははは……!」
 笑いすぎて酸素が取り込めなくて息が苦しくなってきたのか、艶やかな声が掠れている。見た目よりずっとくすぐられるという行為が苦しいのは静雄も理解しているつもりだ。あまりに臨也が可愛らしいのでつい夢中になりすぎていた。
 一旦手を離してやると重力に逆らわずぐったりと静雄にもたれかかり、必死に酸素を取り込もうとするのに合わせて全身が大きく揺れ動く。徐々に忙しなかった呼吸が落ち着いて、深いものへと変わっていった。その姿を見てついうっかり、かわいいなどと口走ってしまう。ものすごい形相で睨みつけられたが、嗜虐心をそそられただけだ。
「で、六年の教室でなにしてたんだ?」
 脇腹をくすぐったさを感じない程度にさすると、びくりと靴下に描かれていたか弱いうさぎのように臨也の身体がぴょんと跳ねた。脅しの意図を汲み取ったのだろう。仮に臨也にうさぎの耳がついていたとしたら、既にそれはぺしょんと力なく垂れ下がっているはずだ。
 意識的にゆっくりと手を臨也の腹から首筋、頬へと当てていく。静雄の手を嫌がって眉を顰めるのがどうにも愛くるしい。今度は先ほどのように目を逸らすことなく、キッと静雄を睨み続けている。昼間の従順さは面影もない。
「さあ、ね」
 これまで通りの生意気な返答だったが、虚勢を張っているのが見え見えだった。きつく握られている小さな拳がぷるぷると震えている。どこまでこの態度がもつか見ものだ。言わないのだからやむを得まいとくすぐりを再開する。
 臨也もこれ以上好きにさせてたまるかといったふうに激しく足掻いた。あまりの猛攻に支えきれなくなった静雄の上から落ちてしまい、床に腹ばいになるように転がったが、静雄からすれば却って好都合だった。
 丁度よくこちらに向けられた両足を隠している靴下を脱がすと、臨也の手が床を叩いて抗議する。つうっと角質など全くついていない柔らかい足裏を堪能すると「や!」と鋭い声とともにびたんと上半身が跳ねた。まるで地上に放り出された魚のようだ。
 そんな抵抗など意に介さず、敏感な臨也の足裏に触れるか触れないかの刺激を与え続ける。体勢的に静雄がいつまた、その動きを激しくするのか自分の目で確かめられないのが怖いのだろう。マシュマロのような足にほんの少し爪を掠める度、大きく不安げに身体を揺すった。そろそろ期待に応えてやるかと、引っ掻くように足裏をくすぐる。
「ひっあはっはははは! ははっふあっ」
 甲高い声が酸素を奪われ徐々に萎んでいくが、まだまだいけるだろうと責める手を休めることはしなかった。さらに複雑に指を這わせると、背中を反らしてぺちぺちと丁寧にワックスのかけられた木の床を叩く。
 うつ伏せに寝かされ足裏を責め立てられ、一切抵抗のできないこの行為はどれだけ小さな臨也の横隔膜を苛んでいるのだろうか。
「あはは……! くるっはは……息っ……」
 そろそろ呼吸がもたないかと、名残惜しそうに両手を離す。顔が見たくて臨也の身体をひっくり返すと、なんの抵抗もせずにおとなしく仰向けになった。急にたくさんの酸素が入り込んだことに驚いて、溺れたあとのようにけほけほと噎せ返る。石榴のような透き通った瞳にはたっぷりと涙が浮かんでいた。ぞくぞくと鳥肌が立つ。
 そしてこの瞬間に悟った。静雄が普段臨也に感じていたのはこれだ。まぎれもない劣情だったのだ。臨也が罵ったショタコンなどという気はないはずなのだが、どうやら臨也は別ものらしい。難しいことを考えるのは苦手なのでとっとと思考を切り上げた。いまは目の前の獲物に集中したい。
「手前、本当にくすぐり弱えんだな」
「あっ、ひ!」
 首筋をただ撫でただけなのに首を亀のように引っ込めて手で覆う。身体中のあちこちが敏感になっているようだ。力の抜けきった両手で静雄の手をつかんで引きはがそうとする臨也に、ますます加虐心を煽られた。
 腰のあたりを緩くさすると必死に小さな手が追いかけてくる。まるで数十分程前の追いかけっこのようだ。立場はすっかりと逆転してしまっているのだが。
