「初音帰ってこないな…」
「そうじゃな」
初音が果たし状の相手の所に行ったままなかなか帰ってこない。俺は気が気じゃねぇし、仁王だって冷静装ってるけどさっきから貧乏揺すりしまくってる。
時計の針が進むのが何だか異様に遅く感じる。
隣の仁王もチラチラ時計を確認してはため息をついている。
「機嫌悪いな…」
「なんじゃブンちゃん」
「べ、別に。」
仁王不機嫌すぎるだろ…!!何で帰ってこねぇんだよ。
だからさっき行くなって言ったのに…。もっと強く引きとめておけば良かった。
そんな後悔をしながら聞いた授業開始のチャイム。
担当の教師が入ってきたって言うのに、初音は帰ってこなかった。
「初音探してくる」
「お、おい仁王!!俺も行くって!!」
初音の不在に耐え切れなくなった仁王は、授業が始まったにもかかわらず教室から出た。仁王が放つそのドス黒いオーラに担任もクラスメートも何も言えずにいた。
初音が呼び出されたのは屋上だったはずだ。
屋上へと続く階段を一段抜かしで駆け上がる。その際に見た仁王の顔は試合でもなかなか見れないほど焦っていた。
屋上の重い扉を開け、初音の名前を呼ぶと、さほど遠くない距離から返事が返って来た。そっちの方向に走ると、壁にもたれかかって手を振っている初音を発見した。
ブラウスにはかすかにだけど足跡が残っている。誰かに蹴られたのか?
よく見るといたる所に足跡が見え、血が滲んでいる所もあった。
「お前さんこんな所で何しとるんじゃ」
『うーん…休憩?』
「休憩ってお前…」
「怪我はないんか」
『うん、だいじょぶです』
笑って初音はそう言ったけど、全然大丈夫じゃねぇだろぃ。
こいつリンチされたんじゃね?誰かはわかんねぇけど、多分そうだ。
誰だよ、初音にこんな事しやがったの…。
そんな怒っている俺の横を仁王は通り過ぎて、初音を抱き寄せた。
「心配させるんじゃなか」
驚いていた初音もごめんと言ってニコニコ笑った。
そしてあやすみたいに仁王の背中をポンポンと叩いた。
五時間目の授業はすでに10分以上経過していた。教室に戻るのも面倒だから、と三人でサボることにした。その後三人で教室に戻り、午後の授業を受けた。
授業中俺は、今日部活終わったら幸村君の所に行こうと思っていた。
幸村君ならもしかして初音をリンチした奴の目星がつくかもしれないと思ったから。
俺の頭じゃ全然駄目だし、幸村君の知恵を借りようと病院へ行った。
「幸村くーん」
「珍しいね、丸井が一人で来るなんて。迷わなかったかい?」
「迷わねぇよ!!だって…」
何度も来てんだからよぃ、と言おうとしたけどその言葉を飲み込んだ。
何か言っちゃいけないような気がした。
考えてみたら、幸村君は冬からずっとここにいて、テニスしてないんだ…。
なんか初音の事も言ったらまずいような気もしてきた。
そんなチキンな俺が出した話題は、後々相当なミスだった事を思い知らされるんだけど。
「なぁ、仁王って初音の事好きなのかなぁ」
「ブッ!!」
「うわっ大丈夫かよぃ!?」
「ゴメン、大丈夫…」
いきなり飲み物を吹き出した幸村君。病気のせいかと思ったけど違うみたいだ。
幸村君はハンカチで口の周りを拭き、話し始めた。
「何でそう思ったんだい?」
「仁王がさ、初音の事本気で心配しててさ。あいつ、女あんま好きじゃないじゃん?なのに抱き締めちゃったりしてたし…」
「抱き締めたァ!?」
「お、おぅ…」
いかなりすごい顔で俺を見た幸村君。超怖い…。病気のせいかな。いや元々か。
つか、そんな怒んなくても。あれ?何で怒るんだ?
仁王がその辺の女抱き締めるなんてよくある話じゃん…。ま、それで問題起こしまくってるわけだけど。
「え、ちょっと待って。もしかして幸村君さ…」
「…………」
「初音の事、好きだったりする…?」
「………………」
「図星かよぃ…」
珍しく黙りこくった幸村君。どうやら図星だったようだ。
てか随分面倒なやつらに好かれたな、初音。
そして幸村君も面倒な奴を敵に回しちまったらしい。
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最近「ブン太に」って変換したいのに「ブン太煮」ってなる。
何でだろう…(笑)
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