“今日の昼休み、屋上に来い。じゃないとお前の秘密をばらす”




「何見てんだ、初音」

『ラブレター』

「違うじゃろ」


朝学校に来ると、下駄箱に入っていた封筒。開けて中を見ると綺麗に折りたたまれた綺麗な花柄の便箋が入っていた。
その便箋には到底合わない黒のマジックペンで書いてあったのは呼び出しの内容。

ブン太と雅治は便箋を覗き込んでいる。


「秘密ってなんぜよ」

『私が聞きたい』

「わかんねぇのかよ」

『うん、思い当たらない………あ、』

「何か思いだしたんか?」

『ごめんねブン太』

「何が?」

『この間、ブン太のお菓子つまみ食いした』


そう言うと、一瞬固まった後ブン太が私を指差して叫びだした。
雅治はお腹を抱えて爆笑している。


「あぁぁぁああぁああっ!!!お前か俺のムースポッキー食ったの!!」

『雅治も共犯者だから!!!』

「プリッ」

「におおおおおおおおおおお!!!!許さねぇ!!返せ、俺のポッキー!!!」




何故か標的は雅治に代わり、ブン太は怒って雅治を追いかけ、雅治は飄々と逃げ回っていた。
とりあえず、ブン太のお菓子は食べないほうがいいらしい。

追いかけっこから帰って来たブン太はぜぇぜぇと荒く息をしていた。反対に雅治は汗ひとつかかず爽やかだ。
ポケットに入っていた飴をブン太にあげると、子供のように喜んで口に入れた。
どうやら機嫌は直ったようだ。


その後も特に誰もあの手紙に触れず午前の授業を過ごした。
四時間目のチャイムが鳴るまで私はその手紙の事を忘れていたし、ブン太も雅治も居眠りしてるし。

弁当食おうぜ、とブン太に誘われた所であの手紙の存在を思い出した。


『あ、私呼び出されてるから。いってきます。』

「待て待て待て!!」


ブン太に腕を掴まれてまえに進めなくなった。振り向くと二人とも同時にため息をついた。
昼休み、朝の手紙通りに屋上へと向かおうとした。どうやら二人はそれを止めたいようだ。


『何で?』

「おま、何でって」

「なんじゃ、怖くないんか?」

『うん。何か誤解されて呼び出し食らったんならとりあえずその誤解を解きたいの。もし違うんなら、聞き出すし。

でも本当は、相手がどんな秘密持ってるか知りたいの。』



「そっちかよ」




呆れた様に肩を落とす二人を置いて、私は屋上へ向かった。
屋上へ行くと、すでに五人くらいの女の子が仁王立ちして立っていた。とてつもない香水の匂いで鼻が麻痺しそうだ。

もうすでに顔の原型が良くわからない程厚く塗られた化粧に驚いた。



「初めまして福永さん。私はテニス部のファンクラブの会長をさせて頂いております。」

『初めまして。よろしくお願いします。』

「何故ここに呼び出されたかわかる?」

『わかりません』


正直にそう言うと、クスクスと笑い声が聞こえた。
そんなにおかしい事言ってないと思うんだけどな。


「単刀直入に言わせて貰うと、テニス部のマネージャーを辞めていただきたいんです」

『何故ですか?』

「邪魔だからよ」

『理由になってないですよ、それ。』


そう言うと眉間に皺を寄せ、不満そうな顔をしたファンクラブの会長さんは、ため息をついて私に一歩近づいた。
最近私、ため息つかれすぎじゃない?



「仕方ありませんね。では武力行使でこちらは行かせていただきます。」

『え、ちょ…!!』


いつの間にか私の背中側に回っていた女子に体を抑え付けられ、身動きが取れなくなってしまった。
抵抗していると、お腹に衝撃が走る。前にいた会長の子が私の鳩尾辺りを蹴っ飛ばしたのだとわかった。


「つーか馬鹿じゃん?秘密なんか持ってないのにくるなんて。」

「あまり汚い言葉を使うんじゃありません。お里が知れますよ?」



私を蹴りながら繰り広げられる会話を意識が飛びそうな頭で聞く。あぁ、秘密はないらしい。騙されたのか、私は。
こんな事なら雅治とブン太の言う事ちゃんと聞いておけばよかったなぁ。


ぎりぎりで保っていた意識を手放し、私の前は真っ暗になった。
最後に聞こえたのは、甲高い女子の笑い声だった。





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