 臨也の手が静雄の手首をぐいぐいと掴んでむしり取ろうとするのも気にしないで、そのまま柔らかい腹を伝い胸の方まで手を持っていくと、自然と覆いかぶさる臨也の手もついてくる。思わず口角を上げた。
「それ、いいな。なんか強請ってるみてえでよ」
 殊更優しく笑いかけると、直ちに静雄の手首を掴んでいた手をばっと離した。その手を捕まえて一つにまとめ、臨也の頭上に縫いとめる。様々な弱点が露わになった格好に、身をくねらせて激しく抵抗した。
「なあ、言わねえの?」
 俺は構わねえけど、と付け足すと潤んだ瞳に怯えが走る。それでもその口は固く閉ざされて開くことはなかった。全くなんて頑固なのだろうと、思ってもいないため息をつく。それではと、無防備になった脇の窪みを責め立てた。
「ひゃはっはははは! はっひっやっははやめっはははっ」
 やはりここも弱いようで、よく通る笑い声が本来静かにしなければならない図書室に響き渡る。ここが学校の図書室だということを思い出して今になって湧き起こった背徳感が、一段と静雄の熱を燻らせた。
「おら、だらしねえ顔になってんぞ。さっきまでの強気はどうしたんだよ」
 その言葉を聞いて一瞬緩んでしまっている顔を引き締めるがそれも虚しく、すぐにあどけない笑顔へと変わる。笑いたくもないのに無理やり笑わされ、きっと臨也のプライドはずたずただろう。
「やーーっうんんっやっははは!」
 もっと近くでその顔がみたいと、臨也の身体に顔を近づける。そしてあるものを見つけてしまう。今まで暗がりのためにはっきりとはわからなかったが、この距離だと見逃しようもない。小さな乳首がぴんと勃っていた。臨也の歳でも性感を感じるのだろうかと、興味本位でそこを弄った。
「ひあん!」
 自分の声にびっくりしたのか、こぼれそうなくらいに目を見開いている。きっと両手が自由であればその手は反射的に顔や口を覆ったことだろう。触れられた部位に羞恥心を感じたのか、ゆるゆると首を振って言葉にならない何かを否定している。
「おっぱい、気持ちいいのかよ」
 あえて露骨な言葉を選んでやると、臨也は絶望したような顔をみせた。男なのに、なんでといったようなところだろうか。そういった知識のない年齢にはショックが大きいのだろう。
「ち、ちが……」
 鈴のように転がる声に、少し前までの覇気はまるでない。語尾が弱々しくすぼんでいる。
「そうか? 結構よさそうだけどよ」
 多少暴れられても両手の方が楽しいからと、手前勝手な都合で手首を解放してやった。
 あえて主張する乳首には触れずに、その周りをわきわきと責め立てる。静雄の手を引きはがそうとした臨也の手が一瞬、空中で止まった。先ほど言われた言葉を気にしたのだろう。迷う臨也を誘うようにくすぐりを柔いものにする。今ならどうにかできると思ったのか、静雄の企み通りにその手はぎゅっと静雄を手を掴んだ。
「ひいっははっなんっははは!」
 露骨に激しさを増したくすぐりに嵌められたと気づいたのだろう。その手はまるで追い縋るように静雄の手をきゅうきゅうと握りしめる。そして偶然を装って胸の飾りに触れると明らかに声の色が変わった。
「あん! ひっあ!? はははっふぁっあ、ひっ」
 違和感を感じたのか、静雄を掴んでいた手がパッと離れ、乳首を覆い隠そうとする。その無知な様にたまらなく春情をそそられた。
「臨也、手前エロすぎ」
 臨也の顔がくしゃっと歪んだ。隠さなければ虐められるし、隠したら隠したでエロいと不本意な指摘を受ける。もうどうしていいかわからないといったような途方に暮れた表情を浮かべた。あんまり虐めてもいけないのだろうけれど、もう歯止めがきかなかった。
 胸を諦めたフリをして捲れあがったハーフパンツから覗く太ももに手を伸ばす。無駄な毛などまだ少しも生えていない綺麗な肌だ。白い肌が月明かりに照らされて真珠のように輝いている。
 手が入る限りのところまで突っ込む予定だったが、結局尻にまで届いてしまった。下着や膝下丈のズボンが邪魔だったが、さすがに下を剥くのはまずいと思い留まる。手に張り付く弾力のある尻をやや強めに揉みしだくと甲高い声が上がった。
