『精、市……』

「うん、ありがとう初音」


彼女の顔は真っ赤だった。その顔がまるで俺の今の顔を映しているようで何だか恥ずかしくなっていった。
顔に集まる熱を俺は隠し、いつもの笑顔を作った。

その笑顔すら俺はちゃんと作れているのかわからなくてさらに恥ずかしくなった。


「もうこんな時間だ。部誌ありがとう。じゃぁ、またね初音。」


もう一度名前を呼ぶと、何だか彼女への愛しさがこみ上げてきて、彼女を無性に抱きしめたくなった。
その衝動を理性で抑え、彼女が病室から出るのを確認してから布団にもぐりこんだ。

顔が熱い。体も熱い。
脳裏に蘇ったのはさっきの恥ずかしそうな彼女の顔。そして安心できるあの笑顔。
彼女は丸井達に名前を呼ばれたときもあんな顔をしたんだろうか。

“丸井”という単語が脳内に出た瞬間、俺に何か冷たいものが流れた。
何だこれ。嫉妬か?


彼女にどんどん惹かれていくのが分かる。優しい笑顔に、小さな手に、細い足に。そして、温かい心に…。

全部に魅せられていく


今まで、感じたことのない気持ち。心が熱くなるこの感じ。
かなりくだらない事で嫉妬してしまう情けなさ。


彼女への気持ちに気付くのに時間は要さなかった。
俺は初音が好きなんだ。



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