「福永ドリンク!!」

『はい!!』

「タオル頂いていいですか?」

『はい、どうぞ』

「先輩、怪我しました」

『え、どこ?』



幸村君の爆弾発言から2週間が経ち、テニス部の顔も大体頭に入ってきた。
想像はしてたけど、やっぱりマネージャーって大変。
以前はマネの仕事は全て一年生がやっていたらしい。普段の練習に加えてマネ業。これは確かに大変そうだ。
皆運動量がすごいから、ドリンクもタオルもすごい量のものが必要だしね。

後、真田君がスパルタなせいで怪我人が多い。さっきも切原君が膝をすりむいて私のところへ来た。

幸村君は正義感が強そうだから、人一倍部活の事を考えてる。だから私にマネージャーを頼んだのかな。

私の仕事は部員のサポートはもちろん、試合のスコアをつけたりもする。
他校のデータを集めるのは結構楽しい。実は柳君に少し情報収集のコツを教えてもらった。


とりあえず今は部活日誌を書いている。部員の出席状況、今日の活動内容なんかを適当にまとめて書く。毎日書いてて思うけど、こんなに練習していて体は壊れないのだろうか…
そんなことを思いながら部誌を書いていると、練習が終わったらしく皆が部室に入ってきた。


『お疲れ様』

「あぁ、お前も」


私がお疲れ様、と言うと真田君はお前も、と言ってくれる。最初、顧問の先生だと思っていたのが申し訳なく思える。ごめんね真田君。


「初音!!ドリンク美味かったぜぃ」

『ありがとう、ブン太』

「タオルもふかふかじゃ」

『柔軟剤の力だよ、雅治』


この二人とも名前で呼ぶようになり、距離が縮まった。


「二人ともずるいっス!!俺のことも名前で呼んでくださいよ初音先輩!!!」

『あはは、分かったよ赤也』


この三人とは割りと仲がいい。もともと人懐っこい性格の赤也。そして同じクラスであると発覚した雅治とブン太。
あまり人を名前で呼んだことのない私からすると、この三人との出会いはとても貴重なものだったように思う。


『あっ、ごめん…もう行かなきゃ』

「今日は、病院へ行く日だったな」

『うん、ごめんね』

「いや、今日もありがとう。しっかり休めよ。」


今日は沙希のお見舞いと幸村君のお見舞い。部活の後に行く場合は、皆よりも一足先に学校を出る。
バスに乗って病院まで行く。途中でお花と果物、沙希にあげるためのゼリーを買った。


『沙希、あっ……』


沙希は寝ていた。よかった今の声で起きなくて…。
ベッドの近くにある椅子に腰掛け沙希の頭を撫でる。
腕には点滴がつながれていた。

もうすぐで手術…。
成功したら…そしたらたくさん遊べるからね。


買ってきたお花を花瓶に生けて、ゼリーをテーブルに置く。
いまだ起きる気配のない沙希の頭をもう一度撫でて、病室から出た。


次は幸村君。


ノックすると、中からどうぞの声。扉を開けて病室に入る。


「こんにちは、福永さん」

『こんにちは、幸村君。これ、お見舞いと部誌ね』

「いつもありがとう」


部誌を読み始める幸村君。その間に私は買ってきたお花を花瓶に生ける


「丸井や、仁王とはどうだい?」

『二人とも見た目と違って優しいね。ブン太はすごいドリンク飲むのに、雅治はあんまり水分を取らないみたい。』


「ブン太に雅治…」

『どうかした?』

「あの二人と随分仲良くなったんだね」

『うん、同じクラスだしね』

「福永さんは何て呼ばれてるの?」

『初音』

「そっか、俺もそう呼んでいいかな?」

『もちろんだよ、幸村君』

「俺のことは、名前で呼んでくれないのかな?」

『え?』


名前で呼ぶ…えっと…幸村君の下の名前は…


『せ、せいいち…君』

「精市でいいよ」

『精、市……』

「うん、ありがとう初音」


名前を呼ばれる。ただそれだけなのに、発作でも起きるんじゃないかってくらい、今の私は心臓の音がうるさい。




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