 くすぐったいのかそれとも別のものを感じているのか、ビクビクと身体が反応する。刺激に耐えきれなくなったのか、両手でズボンの上からまさぐる静雄の手を押さえつける。守るものがなくなった乳首をここぞとばかりにくすぐってやると、油断していた箇所への急な刺激に身を震わせた。
「やっだ! ひ、あはっふふふっうっはは!」
 上半身を起こして前かがみになって静雄から胸を隠そうとする。それならと背中に手を移動させると大袈裟なくらいに反り返って胸を突き出す。あまった片手でふにふにと尻を揉みながら突き出された胸をくすぐるという行為を何度か繰り返した。臨也も静雄が喜ぶとわかっているのだろうが、反射的に身体が反応してしまうのだろう。かなりつらそうだった。
 だんだんと可動範囲を狭める布が煩わしくなってきて、ついにハーフパンツも脱がしてしまおうと思い至る。臨也も嫌がって必死にゴムの部分を引っ張り抵抗するが、脇腹をくすぐってやるとあっさりと小さな手が離れた。
「うそっひあっははは……っひっど……はうっ」
 隠すものがなくなり露わになったカモシカのような足を、どこからどう虐め抜いてやろうかと手を這わす。そして特別反応のよかった皮膚の薄い膝小僧やその裏の膝窩に目標をしぼった。
「ふやああ! やっめはははっはっくるっし、ふはは!」
 膝裏を責めるときゅっと太ももと脹脛をくっつけるようにして隠し、膝小僧を虐めてやると今度はピンと脚を張り詰める。交互にリズムよく責め立てるとガクガクと膝が大袈裟に震えた。時々下着の上から鼠径部をなぞってやると、大きく身体が跳ね上がった。
 ばたばたともがいてこちらに背中を見せるようにして床に突っ伏す。待ってましたと言わんばかりに、下着の上から魅惑的なその尻を強調するように指を沈め込んでぐにぐにとしだいた。
「んはっふ、はあん! あ、はっひい!ははっは、はっ」
 ふりふりと小ぶりな尻を振って静雄の手から逃げ惑う。止めと言わんばかりにあえて残しておいた足裏にターゲットを戻した。
「あっあっはは! やっはっ……! ひっ!ははっ……ふはっ」
 指の隙間から、血管が透ける美しい甲まで丁寧にしつこく撫で上げる。きっと折れるのは時間の問題だ。時折いくらか苛めるペースを緩めてはやっても、完全に呼吸を自由にする休憩を与えられずに続くこの責め苦を耐えられるはずもないだろう。
「はっはっ……ひっはは……! ごめっさい! ひゃはっゆっして……っ」
 静雄の読み通りにすぐにその時はきた。笑い泣きながら謝り、赦しを請うその姿はとても可憐で庇護欲が掻き立てられる。素直になったことに免じて両足を解放してやると、臨也の喉の奥が引きつったようにひゅーひゅーと鳴った。
「ふっ………ひっう、も、やだあ……!」
 本格的に泣き出してしまった臨也を起こして抱えこみ、あやすように背中をぽんぽんと軽く叩く。決壊してしまった涙腺の止め方もわからずに静雄の服にしがみつき、ぐりぐりと頭を押しつけてくる臨也を黙って受け止めた。
 しかしそれだけでは臨也を安心させるには足りなかったようで、コアラが木に巻きつくように足を静雄の背に回してしがみついてくる。そして、察してしまった。本人は気づいていないようだが、勃起している。
 くすぐられるという行為は一定の年齢を超えると快感に変わるとなにかで読んだことがあった。臨也も先ほどまでの行為に快感を見出したのだろうか。
 どうしたものかと頭を悩ます。正直にここにいた理由を話したら溜まってしまった欲を吐き出させてやってもいいし、そうでなかったらまだ未発達のそこを虐め抜いてもいいしと優しく臨也を抱える腕とは裏腹に恐ろしいことを考えていた。
 徐々にしゃくりあげる声が弱まっていくのを感じて、やんわりとしがみつく薄い身体を剥がしてやる。
「落ち着いたか」
 自分で虐めておいてなんという言い草だとも思ったが、臨也は気に留めなかったらしい。いや、気にするような余裕もなかったのだろう。
 両手でつぶらな目をごしごしと擦って涙を追い払っては、濡れた頬を拭っている。強く擦ったせいでうさぎのように充血した瞳の周りの皮膚もわずかに赤くなっていた。
「最後のチャンスだ。わかるな?」
 ふっくらとした臨也の頬を包むように片手を添えた。うるうるとした目で見上げられ、また激しく責め立ててやりたくなってしまったのをなんとか自制する。
 正直なところ、虐め足りない。自分の中にこんな過激な感情があるなんて今の今まで微塵も知らなかった。
 もし叶うならその真っ白な肌によく映えるであろう赤いロープで手首を縛って天上から吊るし上げたい。爪先立ちにさせてありとあらゆるところから責め抜いて、自らの手で臨也を踊らせたかった。
 それともあのヨーロッパのどこだかにある国で有名な祭りのように、体育館に人を集めて公衆の面前で臨也を拘束台に磔にしてくすぐり倒すのも一興だ。台の上に寝かせて手を縄で縛り上げ頭上で固定し、足首も動かせぬように木の枷に嵌めこんで、暴れても外れることのないようにとしっかりと鍵をかけてしまう。
 参加者には鳥の羽やブラシといった様々なアイテムを手渡して、好きなようにくすぐらせる。たくさんの手に甚振られ、老若男女問わぬ観客に視姦され、きっと臨也は羞恥で顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくるだろう。
 いや、だめだ。臨也のそんな顔を見ていいのは自分だけだ。そこまで考えてはっとする。いつの間にかすっかり臨也に独占欲を抱いてしまったらしい自分を苦々しく思った。
「ものを、隠してた」
 突然の臨也の告白にようやく我に返る。妄想に耽って今の状況をすっかり忘れていた。白目の部分が極端に少ない臨也の瞳は、静雄の目を決して見ようとはしない。
「なんでそんなことしてたんだよ」
 目を見て話をしようと覗き込めば、ビクッと反射的に細い身体を強張らせた。静雄が怖くて仕方がないのだろう。縋りつくように静雄のワイシャツに皺を作っていた小さな手は、いつの間にか外されている。
「俺が、悪い子だから」
 疲れ切ったように吐き出された言葉はどこか投げやりだった。そういうことが聞きたいわけではないと、再び追求する。
「ちげえだろ、本当のこと言えって」
「本当だよ。それだけ」
 どうしたものかと眉を顰める。膝に乗せたままの臨也を抱え上げて腕の中でひっくり返す。脇に手を入れただけで一瞬息を止めた臨也がどうにも可愛らしい。
「言えたらご褒美、言えなかったらお仕置きだ」
「なに、するの」
 恐々と顔を振り向かせ、怯えを湛えた瞳でこちらを窺った。つい先ほどまで生き地獄を味あわされて、これ以上に酷い手打ちを想像できないのだろう。
「手前、精通してんのか?」
 唐突に知らない単語を耳にしたように、小首を傾げてきょとんとした。この様子ではまだなのだろうと推察する。臨也の股の間で主張するそれを下着の上からやわやわと揉んでやると、短く声を上げて腰を引いた。
「やだっ、なんでそんなとこ……!」
 おずおずと隠すようにそこを両手で抑えるのがなんともいじらしい。もじもじと控えめに太ももを擦り合わせているのはきっと、無意識のうちに未知の感覚を誤魔化そうとしているからだろう。
「このままじゃつれえだろ。だから言えたら楽にしてやるし、言えなかったらもっと苦しくする」
 最初と同じような脅し文句に、白い顔をさあっと青くしたのが横顔だけでもはっきりとわかった。
「いう! いうから! やだ、手、やだ! やめて!」
 尚も静雄の好きなようにそこを弄り続けると、焦ったように切願する。生意気な態度はすっかりと鳴りを潜めていた。だが、臨也が自分から話してくるまでやめてやる気は毛頭ない。
 もう片方の手で乳首を弾いてやると、弓なりに背を仰け反らせた。先ほどまでとは異なる、性感を煽るいじり方だった。
「ひゃっあ! あ、だめっそれだめ! へん、なの!」
 動きを止めない静雄の手に観念したのか、ようやくぽつぽつと話し始めた。話す合間に嬌声が混じって、切なそうに眉を寄せる。
「んんっ……俺に、嫌がらせっするから……う、んっ仕返し、して、た……!」
「嫌がらせ?」
 なんのことだと疑問を抱く。臨也は人気こそあれど、人から恨まれるようなことなどはしていないだろう。少なくとも、学校ではそのはずだ。
「あっ手、とめ、あっ……靴隠したり、呼び出されたっり、して……!」
「……なんだよ、それ」
 手を止めてやるとはあはあと浅く息をする。弱々しい視線は落ち着かずに宙を彷徨っていた。
 てっきり臨也は他学年からも人気があると思い込んでいたのだ。臨也に言われてやっと気がついた。人気の裏には嫉妬が隠れているという当たり前のことをなぜ忘れていたのだろうか。それは子どもの社会の中でだって同じことだ。
「気にくわないん、だって。目立つからって」
 悔しそうに告げられたそれが嘘ではないのはすぐに分かった。なんだか少しだけ罪悪感を感じてしまう。臨也が夜の校舎に忍び込んで好き勝手やらかしたのは事実だが、このような手段を用いて詰問したのは自分の欲望のためだということはとっくに理解していた。
 主張する下着の中身を抑えながらそろりと立ち上がろうとした臨也を、もう一度膝の上に座らせると戸惑った声を上げた。
「えっなんで! ちゃんと、言ったのに!」
 裏切られ傷ついたような顔をして、震える声で嘘つきと静雄を詰る。臨也からしてみれば、どちらもそこを触られるという意味で同じなのだろう。
「ああ、だからご褒美だ」
 下着をずり下げると幼い性器が勃ち上がっていた。毛など一切生えていない。恥ずかしさからか、薄っぺらい身体が固くなって熱を持つ。こういった形で普段隠されているそこを他人に暴かれたのだ、当然ショックだろうと他人事のように考える。
「こんな! いらない!」
 臨也はぶんぶんとちぎれんばかりに細すぎる首を振り、嫌だと哀願する。長い睫毛がわずかに湿っていた。
「じゃあ、ちんここのままにして帰るのか?」
 それは、とか細い声が返答に詰まった。今にも再び泣き出しそうなのが背中越しにも伝わってくる。子ども特有の柔らかい髪を何度か宥めるように梳いてやった。上質な絹糸のような肌触りが癖になりそうだ。
「それにな、これは大人になるために必要なことなんだ」
 諭すように授業中のような声音と調子で語りかける。それでもなかなか首を縦に振らない臨也に、怖いかと優しい声で問いかけた。すると思った通りに、怖くないと噛みつくように乗っかってくる。まだまだ子どもだ。
「じゃあ頑張れるな」
 頭を撫でてやるとこくんと素直に頷いた。臨也の許可を半ば無理やり引き出して、主張する性器を覆っていた皮を剥いてやると桜色の先端が顔を見せる。まだ大人になりきれていない未熟なそれをくりくりと刺激する。
「あっ……んぅっ……ん、ふあぅ」
 臨也の眉が苦しそうに八の字に垂れさがる。悩ましげな息遣いが静雄の肉欲を昂らせた。臨也が怖がらない程度に上下に扱くスピードを速めてやると、気持ちがいいのかゆるゆると腰が揺れ出した。
「んン! ……んっ……ああッまっ、まって、だめ!」
「なんでだよ、気持ちいいだろ?」
 静雄の問いかけに反応はなかった。とにかく込み上げてくる快感をやりすごすことに精一杯のようで、静雄がなにかを言ったのはわかっていてもその内容を理解する余裕がないといった様子だ。そろそろだろうかと、臨也の先端に親指を何度か軽く突き立てた。
「あっこわ、い! へん……! や、きちゃっ、なんかきちゃ、ーーうあッ」
 数回びくびくと震えて搾り出されたそれを、手のひらで受け止める。忙しなく呼吸をして、くったりと力の抜けた身体は支えを求めて静雄の腹にもたれ込む。
 とろりと膜の張った目は今にも閉じられそうだ。これで、いいのと答え合わせをするような瞳でこちらを見上げる臨也に柔らかく微笑みかける。
「せんせい……」
 安心したように形のいい貝殻のような瞼がゆるりと閉じられた。汗と涙で張り付いた前髪をそっと払ってやる。なにを求めているのかを感じ取って、欲している言葉を与えてやる。自分で思っていた以上に穏やかな声だった。
「よくできました」


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